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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学5巻4号

1954年02月発行

雑誌目次

巻頭

助教授採用試驗

著者: 江上不二夫

ページ範囲:P.147 - P.147

 これは昨年(1952年)のフランスの話である。私が親しく交わつた2人の生化学者が同時に助教授採用試験を受けた。P.MandelとR.Michelである。前者は核酸生化学で,後者は甲状腺ホルモンの生化学で,その業績は世界的に高く評価されている。
 2,3の大学医学部で生化学助教授の籍があいた。それを補充する。希望者を公募する。応募者は試験を受ける。A, B二つの箱がある。NHKの"私は誰でしよう"のようだ。各々の箱には沢山の問題が入つている。二つの箱から一つづつ問題をひきだす。受驗者は直ちに図書室に入れられる。Aの箱からとりだした問題を4時間で調べるのである。これは人に相談してはいけない。4時間後に講義室に導かれる。そこには審査員一同の他に,研究室の同僚,友人,学生,一般の生化学者,それから家族等が待つている。そこで順次に与えられた問題につき約30分の講演をするのである。審査員は盛に質問をする。一般聽講者の質問も許される。それから2日後にBの問題についての同樣な発表会がある。この方は講演時間は長い。1時間か1時間半であつたと思う。この間の2日間の勉強については全く自由である。

綜説

原形質流動の生理学的研究

著者: 神谷宣郞 ,   中島宏通 ,   阿部重美

ページ範囲:P.148 - P.157

 Ⅰ.まえがき
 原形質流動の生理学的な研究は昔からいろいろの材料で行われてきたが,定量的な研究の対象となつたものは殆ど流れの速さに限られていた。しかし流れの速さは,流れを起す力(原動力)以外に原形質自身の粘性の変化によつて著しい影響を受けるから,特定の条件下で起る流速の変化を一歩原因に遡つて理解するためには,それが原動力の変化によつて起つたものか粘性の変化によつて起つたものかを明かにしなければならない。従来の実験方法ではここの点を正確に解析することができなかつたために,流速に関する実験データはその内容の意昧を理解し難く,原形質流動の生理学的研究は事実上この点で行詰つていたといえる。
 この障壁を乗越えるためには,流動の原動力を直接計量する方法が見出されればよい。原形質流動の原動力の測定には,現在では次に述べるような材料と方法による一つの途が拓けている1-5)。われわれはそこで,まず正常の原形質の流動力を測定し,それがいろいろの実験条件下でいかに影響され,実験条件をとり去つた後いかに回復するかについて研究を進めた。こゝには,それらのうちとくに代謝と関係の深い諸条件について報告する。

論述

代謝を中心としたGuanidine体の生化学

著者: 小田切美文

ページ範囲:P.158 - P.168

 まえがき
 こゝにいうGuanidine-体とは分子内にH2N-C(=NH)-NH-なる所謂Guanidine-核をもつ物質の総称であつて有機体内にはこれに該当する物質として現在までに構造のわかつているものだけでも10指を越えている。
 就中ArginineとCreatineはその代表的なものであり,前者は蛋白質の構成分として動植物界に普く分布しており1),又後者は動物体内に於ける内因性代謝産物であるという考えから基礎代謝の標識2)として重要視されていたことは既に周知のものである。

展望

X線の医学への新しい応用に就て

著者: 菅原努 ,   中村実

ページ範囲:P.169 - P.176

 緒言
 X線が医療の実際に如何に盛に活用されているかは周知の通りである。この外にX線は物理学に於て物質の構造解明に以前からよく用いられているが,最近では又工業方面でも盛に活用せられるようになつた1)。此等の進歩に刺戟せられて医学に於ても今迄よりもつと広い範囲に応用を拡大しようという試みがなされている。然しその方法に種々特殊な工夫がいる為か我国ではこのような方向への研究は甚だ貧弱な現状であつてまとまつて書かれた論文も見当らない。私達は数年来この方面の研究を少しづつ手がけて来たので,その経験に加えて外国の文献を参照してこの方面の進歩の状況を解説しあわせて若干の考察を試みたい。こゝには新しい方向としてMicroradiographyの種々な方法,特性X線の利用法,X線廻折法の応用に就て述べる。

報告

脊髓リンパ心臟中枢の活動電位に関する研究

著者: 岡田博匡

ページ範囲:P.177 - P.180

 カエル及びガマにおいてはリンパ心臓は4個存在し律動的に搏動している。この搏動の発生機序については古くより多数の研究がなされ,脊髄の特定部位の破壞或いは特定の脊髄神経の切断によつて正常リンパ心臓搏動が停止することより,脊髄に所謂搏動中枢が存在すると考える研究者1)2)3)4)5)6)7)8)9)10)が多かつた。また1930年Brücke及びUmrath11)はⅩⅠ脊髄神経より律動的な活動電位を描写することに成功した。私12)も氏等の見解の正否を確かめる為ⅩⅠ脊髄神経前根よりリンパ心臓搏動に一致する活動電位を描写し,リンパ心臓は脊髄リンパ心臓中枢に発生する律動的な衝撃群によつて搏動するものであると考えるに至つた。しかし,搏動中枢自身から衝撃を誘導することはいまだ試みられていなかつた。この度私は微小電極を脊髄の特定部位に挿入することによつて,リンパ心臓搏動のリズムに一致して出現する単一ノイロンよりの活動電位を誘導することができたので,この方法によつて中枢の局在部位及びその活動状態を研究した。その結果を次に報告する。

抗利尿性ホルモンの分泌に対するInsulinの影響

著者: 伊藤真次 ,   町田和子

ページ範囲:P.181 - P.183

 シロネズミでInsulin注射後脳下垂体のADH含量が減少し,血清ADS量が増加した。膵剔出またはAlloxan糖尿ネズミでも脳下垂体ADH量の減少をみとめたが,Alloxan糖尿ネズミの血清ADSは正常ネズミのそれとほゞ同じであつた。

精子のアセチルコリンエステラーゼ—Ⅰ.酵素の基本的性質

著者: 近藤千枝子 ,   關根隆光 ,   吉川春寿

ページ範囲:P.183 - P.186

 神経筋肉の興奮伝導のメカニズムに関与していると思われる化学変化の中で,アセチルコリン(ACH)の代謝は最も注目さるべきものであろう1)。関根は先に精子をelementa1なneuromusclar systemと考え,豚精子に哺乳動物の腦と同じ程度の高度のACH分解能のあることを見出し,基質に対する水解速度の比や阻害度から,これが特異型コリンエステラーゼすなわちアセチルコリンエステラーゼ(ACHE)であることを証明した2)。本報ではその後さらにこの酵素の基本的性質を少し調べたので,その結果を報告する。

注射液中の発熱物質と徴生物検出との関係

著者: 横井泰生 ,   堀内茂友

ページ範囲:P.186 - P.187

 本来は発熱性を有しない筈の種類の注射液において,往々にして発熱性を帯びたロツトが出来上る。パイロジエン・テスト1)2)の確立せられた今日,以上の事柄は全く明確となつている。注射液中に時として混入する発熱物質の由来はこれを微生物(細菌,カビ,酵母)に結びつけて解釈するのが,現今における最も有力な見解である3)。この点に鑑み,実際の注射液製品中に検出される発熱物質と微生物,両者の関係を検討することとした。

——

第5回神経化学班談話会記事

著者: 中脩三 ,   岡本彰祐 ,   高垣玄吉郎 ,   山本達也 ,   木村雄吉

ページ範囲:P.188 - P.190

 これは昭和28年9月13日行なわれた第5回神経化学班談話会の概要である。
 会を重ねるとともにいよいよ充実し,活溌になつていく。

Emil Bozler教授のこと

著者: 市河三太

ページ範囲:P.191 - P.192

 Ohio State Universityの生理学教室で,Emil Bozler教授と初対面の握手を交したのは1952年7月9日の事であつた。同教授の御盡力によつてScholarshipを受ける事が出来,Chicagoを経てColumbusに着き直ぐ教室にとんで行つたのである。翌日から研究室を一部屋,私のために空けて下さり早速仕事にとりかかつた。
 研究室に着いて驚ろいた事は,思つていたより余程貧弱な装置で,例えばGalvanometerの光源には空鑵を電球にかぶぜてそのslitからの光を用いていたの等日本と一寸も変らず,研究は人間がするのであつて装置がするのではないと云う分り切つた事を再認識し直した様なものである。Dr. Bozlerの使つて居られたkymographも亦学生実習のよりも不便な代物であつた。然し工作室も地下室に立派なものがありそこに頼めばすぐこしらえて貰う事が出来るのは,他の研究室とのチームワークが何のわだかまりもなく出来る事と共に非常に仕事を能率的にさせていた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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