icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学5巻6号

1954年06月発行

雑誌目次

巻頭

大学の使命は教育か研究か

著者: 小林芳人

ページ範囲:P.251 - P.251

 最高の教育機関が同時に優れた研究機関となつて居るのが現状である。研究機関の全部がそうであると云うのでは無いが,生物特に医学関係では純然たる研究機関よりも大学の研究室が現在は数に於いて圧倒的である。学会に出る発表業績を見ればよく解る。前者は教育に多くの時間と労力を割かれる後者に比して時間的には多くの利点を持つて居る筈である。大学の様な所は教育と研究とが並列して居る,教育をやるかたわら研究をやる。人によつては研究のかたわら教育をやる。両方が大いに関連があるのだが実際にこの二つの大きな仕事にどの位の割合に力を入れるかは中々難かしい問題である。誰も規定して居ないし,又きめることも不可能であろう。それは研究上の立派な成果を上げることが教育にとつても無関係のことでなく,寧ろ教育を受ける側の者にそれが与える影響は決して無視出来ない程大きい場合があるからである。最高の教育は最高の研究機関によつて始めて可能であると云う事実は否定出来ない。しかし研究をやる側にとつてみると教育すると云うことは必ずしも研究の助けとはならない。つまり我々の様に大学の研究室に居る者にとつて教育する為に用うる労力が必ずしも研究自体の推進力とはならないと云うことである。こゝに教育と云つて居るのは一人前の学者を育成する意味の專門的教育では無く,一般の教育を受ける大学々生教育の意味である。

綜説

聽覚末梢機構の現段階

著者: 勝木保次

ページ範囲:P.252 - P.258

 現代生理学の急速な進歩については,毎月の外国雑誌を一見する時いつも「やつたな」と驚かされる論文を見出す事でも知られる。勿論最近は外国との文通が盛んとなつたので絶えず学会の模様を知らせてくれるし,又個人的に意見をのべてくれる人も多くなつたので,以前とちがつて,可成りよく世界情勢がわかる様になつた為,いつも追いかけられる様な焦燥感にかられる人も少くあるまい。さきに筆者が滞米中求められて聽覚生理学の近況をのべてから1)まだ一年有余にすぎないにもかかわらず,更に一段の発展がとげられた。
 この発展は主にG. v. Békésyと田崎によつてなされたもので,最近入手したJosiah Macy,Jr. FoundationのNerve Jmpulseに関するSymposiumの記録(これは1953,March,4. 5,6に行われた)中H. DavisはMechanismof Hearing2)と題して詳しく述べている。聽覚生理学に興味をもたれる方々に是非一読をすすめたいものの一つである。この中に筆者も爼上にのせられているが,この点について辨明を要するので,本文をかりて最近の紹介を兼ねて筆者の考えを述べて見たい。

Glucuron酸抱合—特にGlucuron酸の母質に関して

著者: 白井陽一

ページ範囲:P.259 - P.264

 Glucuron酸が尿へ排泄せられる現象は,いろいろな藥物の投与に際して見られ,此の際Glucuron酸は投与せられた藥物もしくはその生体内変化物と,1位の炭素(以下C-1と略記する)のHalbacetal-OHに於て結合(即ちGlucuronde形成)して居るのが普通である。此のGlucuronide形成もしくはGlucuron酸抱合と呼ばれる現象は,所謂解毒機転の一つとして,Ether硫酸抱合やGlycinの結合と並んで重要なものであるにも拘わらず,その形成機序は全く未解決のまま残されて居る。
 尿中のGlucuron酸はその抱合型式より,次の3型に分類する事がでる。その第1はEther型Glucuronideと呼ばれるもので,水酸基を持つた藥物と抱合して居る。此の際Phenol類や,第3級Alkoh 1の様に,それ以上酸化され難い物質に限らず,EthanolやMethanolの様に,生体内で容易に酸化分解されるAlkoholも抱合の対象となり得る1)。是等Ether型Glucuronideがβ型Glykoside系に属する事は,その合成試験及びEmulsinにより分解を受ける事2)から見て間違いなかろう。

細胞呼吸におけるチトクロームaの役割

著者: 奥貫一男 ,   瀨屑一郞

ページ範囲:P.265 - P.272

問題のおこり
 肺で酸素を結合した,オキシヘモグロビン(O2Hb)は動脈を流れて組織のすみずみまで運ばれて行く。O2Hbは周知のようにヘモグロビン(Hb)の酸化物ではなくHbの鉄は2価のまま酸素分子を結合しているもの(Oxygenierun)である。これが酸素分圧の低い組織内では
(1)O2Hb→O2+Hbで示される反応をして結合をしていた酸素分子を放ち.Hbは静脈を流れて心臟に戻る。後右心室から肺動脈に押出されて肺胞をとりまく毛細管を流れる時に(1)式の逆反応をしてO2Hbになる。即ち(1)式反応は可逆的である。従つて酸素分圧の低い組織でも(1)式の右行反応をする時に放出した酸素分子を受取るものがないと,多かれ少かれ(1)式の左行反応が起ると考えられる。もしそれが筋肉内でで行われるなら放出された酸素分子はミオグロビン(Mb)に受容され,
(2)O2+Mb→O2Mbで示されるようにオキシミオグロビン(O2Mb)を生成する。純粋に単離,結晶化されたMbでも(2)式反応が証明された。又一方純粋に単離結晶化されたHb標品についても(1)式反応が証明され,それらの反応速度が詳しく研究された。

論述

Ethyl Alcoholの代謝

著者: 赤羽治郞

ページ範囲:P.273 - P.278

 飮用されたalcoholは体内で大部分が完全に酸化されてCO2と水になることはすでに古くから実験されている。1gのalcoholが完全に酸化すれば7.1Cal.が発生する。その酸化は階段的に進行して,中間代謝物としてacetaldehydeと醋酸が生成される。このうち,第二段階(acetaldehyde→acetic acid)の反応の速さは,第一段階(alcohol→acetaldehyde)に比してはるかに迅速であり,第二段階の酸化がかなり抑制されても全般的のalcohol酸化の速さに大きく影響することはない。従つてalcohol酸化の速さは主として第一段階の酸化の速さに係つている。

筋肉収縮に於けるグアニジン—Kinase系の役割—刺激の作用機作についての一考察

著者: 殿村雄治 ,   八木康一

ページ範囲:P.279 - P.284

 序論
 よく知られているように,筋肉の收縮は筋肉線維を構成している構造蛋白質である線維状アクチンとミオシンの結合物アクトミオシン(AM)と高エネルギー燐酸結合を持つアデノシン三燐酸(ATP)との相互作用の結果として起ることがEngelhardt, A. v. Szent-Gyögyi等の仕事によつて殆んど確定的となつている。この相互作用と生理学で知られている筋肉收縮の諸相との対応はまだ充分確かになつていないが,Weber1)及び我我2)に従つてその概要を示せぼ第1図のごとくである。
 收縮弛緩が起るためにはATP-ase活性中心以外のいくつかの吸着点にATPの吸着していることが必要であるが(可塑剤としてのATP),これらは收縮回路中大体変化しないと考えられるので,こゝでは簡単のためにこのことに触れないでおく(cf. 2)。

報告

単一神経線維の簡単な分離法

著者: 市岡正道

ページ範囲:P.285 - P.285

 蟇(或は蛙)の坐骨神経から単一神経線維を分離するのに,私は次のような方法で神経上膜(Epineurium)をはがしているが,比較的簡単で初心者でもすぐ行えるので,幾らか参考になるかと思い茲に御紹介致し度い。ただ,私の方法は,単一神経線維だけを分離するのであつて,それに所属する筋は捨てて了うのであるから,分離した神経線維の機能をみるのに,筋の攣縮を手掛りにしてという訳にはいかない。必ず神経の活動流を観察,或は記録しなければならない不便があることを予めお断りしておく。
 さて型の如く,まず坐骨神経をとり出すのであるが,私の方法では,中枢端は大腿の上端で大凡梨状筋(M.piriformis)の高さで,末梢端は脛骨神経(N.tibialis)と腓骨神経(N.fibularis)との分岐部より約5mm末梢の高さで神経を切りこの範囲の坐骨神経をとり出す。次に,脛骨神経と腓骨神経とを左右の手にもつて慎重に然も一気に引きはなす。そうすると,両神経の分岐部から神経上膜が簡単にスルスルとめくれて,両神経に相当する二本の神経線維「束」がえられる。ただこれだけなのである。要するに田崎氏のように,脛骨神経から腓腹筋に入る神経枝をみつけて,その分岐部を突破口として神経上膜をはがして行く方法によらないのである。

頭のインピーダンスについて—その差働型増幅器の弁別比との関係

著者: 岩間吉也 ,   中山昭雄 ,   阿部善右ェ門 ,   松尾正之

ページ範囲:P.286 - P.288

 差働型増幅器を用いて脳波を誘導するとき,増幅器側から見た回路は第1図に模型的に示す如くである。この図について頭のインピーダンスを含めた綜合弁別比を求めると,同相入力電圧に対する増幅度は(β1A12A2),逆相に対するものは(β1A1+β2A2)であるから,綜合弁別比δは(但しR1,R2≫Z1,Z2,Z0とし)

胃・大腸反射に就て

著者: 錢場武彦

ページ範囲:P.288 - P.290

 胃の活動が反射的に大陽運動に影響する例には,日常屡々遭遇する。殊に下痢の際に攝食によつて直ちに便意を催す事は顕著である。
 この研究はHolzknecht(1911)6)が初めてレ線によつて観察し,Cannon(1911)1)も之を認め,Hertz(1913)4)はgastorocolic reflexと名ずけた。のちWelch & Plant(1926)9)が之はfeeding reflex又はappetite reflexと称すべきであると云う。一方Ivy〈1926)3)は之はduodenocolic reflexであつて,胃とは無関係であると云つたが,Zondek(1920)10)は兎で腹窓法によりHines,Lueth & Ivy(1929)5)は人で,Galapeaux & Templeton(1938)2)は犬で,夫々胃の拡大或は充実により大腸運動の増加或は脱糞を認めて,この反射の成立を確めて居る。

心臟の仕事に関する序論

著者: 上田五雨

ページ範囲:P.290 - P.291

 1.心臓の外部仕事は心臓の消費する総エネルギーの一部である。
 2.心臓の機械的仕事は,心室内圧をPとするとW=PVのみで十分表わせる。
 3.生理学的な心臓のはたらきを考える時は,仕事より工率の概念を用いる方がよい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?