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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学50巻1号

1999年02月発行

雑誌目次

連続座談会 脳を守る

Ⅰ.創薬

著者: 伊藤正男 ,   板井昭子 ,   大塚正徳 ,   宇井理生 ,   野々村禎昭

ページ範囲:P.3 - P.17

 伊藤(司会) 脳を守ることを創薬だけで全部カバーするのは難しそうで,どうしても移植や遺伝子治療を平行して進めなければいけないようですが,今回は創薬でどこまでカバーできるのか詰めて考えることがテーマです。また,一般に基礎研究と臨床応用の間には大きな溝があり,これを越えるための特別の努力と仕組みが必要ですが,脳科学の研究から創薬にどのように繋がるのだろうかということを考えることも重要です。創薬には経験的な要素が強かったのが,基礎研究がここまで進んでくると大きなヒントが出てくるという期待がものすごく高まっています。では,実際の可能性はどうなのか。また,一つの薬を創るのには,大変な投資と時間とさらに行政やベンチャーのありかたなど,種々の社会的な問題がからんできます。これらの問題を通して議論していただければと思います。

Ⅱ.再生移植治療

著者: 伊藤正男 ,   川口三郎 ,   高坂新一 ,   西野仁雄 ,   石川春律

ページ範囲:P.18 - P.34

 伊藤(司会) 今日は脳神経組織の再生移植が,今後どのくらい可能性を持っているかを中心にお話を伺います。
 全般的な空気として,日本の学会あるいは社会が保守的で,この方向の進歩が遅いという苛立ちが医学界にも社会にもあります。まだ基礎的な研究の段階のことが多いので,いきなり応用のことを論ずるのは危険だという考え方もあるのですが,しかし,少しでも実現可能なことはどんどん実現に移していくべきだという考え方の方が重要ではないかと思います。そういう困難をどう克服したらいいのかという問題も,ぜひ議論していただきたいと思います。

Ⅲ.遺伝子治療

著者: 伊藤正男 ,   中福雅人 ,   小澤敬也 ,   豊島久眞男 ,   藤田道也

ページ範囲:P.35 - P.48

 伊藤(司会) 難しい脳神経系の病気のほとんどが,遺伝子の損傷や異常に原因があります。その点,遺伝子治療は一番根本的な治療法ですが,技術としては非常に難しそうで,これからの道が厳しそうに思えます。しかし,遺伝子治療全般はよく進んできていて(表1),全世界ですでに3,000例実施されたという話があるし,遺伝子損傷による病気が今全体で6,000種類ぐらいあって,半分ぐらいは脳関係だという話もあります。
 本日は,脳神経系の遺伝子治療の現状はどうか,今後どういうふうに発展するのか,日本としてはどういうふうに力を入れて,推進したらいいのか,というようなことをテーマにして伺いたいと思います。

連載講座 個体の生と死・10

骨(硬組織)の発生

著者: 寺島達夫

ページ範囲:P.50 - P.58

 ヒトの体には約200個の骨が存在し,それぞれの骨は機能に応じて多様な大きさや形状をなしている。それらの骨が連結して,骨格が作られ,からだの支柱となり,からだの形を保持するほか,中枢神経系や内臓を保護し,さらに,筋肉組織とともに運動器として働く。また,骨の内部を空洞化して軽量化するとともに,造血組織を内部に納め造血器として働いている。さらに,骨は常に全体の5%ほどが活発に作り替えられる現象(リモデリング)により,カルシウムやリン酸などのミネラルの貯蔵,放出による体液のカルシウム濃度の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。
 骨は代表的な硬組織で,ほかに歯牙に見られる象牙質,セメント質,エナメル質があり,さらに生理的な石灰化は軟骨や耳石に認められる。

実験講座

組織特異的および時期特異的変異導入マウス―脳機能の解析に向けての現状と展望

著者: 糸原重美

ページ範囲:P.59 - P.64

 トランスジェニックマウスの開発に引き続き,マウス胚性幹(ES)細胞の樹立と,ES細胞での相同性遺伝子組み換えに基づいたノックアウトマウスの開発は,個体レベルにおける個々の遺伝子の機能を解析する手段を提供し,動物の発生機構や免疫系および中枢神経系が営む高次な情報処理機構の理解を飛躍的に高めるきっかけとなった。これらの手法はいずれも生殖細胞の段階から遺伝子変異を保持するものであり,いくつかの問題点が指摘されている。
 (1)たとえば,X遺伝子の成体脳での機能を解析したいと考えてX遺伝子ノックアウトマウスを作製しても,それが胎児期でも重要な役割を担っているせいで,そのノックアウトマウスは胎性致死となってしまう場合である。つまり,成長の過程で最初に現われた表現型が以降の表現型を隠す結果となってしまう。(2)逆に,認められた表現型の理由を,その時点での遺伝子機能に求めるべきか発達過程の異常の蓄積に求めるべきかの客観的基準を得ることは,しばしば困難である。(3)慢性的にX遺伝子の機能に欠損もしくは異常が生じているので,生体の恒常性を保つための代償機構が働いている可能性がある。(4)X遺伝子の細胞種ごと,あるいは限定された組織領域ごとでの機能を特定することは容易ではない。

解説

精神分裂病の原因遺伝子研究の現状と今後の展望

著者: 辻田高宏 ,   新川詔夫

ページ範囲:P.65 - P.71

 精神分裂病は感情障害(躁うつ病)とともに二大内因性精神病の一つであるが,いまだ生化学的・細胞学的異常が不明であり,本態の解明にはポジショナルクローニング(positional cloning)や候補遺伝子アプローチ(candidate gene approach)などを中心とした分子遺伝学的手法に対する期待が大きい。このような手法が精神分裂病の病因研究に本格的に用いられるようになったのはこの10年程のことであるが,現在までのところ病因遺伝子の同定に成功したものはない。その背景には,診断基準の曖昧さ,スペクトルの広さや遺伝形式が不明であること,遺伝的異質性(genetic heterogeneity)の存在する可能性など疾患特有の問題点が指摘されている。ここでは,精神分裂病の遺伝学的研究の現状と問題点,今後の方向性について概説する。

話題

神経伝達物質受容体のクラスタリング

著者: 平井宏和

ページ範囲:P.72 - P.74

 1980年代の終わりに始まった神経伝達物質受容体のクローニング競争は,90年代の前半でほぼ終了した。これらのうち,哺乳類の中枢神経系において,代表的な神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体は,当初,アセチルコリン受容体やグリシン受容体などと同様,アミノ末端,カルボキシル末端の両方が細胞外に存在し,四つの膜貫通ドメインを有すると考えられていた。しかしその後,矛盾する報告が相次ぎ,細胞膜における正確な構造を決定する試みがなされた。その結果,図1のような構造であることが'96~'97年頃までに明らかとなった。この結果,カルボキシル末端領域は最長の細胞内ドメインであることが示され,次のステップへの大きな足掛りとなった。すなわち,現在の神経科学分野のトピックスの一つとなっている,「神経伝達物質受容体の細胞内末端領域に結合するタンパク質のクローニングとその機能」である。近年,次々にクローニングされているこれらのタンパク質は,受容体を細胞膜上の特別な位置(シナプス)に固定する役割を担い,神経伝達に重要な役割を果たすことが明らかになってきた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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