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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学50巻2号

1999年04月発行

雑誌目次

特集 リソソーム:最近の研究

リソソームの組織化学的研究

著者: 馬場健 ,   大野伸一

ページ範囲:P.78 - P.84

 リソソームは1層の限界膜に囲まれた細胞小器官で,種々の高分子物質の分解を行っている。そのためリソソームは多くの加水分解酵素を含んでいる。これらの酵素は酸性域で働くため,リソソームの内腔のpHは約5となるように調節されている。リソソームは電顕的に電子密度の高い小胞として見出された1)。代表的なリソソーム酵素である酸性ホスファターゼが,リソソームの組織化学的同定によく用いられている2)。この酵素は抗体を用いた免疫細胞化学的マーカーとしても用いられている3)。また,リソソームはエンドサイトーシスされた物質の最終到達部位であることより,リソソーム内酵素で分解を受けにくい物質が蓄積する小器官としても同定することができる。その中でも,HRP(horse radish peroxidase)はDAB(3,3′-diaminobenzidine)反応により,不溶性の凝集構造を形成し,形態学的のみならず生化学的マーカーとして広く用いられている。最近では,Stoorvogelら4)によるDABクロスリンクを応用したユニークな研究法が注目を集めている。さらに,ここ10年ほどの間に,リソソームを含む小胞輸送系の研究が飛躍的に発展し,数多くのリソソーム特異的な蛋白質の同定,あるいはcDNAクローニングが行われ,リソソームの細胞内での形態に関する知見が数多く蓄積されてきた。

リソソーム酵素選別シグナル

著者: 西河淳

ページ範囲:P.85 - P.91

 種々の細胞において新しく生合成された酸性加水分解酵素は,その糖鎖にリソソーム輸送の指標となるマンノース6リン酸(Man-6-P)残基が付加され,その指標を持つものはMan-6-P受容体によって細胞内のエンドソームに輸送され,リソソームに局在化する(図1)1,2)。この時,細胞内で同時に生合成された多くのタンパク質の中から,リソソーム酵素のみが識別され,指標が付加されなければならない。N-アセチルグルコサミンホスホトランスフェラーゼ(UDP-N-acetylglucosamine:Lysosomal enzyme N-acetylglucosamine-1-phosphotransferase,以下GPT)は,指標を付加する反応の最初に働く酵素で(図2),この酵素の作用する,作用しないといった反応性がリソソーム酵素の選別機構になっている。では,GTPはリソソーム酵素の何を認識して作用するのか。本稿では,GPT認識シグナルの解析において,DNase Iを用いて行ったわれわれの研究を中心に紹介する。

ファゴソーム-リソソーム融合

著者: 矢野郁也

ページ範囲:P.92 - P.104

 全ての生物は,その生命を維持するために,外敵や異物の侵入に対する防御機構をもっており,高等な生物ほどその機構は多彩で複雑である。細胞や臓器は外部環境から外敵の侵入を避けるため,細胞壁(細胞膜)や皮膚・粘膜におおわれており,魚類以上の高等動物や植物には免疫反応に基づく防御機構が発達している(図1)。また,高等動物の免疫反応は,外敵に対して自己と他者を分子レベルで反応して見分けることのできる特異性の極めて高いものであり,その鑑別は長年の生物進化を反映して極めて多様性に富んでいる。本稿では,動物の最も基本的な生体防御機構である食作用の中で,異物処理に中心的な役割を果たしていると考えられるファゴソーム-リソソーム融合(P-L fusion)について,その概略と細菌細胞壁や動物細胞膜を構成する糖脂質分子による機能の調節について述べる。

メラノソームとリソソーム

著者: 藤田英明 ,   安永公弥子 ,   姫野勝

ページ範囲:P.105 - P.110

 メラノソームは高度に濃縮されたメラニンを含む細胞内顆粒で,皮膚・毛髪・網膜などに由来する細胞に多く見られ,これらの細胞が属する組織の色素沈着に直接関与している。メラニン化が高度に進行した細胞においては,メラノソームは黒色の細胞内顆粒として光学顕微鏡下でも容易に観察され,細胞体の核周辺と細胞突起の先端部分に局在している。皮膚においては外界からの刺激(紫外線・周辺細胞からのシグナルなど)によりメラノサイトにおけるメラノソームの成熟化が進行し,細胞突起の先端部分に濃縮されたメラノソームは,やがてサイトファゴサイトーシスにより周辺のケラチノサイトへと渡されていくと考えられている。このようにメラノソームは特殊な細胞においてのみ見られる細胞内小器官であるが,すべての細胞に普遍的に存在していると考えられているリソソームとの相関性については以前から注目されてきた。
 本稿では主に蛋白質輸送の観点から,このリソソームとメラノソームの形成機構について考察する。

リソソーム崩壊機構

著者: 荒井國三 ,   大熊勝治

ページ範囲:P.111 - P.116

 リソソームの崩壊現象については,たとえば細胞がネクローシスする際に,細胞質のイオン輸送系が崩れるためリソソーム膜が障害を受け,それが原因で崩壊したリソソームから漏出した加水分解酵素により細胞が溶解するとか,老化した神経細胞においてリソソーム膜が脆弱化し崩壊しやすくなっている,などの報告がある。いずれも細胞の全般的な機能低下の結果起こる現象の一つとしてとらえられており,リソソーム崩壊機構やその調節,さらには生理的な意義に関する考察はない。しかし,リソソーム酵素カテプシンによりアポトーシスが誘導されることが明らかにされるなど1,2),リソソームの崩壊が生理的に重要な意味を持っている可能性が示されつつある。
 われわれは,セルフリーのin vitro実験系で,(1)塩基性薬物によるリソソーム崩壊現象,および(2) GTPγS処理したサイトゾルによるリソソーム崩壊現象を発見し,その機構を検討してきた。

リソソームとアポトーシス

著者: 石坂瑠美 ,   内海俊彦 ,   矢吹宗久 ,   勝沼信彦 ,   内海耕慥

ページ範囲:P.117 - P.126

 アポトーシスは細胞の“死滅過程”の一種であり,1972年Kerr1)により見出された。この細胞死の過程では,死につつある細胞から放出されるものはなくクリーンな死であり,発生段階で細胞が秩序だって死滅する現象である“プログラム細胞死”は典型的なアポトーシスによる細胞死である2-4)。このアポトーシスは単に不必要な細胞の除去機構としてだけでなく,生体のホメオスタシスに積極的な役割を演じている2-4)。アポトーシスの機構解析は近年著しく進展し,一部の分子機構はかなり詳細に解明されてきた。
 その一つは,腫瘍壊死因子(TNF-α)やFasリガンドによる細胞表面受容体を介するアポトーシス誘導機構である。これらの細胞外因子は,それぞれ特異的な受容体に殺細胞シグナル分子として結合し,cysteine aspartase(カスパーゼ)カスケードを活性化して5,6),death substrateと呼ばれる一群の細胞内蛋白質を分解することにより細胞死を誘導する7)。また他の一つは,ミトコンドリアから遊出するシトクロムcを含むapoptotic proteaseactivating factor(Apaf)複合体によるアポトーシス誘導機構である8,9)

リソソームとアルツハイマー病

著者: 伊井邦雄

ページ範囲:P.127 - P.134

 蛋白代謝は細胞生存の基礎である。すべての細胞においてリソソーム性および非リソソーム性を含め,細胞内蛋白の分解やその制御にはじつに多くの蛋白分解酵素(プロテアーゼ)や蛋白分解阻害物質(インヒビター)が関与する。神経細胞を含め脳組織の諸細胞も例外ではない。リソソーム性蛋白分解については多くの成書や雑誌1-13)などを参照していただくとして,酵素やインヒビターを含めてリソソームとアルツハイマー病(AD)について最近の知見の一部を,著者らの研究結果も含めて紹介する。
 リソソームは多くの加水分解酵素を含み,細胞内の自殺袋14)とも呼ばれ,変性,老化や傷害された蛋白などの細胞内異常物質の分解処理など,細胞の代謝や生存に不可欠の諸機能を果している(上記成書参照)が,ADの発症や病態においても重要な役割を果しているらしいことが,最近次第に明らかになりつつある。それは単に“自殺袋”として細胞内に生じた変性蛋白などの受動的な分解除去にとどまらず,より能動的にADの病態の形成に関わっている可能性を示すものである。生体の多くの細胞が壊死あるいはアポトーシスを経て再生して細胞諸成分が一新されるのに比して,それら諸細胞のような再生の行われない神経細胞は,個体の加齢とともに老化する運命にある。

真核生物に共通のカテプシンA関連酵素

著者: 林力丸 ,   松崎英樹 ,   植野洋志

ページ範囲:P.135 - P.139

 カテプシンAは,Frutonらが自ら合成したベンジルオキシカルボニル(Z)-Glu-Tyrを酸性で加水分解する細胞内プロテアーゼとして,50年前にウシ脾臓から部分精製された1)。当時は,ペプシン類似のエンドペプチダーゼと考えられていたが,その後ブタ腎臓やラット肝臓の酵素などが部分精製され2-6),カテプシンAはむしろリソソームに存在するカルボキシペプチダーゼではないかといわれるようになった。これには同様の性質を示す酵素が植物や酵母の液胞にも存在することが明らかにされ,液胞はすなわち植物や酵母リソソーム7)ともいうべきものであることが明らかにされてきた経緯が背景にある。カテプシンAの研究は非常に古いわりに明確な概念が得られぬままに,植物や酵母由来の酵素に関する研究が先導する形をとってきた。
 一方,ごく最近ヒトの保護タンパク質(protective protein)の発現異常が糖代謝に異常をきたす常染色体劣性遺伝病(ガラクトシアリドーシス)と呼ばれる病態が報告された8)。保護タンパク質は二つの糖代謝酵素(リソソーム性β-ガラクトシダーゼとノイラミニダーゼ)と複合体を形成することにより保護機能を示す9)。この保護タンパク質の遺伝的欠損によりβ-ガラクトシダーゼは不安定化し,ノイラミニダーゼは不活性化する。

プロテオリピッドの分解とリソソーム

著者: 木南英紀 ,   江崎淳二 ,   谷田以誠

ページ範囲:P.140 - P.144

 プロテオリピッドはクロロホルム-メタノールなどの有機溶媒に溶ける,一種のリポタンパク質という概念で名づけられた。最近では,プロテオリピッドといえば,脳組織のミエリンに特有なプロテオリピッド1)(リポフィリン,lipophilinとも呼ぶ)を指すこともしばしばあるが,ここでは,種々の組織に存在するプロテオリピッドも含めることにする。ミトコンドリア内膜に局在するATP合成酵素のサブユニットcはプロトンチャネルの構成要素であり,分子のほとんどをミトコンドリア内膜に埋め込んだ分子量7608の非常に疎水的なプロテオリピッドである。ATP合成酵素のサブユニットcもリポフィリンも,高度に保存された極めて疎水的な膜内在性タンパクである。プロテオリピッドのような膜に埋め込まれた疎水性タンパク質の分解機構については,方法論の制約もあり,今までほとんど研究されていなかった。本稿では,プロテオリピッドの分解に関する研究の発端となった神経性セロイド様リポフスチン蓄積症とその研究の発展から,「プロテオリピッドの分解とリソソーム」について考察する。

連載講座 個体の生と死・11

頭蓋冠発生と頭蓋骨癒合症

著者: 井関祥子 ,   江藤一洋

ページ範囲:P.145 - P.151

 頭蓋骨癒合症は頭蓋部縫合の早期閉鎖を主徴とし,約2,500人に1人の発現頻度で起こる先天異常である。これまでに100を超える症候群が報告されており,決して稀な先天異常ではない。頭蓋骨癒合症のすべての症例中,約60%は単発性に起き,ほかに合併症が見られないことから遺伝的なものではないと考えられている。残りの約40%には遺伝的要因があると考えられてきた。これまでに頭蓋骨癒合症の原因となる変異が,線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptor,以下FGFRと略) FGFR 1,FGFR 2,FGFR 3,TWIST,MSX 2,およびGLI 3に見出されている。いずれの遺伝子も哺乳類が発生する上で重要な役割を果たすことがすでに知られており,改めてこれらの遺伝子の頭蓋冠発生に果たす役割が注目されている。

解説

霊長類海馬の虚血性神経細胞死

著者: 山嶋哲盛

ページ範囲:P.152 - P.157

 I.ニューロンとプロテアーゼ
 海馬(cornu Ammonis:CAと略す)のCA 1ニューロンは,霊長類においては近時記憶という重要な役割を担っているにもかかわらず脳虚血に脆弱性を示し,わずか10-20分間程度の短時間でも血流が途絶えると,その数日後には細胞死に陥る1)。霊長類に特異的な虚血性神経細胞死のメカニズムを知ることは,脳梗塞に代表される脳血管障害のみならずアルツハイマー病などの神経変性疾患や加齢に伴う神経細胞死の病態を知り,画期的な治療法を開発する上でもきわめて重要である。従来より主としてげっ歯類を対象として数多くの研究がなされてきたにもかかわらず,虚血性神経細胞死の病態に関しては最近になるまで不明な点が実に多く1),有効な治療法はなかった。
 ニューロンは胞体の大きさに比べて極端に長い神経線維と多数の短い樹状突起を有し,これらが互いに無数のシナプスを形成し,情報伝達の複雑なネットワークを形成している。このような特徴を備えた細胞は,その機能を果たすためにレセプターやチャネルなどの多種多様な膜蛋白と細胞骨格蛋白,その他の関連蛋白を代謝回転(turnover)させる必要がある。したがって,必然的に蛋白の産生と破壊とを頻繁に繰り返さねばならないため,神経細胞には蛋白を産生する小胞体(いわゆるニッスル小体)と蛋白を破壊するリソソームという細胞内小器官がことに発達している。

話題

「第16回国際心臓研究学会世界大会」印象記

著者: 阪本英二

ページ範囲:P.158 - P.159

 平成10年5月27日から31日までの5日間,ギリシャのロドス島で「第16回国際心臓研究学会世界大会」が開催された。本大会はアメリカ循環器病学会と循環器病学の分野で双壁をなす,国際心臓研究学会が3年に一度行う大規模なものである。セッションは54のシンポジウムと789の一般演題から構成されていた。「国際」の名の通り,アメリカや西欧諸国のみでなく,東欧からの研究者も多数参加していた。バイキング形式の昼食が毎日ふるまわれ,各国の研究者と気楽に会話が楽しめるよう工夫が凝らされていた。余談になるが,私もスイスから来た研究者との世間話であのK1より柔道の方がスイスでは人気があることを知り随分驚かされたり,モスクワから来ていた女性の心臓外科医からは心臓移植はロシアでは技術的にかなり難しいといった裏話を聞くことができ,本業以外の交流も大変有意義であった。会場はビーチの近くにあり,ちょっと外に出ればバカンス気分に浸れるなど,日本の学会ではなかなか考えられない粋な気配りが随所に見られた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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