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哺乳動物の人工染色体
著者: 池野正史1 岡崎恒子1
所属機関: 1藤田保健衛生大学総合医科学研究所
ページ範囲:P.602 - P.611
文献購入ページに移動 生物の持つ固有の遺伝情報(ゲノムDNA)は細胞内に染色体として存在し,次世代細胞に正確に受け継がれていく。バクテリアゲノムは通常1個の環状染色体を形成し,真核生物ゲノムは複数種類の線状染色体の組み合わせからなるが,いずれも細胞増殖の際には次世代細胞に正確に伝えられてゆく。コピー数が1コピーに近い大腸菌のプラスミド,FプラスミドやP1プラスミドの場合も,次世代細胞に受け継がれる。次世代細胞への遺伝情報の安定な伝播を可能にしているのは,これらゲノムに細胞増殖と共役した染色体の複製の制御機構や細胞分裂と共役した分配の制御機構が存在するからである。これらの機構を司るトランスファクターをコードする遺伝子と,その作用の場であるシスDNA配列がゲノムDNA上に存在している。複製起点(originあるいはinitiator配列)は複製の開始の制御を,セントロメア(centromere)は分配の機能を担うシスDNA領域である。線状染色体の場合にはこれらに加えて,染色体同士の結合や末端配列の短小化を防ぐために染色体末端にテロメア配列が存在する。これら機能領域を分離する試みは1970年代おわりから1980年代はじめにかけてまず大腸菌ゲノムで始まり,自律複製配列(ARS)としてorigin配列(ori)の分離に成功した。
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