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特集 細胞極性の形成機序
神経幹細胞の非対称分裂と細胞極性
著者: 松崎文雄1
所属機関: 1東北大学加齢医学研究所神経機能情報研究分野
ページ範囲:P.110 - P.116
文献購入ページに移動 1個の受精卵から発生する多細胞生物では,増殖する細胞が互いに異なる運命を選択することによって,多様な細胞が生じる。morphogenと呼ばれる拡散性の因子が,個体内の位置情報を細胞に伝えて,その運命を指示するメカニズムはよく知られているが,それと並んで,このプロセスに基本的な役割を果たすのが,異なる二つの娘細胞を生じる“非対称分裂”である1,2)。一つの細胞から異なる姉妹細胞が生じる仕組みとして,一般的に次の二つのメカニズムがある。(1)細胞の形質を決定する因子が,分裂の際,一方の娘細胞にだけ特異的に分配される自律的な仕組み。両生類の卵割が古典的な例として知られている。(2)分裂する姉妹細胞は等価であるが,外界からのシグナルが非対称に働く非自律的な仕組みである。発生過程では,この二つが巧妙に組み合わさって,細胞の多様性が生れてくる。本稿では,酵母,線虫の卵割と並んで,分子遺伝学的な分析がめざましく進んでいるショウジョウバエの神経幹細胞の非対称分裂を取り上げ,一つの細胞が異なる二つの娘細胞を生む仕組みと,その背後にある細胞極性を考えてみたい。
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