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文献詳細

雑誌文献

生体の科学51巻2号

2000年04月発行

文献概要

解説

植物における形態形成―植物から学ぶしくみ

著者: 福田裕穂1

所属機関: 1東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻

ページ範囲:P.164 - P.170

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 イチョウには精子がある。この精子は激しく動き,卵を目指して進む。その姿は動物の精子と何ら変わりがないように見える。しかし,より進化した植物では精子は失われ,雄の精核は花粉管によって雌の卵のところまで正確に運ばれるようになる。この進化の方向性は植物を考える上で,非常に示唆的である。つまり,植物は動けないのではなく,動かないことを進化の過程でその生存戦略として選び取ってきたということを示しているように思うからである。
 植物の形態形成も,動かないことと密接に関連している。植物の細胞は細胞壁で取り囲まれ,いわば煉瓦づくりの家のように,細胞を重ね合わせて組織,器官,さらには個体を形作っていく。細胞と細胞の間は細胞壁で固められているので,細胞同士はその位置を変えることはできない。したがって,1個の細胞からの三次元的な組織形成には,どの方向に伸びるか,どの面でまたどの位置で分裂するか,どの細胞が分化するか,そしてどの細胞が死ぬか,だけが関与することになる(図1)。そして,この伸長,分裂,分化,細胞死のいずれにも細胞壁が中心的な役割を果たしている。このように,細胞壁は植物を動けなくした張本人であるが,同時に植物の形態形成の基本的な性質を担う装置でもある。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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