特集 機械的刺激受容の分子機構と細胞応答
浸透圧と細胞の容積調節能
著者:
岡田泰伸12
所属機関:
1岡崎国立共同研究機構生理学研究所
2総合大学院大学生命科学研究科,科学技術振興事業団戦略的基礎研究
ページ範囲:P.530 - P.535
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動物細胞の容積は通常は固有の値に保たれている。血漿浸透圧の異常を伴う病的条件を除いて,細胞外液の浸透圧はほぼ一定に保たれているので,これは一見当然のように見える。しかし,細胞内には膜を透過できない蛋白質や核酸などの荷電巨大分子が存在しているので,常に膠質浸透圧による負荷がかかっている。また,細胞の生理学的活動に必ず伴われる代謝反応や物質輸送の変化は,浸透圧活性分子の数の変動による局所的浸透圧負荷をたえず生み出している。さらには,細胞膜の水の透過性は予想外に高く,浸透圧勾配に従って水はほぼ自由に細胞内外を出入りすることができる。にもかかわらず細胞容積はほぼ一定に維持されているのである。たとえ人工的に細胞内外に浸透圧負荷を与え続けても,浸透圧性容積変化が一時的に強いられた後に,元の正常容積へと復帰する能力を多くの細胞は有している1,2)。この細胞容積調節能の喪失は細胞死をもたらす。ネクローシスは持続性の細胞膨張とそれによる細胞破裂に,アポトーシスは持続性細胞収縮とその後の細胞断片化(アポトーシス小体形成)によって特徴づけられる3)。
本稿では,動物細胞にはいかなる浸透圧負荷がかかっているのか,これに応じて浸透圧性容積変化がいかに容易に強いられているのか,しかしその後に正常容積へと戻る能力をいかにして発揮するのか,そしてこの容積調節能の異常がどのように細胞死に関係するのかについて概説する。