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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学52巻1号

2001年02月発行

雑誌目次

連続座談会 脳を育む

Ⅰ.幼児・小児期

著者: 伊藤正男 ,   大津由紀雄 ,   小泉英明 ,   小西行郎 ,   繁下和雄 ,   藤田道也

ページ範囲:P.3 - P.23

 脳を育む―脳科学の新たな課題
 伊藤 『生体の科学』誌では毎年1号のために,今後発展しそうな重要な分野を取り上げて,その将来の大きな可能性を論じる座談会を開いています。今年は「脳を育む」という題を取り上げました。幼児・小児期,少年・青年期,成人・老年期の3回に分け,多彩な専門分野の方々をお招きして,人間の成長や教育の問題への脳科学の関わりについて,考察しようというものです。
 今,盛んな脳科学を支えているのは,研究の対象としての脳の興味深さに加えて,脳神経系の病気を治し脳の老化を防ぐという医学的な要請と,脳型のコンピュータや人型のロボットの開発を助けるという情報科学技術上の期待です。さらに最近,正常な人間の発達成長を助けるという観点が注目されるようになりました。乳児,幼児から思春期,さらには成人期,高齢期に至るまで脳は成長し,変化する環境の中で学習し続けます。そこで,児童,学生時代の教育から,成人,高齢者の生涯教育に至るまで脳の正確な知識に基づいてもっと改善することができるのではないかと指摘されるようになりました。いろいろな国で教育の危機が叫ばれ,学校でのいじめや家庭内の暴力が大きな社会問題になっていますが,そういうことも脳に関する正確な知識に基礎を置いて考えるべきだという社会的な要請が強くなっています。

Ⅱ.少年・青年期

著者: 伊藤正男 ,   坪井俊 ,   三國雅彦 ,   森浩一 ,   渡辺義文 ,   野々村禎昭

ページ範囲:P.24 - P.43

 伊藤 本日は,少年・青年期における脳を育む問題を取り上げます。この時期には数学と第二外国語の学習が大きなテーマですが,これらは人格の形成というさらに大きな問題と関連しており,英才教育の是非,日本の教育の危機と問題は広がっていきます。現在の脳科学ではまだカバーできない広範な問題を含んでいますが,思う存分議論していただきたいと思います。

Ⅲ.成人・老年期

著者: 伊藤正男 ,   神庭重信 ,   西道隆臣 ,   下仲順子 ,   御子柴克彦 ,   石川春律

ページ範囲:P.44 - P.60

 伊藤 成人期には脳の能力は安定しているように見えますが,実は,社会の中で職場の中であるいは家庭の中で,絶えず生涯学習が続いています。また高齢者になって,生活のスタイルを変えて第二,第三のライフを始める場合が普通になってきました。人の一生は脳を育む営みの連続ともいえます。今日は高齢者の知能,情動の問題からアルツハイマー病,神経細胞の増殖,移植などの問題を俎上に論じていただきましょう。

連載講座 個体の生と死・17

胃腸粘膜の発生

著者: 片岡勝子

ページ範囲:P.61 - P.66

 胃腸粘膜には突起や陥凹があり,上皮は多種の細胞で構成されている。胃粘膜とその小陥凹である胃小窩は,表層粘液細胞よりなる単層円柱上皮で覆われている。胃小窩下端には管状の胃腺(固有胃腺,噴門腺,幽門腺)が開口しており,ここでは固有胃腺について述べる。峡部は胃小窩と固有胃腺の境界領域で,幼若な表層粘液細胞と壁細胞がある。固有胃腺の頚部には副細胞と壁細胞が,底部には主細胞と壁細胞がある。内分泌細胞については,ここでは触れない。峡部と頚部上端は増殖細胞帯で,新生された表層粘液細胞は胃小窩を上行しながら成熟し,4~5日で粘膜表面より剥脱する。頚部上端では,主として副細胞が新生され,頚部を下行しながら成熟し,頚底移行部で主細胞になり,さらに底部を深層に向かうにつれて成熟する。壁細胞は頚部上端で新生され,大部分は腺を深層に向かうが,一部は上行して峡部に向かう。
 小腸には腸絨毛と腸陰窩が,大腸には腸陰窩のみが見られる。吸収上皮細胞と杯細胞は腸陰窩下半で新生され,陰窩・絨毛を上行しながら成熟し,小腸では絨毛先端より,大腸では粘膜表面より剥脱する。

実験講座

複屈折の二次元計測を利用した成長円錐の細胞骨格の可視化―新しい偏光顕微鏡による細胞骨格観察法

著者: 加藤薫 ,   小椋俊彦 ,   山田雅弘

ページ範囲:P.67 - P.74

 複屈折は「分子の並び」が示す光学的性質の一つである。この性質を生きている成長円錐のアクチン束(繊維状アクチンの「ならび」)の観察に応用した。成長円錐の内部のアクチンに基づく構造は,神経伸長の経路探索に重要な役割を果たすといわれる成長円錐の運動を担っている1-3)。しかしながら,生きた状態でのアクチンの観察は難しく,成長円錐の運動の仕組みは議論の対象となっている。そこで,われわれはR. Oldenbourgが開発した新しい偏光顕微鏡(LC pol-scopeまたはnew pol-scope)4)を用いて,アクチンの複屈折を観察することにより,生きている成長円錐内部のアクチン束を無染色で直接観察できる系を作った。そして,それらのアクチン束の動きを直接記録した5)。この映像を解析して,「filopodiaの動き」,「アクチン束の動態」,「アクチン束の形」の関係を明らかにした6,7)。この新しい偏光顕微鏡を用いた観察法は,観察条件が決まれば,容易に再現性のよい結果が得られるのが利点である注1)。この小文では,この新しい偏光顕微鏡を用いた方法と原理について,できるだけ詳しく述べる。

解説

精神分裂病の最近の研究の進歩

著者: 丹羽真一

ページ範囲:P.75 - P.85

 百年前の20世紀初頭に疾患概念が提起された精神分裂病schizophreniaは,今日の精神科医療の中においても患者数の多さと治療の長期化,患者個人が被る障害の広がりと強さ,疾患が及ぼす種々の経済的影響の大きさなどから見て,精神医学が解決を求められている最大の精神疾患であるといえる。概念提唱から数えて百年の間になされた精神分裂病研究により疾患解明に十分近づいたとは残念ながらいえないが,特に生物学的研究が進展したこの数十年間になされた研究は,概念提唱時には想像だにできなかった成果を生んでいる。
 そこで本稿では精神分裂病研究の最近の進歩につき五つのパートに分けて概略を紹介したい。それは,Ⅰ.生物学的研究による疾患論,Ⅱ.病態の生物学的研究,Ⅲ.分裂病発病・再発機序の研究,Ⅳ.動物モデルによる分裂病研究,Ⅴ.分裂病治療薬の開発,の五つである。

話題

シナプス小胞仮説からSNARE仮説へ―Ladislav Tauc, Heiner Niemann博士を偲ぶ

著者: 持田澄子

ページ範囲:P.86 - P.88

 1990年代の神経伝達物質放出メカニズムの急進的な研究発展のひとつの糸口は,アセチルコリンを伝達物質とするアメフラシ口蓋神経節細胞シナプスの伝達物質放出の研究に勤しんできた故Ladislav Tauc博士(1926-1999:フランスCNRS)のグループと,破傷風・ボツリヌス神経毒素の活性部位の同定とその働きを明らかにしようと試みたOlivier Dolly教授(イギリスインペリアルカレッジ),故Heiner Niemann教授(1945-1999:ドイツハノーバー大学),そしてCesare Montecucco教授(イタリアパドバ大学)の各グループとの共同研究であったと,10年余りの研究の流れを見て思う。神経毒素分子の研究者とシナプス機能の研究者との共同研究は,“シナプス小胞仮説”から“SNARE仮説”への橋渡しであった。
 Tauc博士の研究室では,若手研究者で才気にあふれたBernard Poulainがこの研究プロジェクトに加わり,ほぼ1年後に私が加わったのは1988年であった。私は,2年間,おもにNiemann教授のプロジェクトを任されて,神経毒素のmRNAをアメフラシの神経に発現させ,活性部位を突き止める研究に携わった。私は,Niemann教授が当時おられたチュービンゲンの研究所に幾度かお邪魔して,cDNAからmRNAの作り方を教わった。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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