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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学52巻4号

2001年08月発行

雑誌目次

特集 骨格筋研究の新展開

骨格筋形成におけるマイオスタチンの役割

著者: 泰江章博 ,   西松伸一郎 ,   濃野勉 ,   森山啓司 ,   野地澄晴

ページ範囲:P.256 - P.260

 骨格筋の形成にGrowth Differentiation Factor 8(GDF8)が関与していることは,その遺伝子のノックアウトマウスを解析して初めてわかった。Leeら1)は遺伝子のホモロジーに基づくPCR法により新しいTGFβスーパーファミリーに属する遺伝子群のクローニングに成功し,それらをGrowth Differentiation Factor(GDF)と名付けた。その内の一つがGDF8であり,その機能を解析する目的でGdf8遺伝子のノックアウトマウスを作製した。Gdf8ノックアウトマウスは野生型より体が大きくなり,体重は8週以降では性別を問わず,野生型およびヘテロより約30%重く,それぞれの骨格筋量は野生型同腹仔の2~3倍にもなることがわかった。そのマウスの骨格筋は隆々としており,明らかに正常のマウスよりも筋線維数も細胞の大きさも増加していた。そこで,この遺伝子はマイオスタチン(myostatin)と名付けられた。これらの結果から,この遺伝子産物は筋肉形成を抑制する因子であることが示唆された。
 この研究結果は思わぬ展開をみせた。ノックアウトマウスの表現型にヒントを得て,筋量が20-25%増大した家畜牛のマイオスタチン遺伝子が調べられた。

ニワトリ胚子における骨格筋の発生

著者: 平野茂樹

ページ範囲:P.261 - P.266

 全身の骨格筋は中胚葉から発生する。頭部中胚葉はソミトメアとよばれる脳胞の脇に分布する細胞集団からなり,所定の位置に移動後,頭部の骨格筋を発生させる。一方,体幹部中胚葉は沿軸中胚葉と称せられる神経管の両脇に陥入してきた細胞集団として現れ,次いで規則正しく左右対称に分断された体節になる。体節はさらに変化し,椎板,皮板,筋板に分かれる。このようにして現れた筋板から体壁と体肢の骨格筋が発生する。このように頭部骨格筋と体幹部骨格筋に発生過程の違いがある。しかし筋芽細胞や筋細胞に分子的な差異は認められていない。また,筋束の一つ一つは基本的に全て異なった特定の神経の支配を受けながら特定の関節の運動に関っているので,互いに相手を認識して結合しているようにもみえる。しかし神経が筋を認識するために必要と思われる各筋を特定する特異抗体はいまだ報告されておらず,結合機構も解明されていない。こういった問題を解明するために骨格筋の発生過程の一つ一つを把握しておくことも大切なことであろう。これまで末梢神経の発生と周囲組織の関係を観察してきたが,ここで視点を変えて体幹の骨格筋の発生について筋板の分化から各筋束が分離するまでの経過をまとめてみよう。なお,ここで述べられる所見は引用された文献の一部を除いて全てニワトリ胚子のものである。そのステージはHamburgerとHamilton1)によるものである。

筋収縮の調節蛋白質トロポニンisoformの筋原線維への取り込み選別機構

著者: 豊田直二

ページ範囲:P.267 - P.272

 横紋筋には心筋,骨格筋(速筋,遅筋)などがあり,それらを構成する蛋白質には各筋を特徴づける筋蛋白質が存在することが知られている。すなわち,myosinをはじめとするそれぞれの筋蛋白質(actin,tropomyosin,troponinなど)には心室筋型,心房筋型,速筋型,遅筋型などが存在し,それらは抗原性,アミノ酸配列,mRNAの塩基配列が異なっており分子種(isoform)と呼ばれている。また,幼若期の心筋や骨格筋には成体と異なったisoformが存在することが明らかである。それらのisoformは発達にともなって減少し,分化した筋では,それぞれの筋に特有なisoformのみが発現するようになる1)。このようなisoformの変換は各筋によって特有であり,成体における再生筋においても繰り返されるので,それぞれの筋に特徴的な構造の形成と収縮の機能に関係があるのではないかと思われる2)
 Troponin(Tn)は筋原線維のactin filament上に存在し,Ca2+の存在下で筋収縮を制御するキープロテインである3)。TnはT,I,Cという3成分より構成され,TnIはactinとmyosin相互作用の抑制成分,TnTはtropomyosin結合成分および,TnCはCa2+結合部分である。

筋型コフィリンの分子機能

著者: 毛利蔵人 ,   中島紀代子 ,   細田敦子 ,   佐藤成樹 ,   大日方昂

ページ範囲:P.273 - P.279

 筋肉の収縮装置である筋原線維の形成では,まずアクチンの細いフィラメントへの集合,ミオシンの太いフィラメントへの集合が起こり,さらにその後,両フィラメントは秩序だった横紋構造へと構築されていく。この間にアクチンの新たな重合とともに既存のアクチンフィラメントのダイナミックな再編成が行われると考えられる。また,形成後の筋原線維でもアクチンフィラメントの再編成は,少なくても部分的には起こっているであろう。また,筋原線維の維持のためにはアクチンフィラメントの膜への連絡も重要な要素であろう。
 細胞内でのアクチンの集合とフィラメントの構築は種々のアクチン結合タンパク質により制御されるが,それらの内で,コフィリンは細胞内で活性制御を受けて,アクチンフィラメントの動的な再編成を担う重要なアクチン調節タンパク質として,近年とりわけ脚光を集めている1)。このコフィリンが筋形成において重要であるという認識は,形成途上の筋でコフィリンがG-アクチンと複合体を作って存在することを見出したことに始まる2)。筋原線維形成におけるアクチンフィラメントの動態の制御にコフィリンが重要な役割を果たしているという知見がますます蓄積してきた。筆者らは,ヒトを含め哺乳類においては,非筋細胞に広く分布する非筋型コフィリンに加えて,筋組織に顕著に発現する筋型コフィリンが存在することを見出している3)

骨格筋特異的カルパインの分子機能

著者: 反町洋之

ページ範囲:P.280 - P.286

 カルパイン[E. C. 3. 4. 22. 17, clan CA family C2]は活性にCa2+を要求する中性システインプロテアーゼである1-5)。カルパインは細胞質内に存在して,他の情報伝達因子と直接相互作用し,不可逆的にこれらを制御する細胞内モジュレーターと考えられる。その生理機能は極めて重要であるため,カルパインの活性不全(過剰活性化,不活性化あるいは基質認識変異など)は,筋ジストロフィー症,アルツハイマー病,神経線維腫症など様々な病態を引き起こす。最もよく研究されている,二つのアイソザイム,μ-およびm-カルパインが組織普遍的な発現を示すのと対照的に,一部の器官・組織に特異的に発現が集中するカルパインも存在する。その代表が,本総説で解説する骨格筋特異的カルパイン,「p94」(カルパイン3とも呼ばれる)である。組織普遍的カルパインが細胞の基本的かつ必須な機能を担うのに対し,組織特異的カルパインは発現する組織と密接な機能を果たしていると考えられる。それを裏付けるかのように,p94遺伝子の欠損が肢帯型筋ジストロフィー症2A型(LGMD2A)を発症することが明らかとなっている。以下,まずカルパイン全般について解説した後,p94のユニークな性質を紹介し,LGMD2Aの分子機構とp94の生理機能がどのように関係するかを考察する。

骨格筋における中間径フィラメントネットワークの分子構築―発生過程における再編成の分子機構,機能的意義そして筋疾患との関連性

著者: 土方貴雄

ページ範囲:P.287 - P.293

 アクチンフィラメント,微小管,中間径フィラメントの細胞骨格は多くの細胞にみられ,その形態は細胞によって様々である。また,これら細胞骨格は細胞分裂,遊走,分化の際に再編成される。アクチンや微小管を中心とした細胞骨格構造の分子構築や再編成のメカニズムに関しては,シグナルトランスダクションがらみで数多くの研究がなされているが,中間径フィラメントに関してはあまり多くない。中間径フィラメントの研究が進まなかった一つには,アクチンはアクチン結合タンパク質として数多くのタンパク質が同定されそれらの角度から多角的に調べられたのに対し,中間径フィラメントはその結合タンパク質として同定されているものが非常に乏しかったことが要因となっている。しかし,最近5年間で中間径フィラメントに結合するプラキンファミリーのタンパク質が同定・特徴付けられ新たな展開を示している1)
 プラキンファミリーのタンパク質は中間径フィラメントに結合するだけでなく,微小管やアクチンフィラメントにも結合する。実はこの新たな知見は数十年前の実験においてすでに予測されていた。微小管脱重合剤であるコルセミドで培養細胞を処理すると中間径フィラメントが核周辺に引っ込められケーブル状になることから,実体は不明であったが微小管と中間径フィラメントの結合性が考えられていた2-4)

骨格筋筋小胞体のリアノジン受容体とカルシウム動態

著者: 村山尚 ,   呉林なごみ ,   小川靖男

ページ範囲:P.294 - P.300

 骨格筋形質膜に起きる興奮という電気的現象がどのようにして筋原線維の収縮という機械的現象に転換されるかという問題は,「興奮収縮連関」として以前より多くの研究者の興味を惹き付けてきた。筋肉の収縮弛緩の制御がカルシウムイオン(Ca2+)により行われることが江橋ら1)により確立されて以来,この問題は横行小管(T管)の脱分極が筋小胞体(SR)からのCa2+遊離を惹起する機構の解明へと焦点が絞られた。初期には主としてカエル骨格筋を用いた生理学的研究が多くなされ,その後,分子生物学の発展にともない遺伝子変異マウスなどの哺乳類骨格筋を用いた研究が主流となってきている2)
 われわれはカエル骨格筋のCa2+遊離機構についてリアノジン受容体(RyR)を中心に研究している。本稿では,われわれが最近得た知見を中心に脊椎動物骨格筋の興奮収縮連関機構について考察する。なお紙数の制限のため言及できなかった事柄については最近の総説を参照していただきたい3-5)

骨格筋ジストロフィン複合体の分子構築

著者: 吉田幹晴

ページ範囲:P.301 - P.307

 ジストロフィンはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne Muscular Dystrophy;DMD)原因遺伝子のポジショナルクローニングにより発見されたタンパク質である1)。本来筋の細胞表面膜に存在するものであり,これが遺伝子変異により失われるとDMDになる。遺伝子がX染色体上に乗っていて劣性型の遺伝形式をとるため,患者は通常男子に限られる。ジストロフィンをウサギの骨格筋細胞膜よりジギトニンで抽出して精製すると一群の小分子量成分が結合した状態で得られる。これがジストロフィン複合体であり,小分子量成分はジストロフィン結合タンパク質(dystrophin-associated protein;DAP)と呼ばれる2,3)。この総説ではこれまでに明らかにされた複合体の分子構築について詳しく述べるとともに,複合体およびその各成分についての知見を最新のものを含めて紹介し,最後に筋ジストロフィー発症の機構について簡単に議論しようと思う。

骨格筋細胞における核膜と核ラミナ―エメリンとラミン

著者: 依藤宏

ページ範囲:P.308 - P.313

 従来,骨格筋の研究においては核膜あるいは核ラミナに対してはほとんど目が向けられることはなかった。それがここ5年程にわかに疾患との関係で注目を集めるようになった。そのきっかけはEmery-Dreifuss型筋ジストロフィー(EDMD)の原因遺伝子が解明され,その産物であるエメリンあるいはラミンA/Cが核膜・核ラミナに局在することが知られるようになったためである。この総説ではエメリンおよびラミンA/Cに焦点を絞り,EDMDとの関係で話を進めたい。

骨格筋細胞のカベオリン

著者: 萩原康子

ページ範囲:P.314 - P.320

 カベオリンは細胞膜のフラスコ様凹構造体カベオラを構成する主要な膜内在性タンパク質である。別々の遺伝子にコードされるカベオリン-1,-2,-3が同定されており,カベオリンファミリーとしてまとめられている。哺乳類のカベオリン-1,-2は脂肪細胞,内皮細胞,線維芽細胞などに多く発現し,筋芽細胞でも発現している。カベオリン-3は分化した筋細胞に発現してカベオリン-1と類似性が高いことから,分化した筋細胞では,カベオリン-3が他の細胞におけるカベオリン-1の基本的な役割を担っていると考えられている。この稿では,骨格筋細胞のカベオリンということでカベオリン-3に注目して述べるが,共通した部分は,発見および研究解析が先行したカベオリン-1での報告に基づいて記載した。カベオリン-3独自の役割であるT-管形成への関与および筋ジストロフィーとの関係を後半で述べる。

骨格筋細胞の脱分化と分化転換

著者: 遠藤剛

ページ範囲:P.321 - P.327

 哺乳類では,各組織の最終分化をした細胞は再び分裂することなくその生涯を終えるというのが通説になっている。骨格筋細胞では,未分化の筋芽細胞が融合して多核の筋管細胞を形成することが,最終分化の指標となる。筋管細胞は成熟して,収縮の原動力をになう筋原線維で満たされた筋線維になる。組織の筋管細胞や筋線維だけでなく,初代培養や細胞株の筋管細胞も増殖を停止して細胞周期のG0期に停止している。これらは血清や増殖因子による増殖刺激を与えても再び増殖することはない。しかし培養筋管細胞にSV40large T抗原やアデノウイルスE1Aなどの癌遺伝子を発現させたり,癌抑制遺伝子のRBを欠損させることにより,筋管細胞に細胞周期を再開させ,G1期を経てS期に進行させることができるということが明らかにされた。また少なくともSV40large T抗原の場合には,さらにM期に進行させ,細胞質分裂を引き起こすことが示された。すなわち最終分化をした筋管細胞に脱分化をもたらすことができるということが示されたわけである。この発見により最終分化の概念がくつがえされることになった。
 さらに最近,ホメオボックス遺伝子のMsx1を筋管細胞に発現させると,上記の癌遺伝子と同様に脱分化をもたらし,細胞質分裂を引き起こすことが報告された。筋管細胞から分裂した単核の細胞はさらに分裂を繰り返すことが示された。

筋再生と細胞内シグナル伝達

著者: 上勝也 ,   仙波恵美子

ページ範囲:P.328 - P.333

 筋再生に中心的に働く細胞は1961年にMaruoによりカエル骨格筋で発見された筋線維の細胞膜と基底膜の間に局在するサテライト細胞である1)。正常筋線維において,サテライト細胞は休止状態に維持されている(quiescent satellite cell)。筋が損傷された時,サテライト細胞は活性化され,さかんに増殖を行う。また,いくつかのサテライト細胞は筋再生に参加するために遊走する。増殖を停止して最終分化に移行したサテライト細胞は,ミオシンやアセチルコリン受容体(AchR)などの筋特異的遺伝子を発現するとともに互いに融合して多核の筋管細胞を形成する2)。筋再生はMyoDファミリーが中心的役割を担うとともに,種々の増殖因子やサイトカインが筋再生をポジティブあるいはネガティブに制御していることが明らかになってきた3,4)。しかし,筋再生過程において増殖因子・サイトカインの下流で活性化される細胞内シグナル伝達分子とその役割については明らかにされておらず,これらの解明は筋再生の分子機構を確立するための重要な検討課題である。筋再生にはサテライト細胞の増殖や分化の制御だけでなく,筋損傷に抗して壊死していない筋線維,「surviving myofiber」の生存維持の強化も重要である。さらに再生筋線維の機能獲得には再神経支配(神経再生)が必須である。

連載講座 個体の生と死・19

造血器官の発生―卵黄嚢・AGM領域から胚子肝臓へのシフトを中心として

著者: 佐々木和信

ページ範囲:P.334 - P.339

 ヒトの体内に網の目のように張り巡らされた血管。その中をながれる神秘的な赤い体液‘血液’が,単なる化学物質の溶液ではなく,細胞の浮遊液であることが顕微鏡の出現によって明らかにされて以来,『血液細胞の祖先』という問題は,長年にわたり科学者の心を引きつけ,論争の的となり,その考え方も純形態学の時代から方法論の進歩とともに今日まで大きく変わってきた1,2)。とくにこの数年来,すなわち90年代後半に,細胞培養,分子生物学,遺伝子工学の手法が取り入れられることにより,それまでの考え方が根本から揺さぶりを受けた。
 個体発生において血管形成と同時に進行する血球生成は,胎生期にその部位が移動するという大変不思議な現象がみられる。しかも,各系の血球は出現する時期に差異がある(図1)。なかでも,赤血球造血における原始赤血球生成から恒久型赤血球生成への変化は劇的である。有核で胎児型ヘモグロビンをもつ大型の原始赤血球と,無核で円板状をなし成人型ヘモグロビンを有する恒久型赤血球の違いは,系統発生のドラマを個体発生に垣間見る思いである。Wintrobe's Clinical Hematologyの9版3)から引用した図1は,胎生期に見られる造血の変遷過程をじつに見事に集約している。この図は,筆者が知るかぎり,古くは1961年発行の同書第5版の第1章第1図として掲載されているから,少なくとも約40年近く血液学の国際的な定番教科書に掲載され続けた。

実験講座

細胞内イベントを操作するセミインタクト細胞系―新しいナノテクノロジーの基盤デバイスとして

著者: 加納ふみ ,   村田昌之

ページ範囲:P.340 - P.346

 タンパク質の機能発現研究に,そのタンパク質の「環境」問題が注目されてきている。今まで,「試験管内」という環境で行われてきたタンパク質の機能発現の研究を,「タンパク質が本来機能する場所」(≒「細胞内」)で研究することが重要になってきた。例えば,哺乳動物細胞内では,特定のタンパク質がその機能を最大限に発揮するために他のタンパク質や脂質がそのタンパク質の近傍に集積し,形質膜ドメインおよび細胞質ドメインを形成しているという知見が蓄積してきている。つまり,細胞の中ではオルガネラや細胞骨格がその細胞特有のトポロジーを形成し,タンパク質複合体や膜ドメインの寿命・コンポーネント・大きさなどを最適化させ,その中で機能する個々のタンパク質機能発現に最適な「環境」を提供しているのである。
 細胞内のトポロジー・場所や時間に依存しダイナミックに変化する生理現象の解析や,ある細胞の特定の場所へと機能分子を集積させる細胞内物質輸送・ターゲティング機能の研究は,細胞をすりつぶして行う従来の生化学的手法のみに依存した実験系では困難である。本稿で紹介する「セミインタクト細胞系」は,細胞内で時々刻々と変化する生理現象を,形態学的に観察しながら,生物物理学的手法を交え定量的に解析し,できればその必要因子までも生化学的に解析したいという大変欲張りな発想から生まれた実験システムである。

解説

バイオインフォマティックス:「ツール」から「学」へ

著者: 菅原秀明

ページ範囲:P.347 - P.353

Are you ready for the revolution?……,thepublication this week in Nature and Science ofdraft human genome sequences marks a goodtime to team up with a friendly bioinformaticistand join the action, before it is too late

話題

モノクローナル抗体とDNAチップを利用したプロジェクト

著者: 浜窪隆雄 ,   児玉龍彦

ページ範囲:P.354 - P.356

●トランスクリプトーム解析とプロファイリング
 21世紀にはいって,ポストゲノム時代といわれ,生命科学がパラダイムシフトを起こして新たなステージに移行していく可能性が指摘されている。どのように変化していくのかはっきりとした具体的なイメージはまだ誰も描けていないが,コンピューターの進歩による情報処理能力の飛躍的な拡大と,ロボット技術やレーザー技術の進歩などがあいまって,これまでのように一つの遺伝子を解析することではなく,多数の遺伝子を一挙に解析する技術が現実のものとなってきている。
 ヒトゲノム解読によって,ヒト遺伝子が4万個足らずしかないという予測がなされた1)。数の上からすれば現在のアフィメトリックス社のジーンチップ上に乗っている遺伝子で人間の遺伝子がすべてカバーされてしまうことになる。つまり現在あるDNAチップの技術でヒト全遺伝子の解析が可能という計算になる。現状ではチップの単価が高いという制約はあるものの,どの遺伝子がどのような状態で発現されるかというトランスクリプトーム解析を一挙に行うことができ,これまで時間と労力がかかりすぎて不可能だった網羅的解析により,生命現象の新たなイメージが浮かび上がってくるようになった2-4)

初耳事典

アンジオポイエチン/他5件

著者: 森正樹

ページ範囲:P.357 - P.359

 アンジオポイエチン(Ang)は血管制御に重要な役割を持つ因子である。その受容体であるTie受容体ファミリーは血管内皮細胞に発現するチロシンキナーゼであり,Tie-1と-2がある。Tie-1のリガンドは明らかになっていないが,Tie-2のリガンドはAng-1から-4までの4種類が知られている。Ang-1,-4はTie-2に結合しチロシンキナーゼドメインの自己リン酸化をおこすが,Ang-2,-3はおこさないことから,前者はTie-2のアゴニスト,後者はアンタゴニストとして機能すると考えられている。特にAng-1と-2の研究が進んでいる。Ang-1のノックアウトマウスは血管新生や血管の大小の区別がなく,心臓形成不全により,胎生12.5日目に死亡する。トランスジェニックマウスでは血管径が大きく,血管密度の高い血管新生がおこる。一方,Ang-2のトランスジェニックマウスではAng-1のノックアウトマウスと同様の異常が見られる。
 血管新生と退縮におけるAng-Tie-2の役割は次のように考えられている。血管の安定期には恒常的に血管壁細胞からAng-1が分泌され,血管内皮細胞と壁細胞との接着が保たれ,さらにAng-1は血管内皮細胞のアポトーシスを抑制して,血管構造を安定化している。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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