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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学53巻1号

2002年02月発行

雑誌目次

連続座談会 脳とこころ―21世紀の課題

Ⅰ.脳とこころをいかに結ぶか

著者: 伊藤正男 ,   合原一幸 ,   乾敏郎 ,   藤田哲也 ,   茂木健一郎 ,   野々村禎昭

ページ範囲:P.3 - P.26

 伊藤(司会) 『生体の科学』誌は,この何年か年頭の1号のために連続座談会をお願いしています。昨年は「脳を育む」という題でしたが,これが好評でした。今回は「脳とこころ」の問題を取り上げることにしました。これは究極的なたいへん大きな問題ですが,最近この問題への関心も高まっていますし,科学的な問題としての性格もかなりよく認識されてきているのではないかと思います。
 今日は「脳とこころをいかに結ぶか・物質である脳とこころの間をどうしたら橋渡しできるのか」について,4名の方にそれぞれの立場からのお話をしていただいてから,こころの座としての脳を究極的にどのようにイメージできるかを議論したいと思います。

Ⅱ.こころと脳の要素との関係

著者: 伊藤正男 ,   榊佳之 ,   田中繁 ,   深井朋樹 ,   三品昌美 ,   藤田道也

ページ範囲:P.27 - P.44

 伊藤(司会) 今日はお忙しいところをお集まりいただき,ありがとうございます。
 『生体の科学』誌では毎年新年号のために座談会を開いていますが,今年は「脳とこころ」について,三回にわたりいろいろな角度から議論して頂くことになりました。

Ⅲ.脳における統合の仕組み

著者: 伊藤正男 ,   金子邦彦 ,   谷淳 ,   土屋俊 ,   宮下保司 ,   藤田道也

ページ範囲:P.45 - P.66

 伊藤(司会) これまで二回にわたり脳とこころの関係を議論してきました。今の脳科学は,細胞,シナプス,受容体,遺伝子へと還元論的に脳に迫ってきましたが,今世紀は脳を複雑なシステムとして見直す時期だという感を強くします。しかし,脳は時計を組み立てるような単純なシステムではなくて,とてつもない,宇宙に匹敵するようなシステムです。そういうものをどうやって扱っていいかが実際にはよくわからないのですね。
 脳の複雑なシステムというと,脳全体の複雑なシステム構造という見方と,脳の一つ一つのブロックがそれぞれたくさんの要素からなる複雑なシステムという見方があります。今日は,この両方の立場から脳をみて,こころの問題にどう結びついていくかを議論していただきたいと思います。

連載講座 個体の生と死・21

リンパ管の発生

著者: 中谷壽男

ページ範囲:P.67 - P.74

 毛細血管を流れる血漿の約0.5%が血管外に漏出していく。その量は1日に約20lになる。漏出した液体成分の約90%は再び毛細血管の中に流入する。この量は1日に約18lになる。漏出量と再流入量の差の約2lはリンパとなり,リンパ管に吸収され静脈へと還流される。もし,癌治療などによりリンパ管の一部が取り除かれたり,圧迫などで潰されたりすると,リンパが吸収されなかったり,静脈への流れがせき止められ,リンパは組織間に貯留しリンパ浮腫が起こる。また,先天的なリンパ管の形成異常で,全身のリンパ管網が腫脹する先天性リンパ水腫や,大きなリンパ管腫脹である嚢胞性滑液腫が起こったりする。
 癌では,血管新生因子のVEGFやbFGFなどを大量に産生し,新しい毛細血管網を癌組織内に形成し,栄養を得ている。そのため,血管新生を押さえる治療が行われている。しかしながら,癌細胞はリンパ管の新生も促すともいわれているので,癌細胞は既存のリンパ管だけではなく,この新生リンパ管に侵入しリンパ節転移を起こすと考えられている。

実験講座

GFPを用いた分子間FRET

著者: 宮脇敦史

ページ範囲:P.75 - P.81

 分子間の相互作用を,FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer,蛍光のエネルギー移動)を使って観たいといって筆者を訪れる人々が少なからずいる。彼らはneurobiology,developmental biology,oncologyなどのバックグラウンドをもち,相当に勉強されている。いわゆるシグナル伝達マップをほぼ完壁に消化し,この分子とこの分子との間の相互作用が,生きた細胞で実際に起こっているかを確かめたいという。こういう相談を受けるたびに思うことがある。矢印の確認のためだけのイメージング技術はつまらないかも,と。先の人々の企図するイメージングが,注目する相互作用の時間的空間的特性についてわれわれの知見の幅を広げてくれることには違いはない。しかし,他の手段を使った実験結果からはまず見当のつかないような事実を明らかにするべきイメージングを目指してはどうか。であるからして,イメージング実験に臨んで遊び心をしのばせてみたい。これしか観ない,追わない,というのではなく,懐を広くして構えてserendipitous discoveryが生まれるよう工夫と努力をしてみる。筆者は,網羅的ないわゆるHigh-Throughputを目指したイメージングを推奨しているのではない。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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