特集 RNA
神経分化を制御する神経系特異的RNA結合蛋白質
著者:
今井貴雄1
岡部正隆2
赤松和土1
岡野James洋尚1
岡野栄之1
所属機関:
1慶應義塾大学医学部生理学教室
2国立遺伝学研究所発生遺伝研究部門
ページ範囲:P.84 - P.90
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生物個体の発生過程において,転写調節のみならず転写後調節機構が細胞の分化制御,機能発現を促すために積極的に採択されている。その転写後調節機構は,主にRNA結合蛋白質によって担われている。RNA結合蛋白質は,その構造中にRNA結合ドメインを有する。例を挙げると,RNP type-RNA recognition motif(RRM),KHドメイン(hnRNP K homology domain),double strand RNA結合ドメインなどがある1,2)。それらを有する蛋白質は細胞内においてRNAに作用し,翻訳調節・pre-mRNAのスプライシング・mRNAの安定性制御・mRNAの局所輸送・mRNAの非対称的な分配といったstrategyを巧妙に実行しており,神経系においても,細胞の分化制御にRNA結合蛋白質による転写後調節機構が利用されていると考えられる。
神経系の細胞群は,哺乳類の場合,多種多様な神経細胞・グリア細胞(アストロサイト・オリゴデンドロサイト)から構成され,それらは胎生期の神経発生が盛んな時期に,多分化能と自己増殖能を有する神経幹細胞と呼ばれる前駆細胞が,対称的な細胞分裂と非対称的な細胞分裂を繰り返すことによって生じる3)(図1)。