特集 細胞質分裂
細胞質分裂と細胞膜脂質
著者:
加藤詩子12
榎本和生3
梅田真郷3
所属機関:
1東京都臨床医学総合研究所炎症研究部門
2お茶の水女子大学理学部生物学科
3東京都臨床医学研究所炎症研究部門
ページ範囲:P.232 - P.236
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細胞を形づくる生体膜の主成分は脂質とタンパク質であり,生体膜は脂質が二層に並ぶ脂質二重層を基本構造としている。これまで膜を構成する膜脂質は,脂質二重層中にタンパク質を埋め込み,その活動の場を提供するための構成成分として捉えられてきた。また,脂質分子が細胞内セカンドメッセンジャーとして機能することが示され,脂質プールとしての膜脂質の役割も明らかにされた。その一方で,主として人工膜を用いた解析から,膜脂質の集合体としての機能は,特定のタンパク質だけでなく特定の脂質からなる,区画された膜ドメインを構築することにあると考えられてきた。生体内においては膜ドメインの実体はほとんど明らかになっていなかったが,ラフトと呼ばれるコレステロールとスフィンゴ脂質に富む膜ドメインが生体内に見出され,重要な細胞内シグナル伝達の場となることが示され,膜ドメインにおける膜脂質の機能も注目されてきている。
細胞が分裂するときにも,分裂溝において新しく形質膜が形成されることから,分裂時に特異的な膜ドメインが存在する可能性が指摘されていたが,最近になって,タンパク質分子と脂質分子の両面から,このドメインの実体と細胞機能を示唆する分子レベルの知見が得られてきた。本稿では,細胞分裂における膜脂質の機能について概説するとともに,分裂時に形成される膜ドメインが細胞骨格の制御に関与している可能性について論じる。