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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学53巻4号

2002年08月発行

雑誌目次

特集 一価イオンチャネル

内向き整流性カリウムチャネルの整流特性の分子機構

著者: 松田博子

ページ範囲:P.252 - P.256

 ある種のカリウム(K)チャネルは,内向きにKイオンを通しやすいが外向きには通しにくい特性をもつ。この性質は内向き整流特性,あるいは異常整流特性とよばれる。後者の命名は骨格筋で初めてこの性質を明らかにしたKatz1)によるもので,細胞内K濃度が細胞外K濃度より約30倍高いことから予測されるのとは逆という意味で,また脱分極により活性化し活動電位の再分極を促す“正常な”K透過性(これは遅延整流性とよばれる)と対比させる意味で,異常整流特性と名づけたのである。
 内向き整流特性の成因について,従来,三通りの考察がなされてきた。1)個々のチャネルの電流-電圧関係そのものが内向きに整流している。イオンがチャネルポア(穴)を通過する過程は水溶液中での拡散現象とは異なり,いくつかのエネルギー障壁をこえて起きると考えられ,エネルギー障壁が細胞膜内外に関し非対称に存在すると,整流特性が生じる。個々のチャネルの電流-電圧関係は直線であるが,2)電位依存性のチャネル開閉機構が存在し,脱分極に際しチャネルを閉ざす,3)あるいは細胞内陽イオンが脱分極時チャネルポアに入りこむが外側の障壁を乗り越えることができず,Kイオンの通過を妨げる結果,内向き整流が生じる。

遅延整流性カリウムチャネルβサブユニットMinKとその役割

著者: 古川哲史

ページ範囲:P.257 - P.261

 MinKはTakumiらにより腎臓cDNAライブラリーからクローニングされたアミノ酸129個の小さなI型膜蛋白である1)。心筋細胞の遅延整流性カリウムチャネル(IK)の活性化の遅い成分(IKs)の構成分子であることが判明し,long QTsyndrome(LQT)の原因遺伝子の一つともなる。MinKはIKsチャネルのβサブユニットである以外に他のチャネルの活性化因子である可能性,T管と筋原繊維Z盤を橋渡しする分子である可能性を示唆するデータも報告されている。本稿ではこれらMinKの多彩な機能について概要する。

G蛋白質制御カリウムチャネルの活性調節メカニズム

著者: 石井優 ,   倉智嘉久

ページ範囲:P.262 - P.267

 G蛋白質制御カリウムチャネル(G protein-gated K channel:KG)は,三量体G蛋白質のβγサブユニットが直接結合することにより活性化される内向き整流性カリウムチャネル(Inward rectifier K channel:Kir)である(図1A)1,2)。心臓ではKGチャネルは洞房結節と心房筋に存在する。アセチルコリンがムスカリン性(m2)受容体に結合すると,三量体G蛋白質のαサブユニット上でGDP-GTP交換反応が起こり,Gα-GTPとGβγへ解離する。遊離されたGβγサブユニットによってKGチャネルが活性化され,膜を過分極させることにより徐脈を惹起する。KGチャネルはまた中枢神経系にも存在し,GABAやopioidなどの抑制性神経伝達物質の刺激による遅延性抑制性シナプス後電位(slow inhibitory post-synaptic potential:slow IPSP)を形成している。また,KGチャネルは内分泌細胞にも存在し,ホルモンの開口分泌を抑制する働きを担っている。本稿ではまずKGチャネルの分子実体や活性化の分子機構などについて概説し,その後各組織でのKGチャネルの生理的な活性調節メカニズムについて最新の知見を交えて概説する。

早期不活性化Kチャネルの中枢神経系における局在とその機能制御分子の役割

著者: 大矢進 ,   波多野紀行 ,   今泉祐治

ページ範囲:P.268 - P.275

 中枢神経を始めとする興奮性細胞において,Kチャネルの活性化は膜電位をK平衡電位(約-90mV)へと分極させ,活動電位幅を短縮させ,発火頻度を減少させることにより,膜興奮性に対して抑制的に働くため1,2),細胞電気活動の制御に重要な役割を果たしている。遺伝子工学技術の発展により,電位依存性,内向き整流性,Ca2+依存性,ATP感受性Kチャネルサブタイプがクローニングされ,神経細胞種による静止電位,活動電位波形,発火様式の相違には,Kチャネルサブタイプの発現分布の差異が関与していることが明らかとなってきた3,4)。また,神経細胞機能の極性にはKチャネル蛋白質の局在化(localization)が重要な役割を果たすと考えられている5)
 Kチャネルは,1)イオン孔を形成するαサブユニット,2)その機能制御蛋白質であるβサブユニット,3)αサブユニットと同様の構造を有するがそれ自身では機能的に発現しないγサブユニットに分類される。現在までに哺乳類において100種類程度のKチャネルおよびその関連遺伝子が単離され6),その構造,発現分布,機能特性などがアミノ酸レベルで詳細に解析されている。また,Kチャネルは四量体(一部は二量体)を形成するため,Kチャネル遺伝子種の多様性に加え,ヘテロ体形成が神経細胞におけるさらなるKチャネル機能の多様性を生み出している7)

グリア細胞のカリウムチャネルとK-spatial buffering

著者: 堀尾嘉幸

ページ範囲:P.276 - P.279

 1細胞外Kイオンの功罪
 細胞の内と外ではイオン濃度が著しく異なっている。Kイオンは細胞外に低く,細胞内に高い。逆に,NaイオンとCa2+イオンは外に高く内に低い。細胞はこのようなイオンのアンバランスによって電位(膜電位)を持ち,さらに,細胞内イオン濃度を変化させることによって,膜電位を変えることに成功した。
 神経細胞の興奮は,細胞外からのNaイオンとCa2+イオンの流入に伴って,一過性に膜電位がプラス側に変化することによって起きる。この膜電位変化は,引き続くKイオンの細胞外への流出によって,すぐに元の状態に戻される。このような電位の変化は活動電位と呼ばれる。活動電位が神経の興奮を起こし,骨格筋や心筋の収縮を起こしている。そして確かに,神経活動に伴って細胞外Kイオン[Koが増加する。例えば,神経組織の一つである網膜に光をあてると,[Koの上昇が測定されている1)

膵β細胞のATP感受性カリウムチャネルとその役割

著者: 横倉正明 ,   三木隆司 ,   清野進

ページ範囲:P.280 - P.284

 1983年,Nomaは細胞内のATPにより濃度依存性に閉鎖する性質を持つATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)を初めて心筋細胞において報告した1)。その後,膵β細胞2)をはじめ種々の組織においてもその存在が報告された3)。そして膵β細胞のKATPチャネルを介するK電流は,グルコース刺激やスルホニル尿素剤によって抑制されることが示された4-6)。膵β細胞からのインスリン分泌は栄養素,ホルモン,神経系など様々な因子により調節されているが,そのなかでもグルコースは生理的に重要な調節因子である7)。現在,グルコースによるインスリン分泌の機構として代謝説(図1)が広く受け入れられている。すなわち,グルコーストランスポーター(GLUT2)を介して膵β細胞に取り込まれたグルコースはグルコキナーゼによりリン酸化を受け,解糖系,電子伝達系によりミトコンドリアでATPの産生に変換され,細胞内ATP/ADP比が上昇する。このことが細胞膜にあるATP感受性Kチャネル(KATPチャネル)を抑制し閉鎖させる。その結果,細胞膜は脱分極し,電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)が開口し,細胞内にCa2+が流入し,インスリン分泌が惹起される。KATPチャネルは膵β細胞の代謝レベルとCa2+シグナル-インスリン開口分泌とを結びつける重要な分子である8)

心臓のATP感受性Kチャネルとその役割

著者: 中谷晴昭 ,   鈴木将 ,   植村展子 ,   佐藤俊明 ,   三木隆司 ,   清野進

ページ範囲:P.285 - P.289

 1950年代から心筋を低酸素状態におくと心筋細胞活動電位が短縮することが知られていた。そのイオン機序として外向き電流の増強と内向き電流の減少という二つの仮説が長い間提唱されていたが,その詳細は不明であった1)。1983年Nomaにより細胞内ATPが減少した時活性化するKチャネル,すなわちATP感受性K(KATP)チャネルが心筋細胞に存在することが明らかにされ2),心筋でのKATPチャネルの役割に関する研究が開始された。その後,同様のKATPチャネルが膵臓ランゲルハンス島β細胞3),骨格筋細胞4),神経細胞5),血管平滑筋細胞6)などに存在することが明らかとなるとともに,グリベンクラミド,トルブタミドなどのスルフォニルウレア系糖尿病治療薬がKATPチャネルを抑制すること7,8),クロマカリム,ピナシジル,ニコランジルなどの薬物がKATPチャネルを活性化することが明らかにされた9-11)
 KATPチャネルの分子構造は,1990年代半ばになり清野らのグループにより初めて明らにされた。すなわち,Inagakiらは新しい膜2回貫通型の内向き整流Kチャネル(現在Kir6.1と呼ばれているもの)をクローニングしたが,そのKチャネルは多くの組織に遍在しているものであり,従来から知られていたKATPチャネルとしての機能は明確には出現しなかった12)

低酸素状態において脳を保護するATP感受性カリウムチャネルの働き

著者: 山田勝也 ,   稲垣暢也

ページ範囲:P.290 - P.294

 脳は酸素消費の最も大きい臓器の一つであり,その重量が体重の2%程度であるのに,酸素消費量はからだ全体の約20%に達する1)。実際,脳虚血や呼吸障害,代謝障害などによって,酸素やグルコースなどのエネルギー基質の供給が停止すると,短時間のうちに脳機能が低下して意識喪失を招き,さらに長時間停止するとついには全身痙攣を伴った脳の全般発作(generalized seizure)が引き起こされる1)。また,ひとたび全般発作が起こると,脳酸素消費量(CMRO2)が著しく増加することが知られており,脳全体で神経の細胞内ATP濃度が一斉に低下してしまう恐れがある。このような状態が続けば,不可逆的な細胞傷害を招く危険性が高い。
 最近われわれは遺伝子改変動物を用いた実験により,脳に存在するATP感受性カリウム(KATP)チャネルが低酸素などの代謝ストレス時に全般発作の発生を抑える上で重要な役割を果たしていることを示唆する結果を得た2,3)。そこで本稿においては,多彩な機能をもつKATPチャネルのなかでも特に脳保護機能を中心に,関連する知見とともに紹介する。

ナトリウムチャネルタンパク細胞質側リンカーの構造と性質

著者: 黒田義弘 ,   宮本和英 ,   中川照眞

ページ範囲:P.295 - P.303

 1 研究の背景
 ナトリウム(Na)チャネルは,神経および心筋,骨格筋といった筋肉の興奮性細胞に存在する膜貫通型糖タンパク質であり,αおよびβサブユニットから構成される。その機能は,分子量250kD~300kDからなるαサブユニットに主として存在し,膜電位に依存してゲートを開き,細胞外のNaイオンを細胞内に取り込む。ゲート機構は2段階に行われていることが電気生理学実験から証明されている。すなわち,興奮性膜細胞への刺激に伴って脱分極が引き起こされ,Naイオン選択フィルターの機能を持つゲート(m-gate)が開き,所定量のNaイオンが細胞内に流入した後,細胞質側に存在する不活性化ゲート(h-gate)が閉じることによりNaイオンの細胞内への流入を停止し,元の静止状態へと戻る。
 アミノ酸配列から推定される構造は,相同性の高い四つのドメイン(Ⅰ~Ⅳ)から成り立ち,各ドメインは6本の膜貫通ヘリックス(セグメント1;S1~セグメント6;S6)から構成される1)

生物毒が明らかにするNaチャネル開閉のメカニズム

著者: 山岡薫 ,   木下英司 ,   瀬山一正

ページ範囲:P.304 - P.311

 Naチャネルのゲート機構に影響する毒物は多種多様であり,与えられたスペースで網羅的に紹介するには限界があり内容が散漫になるので,ここでは主に最近著者らが得た実験結果を中心にして関連する二,三の毒物を紹介し,チャネル機能解析におけるそれらの役割について考察してみたい。主にゲート機構に影響を及ぼす生物毒は,活性化ゲートの電位依存性を変え過分極方向に移動させる群と不活性化過程の機能を取り去る群とに分かれる。まずは前者のグループに属するものについて紹介してみたい。Catterallの分類でsite 2 toxinに属するものでveratridine,aconitine,batrachotoxinとgrayanotoxin(GTX)がある。これらの生物毒は(1)電位感受機構の性質を変え,活性化過程の膜電位依存性を過分極方向に約50mV移動させる。(2)不活性化過程を不動化させる。(3)単一チャネル伝導度を正常の三分の一にする,さらに(4)陽イオン選択性に多少ではあるが影響する。次いで後者のsite 3 toxinを紹介する。サソリ毒(α-scorpion toxin)(LqTX)とイソギンチャク毒(ATXⅡ)が属し,これらの毒は選択的に不活性化過程のみを抑制する。

てんかんとナトリウムチャネル変異

著者: 山川和弘

ページ範囲:P.312 - P.315

 ここ数年,複数種のナトリウムチャネルサブユニット遺伝子の変異が続けててんかん患者で報告された。それらのてんかんは,てんかん発作のみを症状とするものから重篤な知能障害を伴うものまでを含む。ナトリウムチャネルの異常はてんかんのみならず,心疾患であるLQT症候群1)や筋疾患の先天性パラミオトニア2)などでも報告があるが,本稿ではてんかんに絞り論じることとする。

脳における多様な非選択的カチオンチャネル

著者: 森泰生 ,   吉田卓史 ,   原雄二

ページ範囲:P.316 - P.322

 脳神経系には一価イオンを透過させる多様なイオンチャネルが存在し,主として膜電位の調節を司っている。これらのイオンチャネルが透過させるナトリウム(Na)や塩素イオン(Cl)などの一価イオンは,細胞内メッセンジャー様の働きもし,神経細胞におけるシグナル伝達や恒常性調節を担う。活動電位の発生に必須である電位依存性ナトリウム/カリウムチャネル,興奮性シナプス後電位を生じるニコチン性アセチルコリン受容体やグルタミン酸受容体,および抑制性シナプス後電位を生じるGABA(γ-aminobutyric acid)受容体やGlycine受容体などの神経伝達物質受容体は,一価イオン透過チャネルの代表である。電位依存性塩素チャネルClCなどのアニオンチャネルもまた,脳神経系には存在する。
 最近,多様なカルシウム透過型非選択的カチオンチャネルが注目されている。分類識別に有効な選択的阻害剤のないことから,本カチオンチャネルの同定は進んでいなかったが,主として分子遺伝学的なアプローチにより,その全貌に迫る努力がなされつつある。全ての一価イオンチャネルを今回の限られたスペースで網羅することは不可能であり,電位依存性チャネルや神経伝達物質受容体に関してはすでに他に総説が充実している1-4)

クロライドチャネルの新しい機能:ATP放出と細胞死誘導

著者: 岡田泰伸 ,   サビロブ・ラブシャン ,   清水貴浩

ページ範囲:P.323 - P.330

 Clチャネルは,神経や筋肉などの興奮性細胞においては静止膜電位をセットしたりシフトする(ことにより多くの場合は興奮性を抑制して膜を安定化させるというバックグラウンド的な)役割を果している。神経においてはグリシンやGABAに対するレセプターチャネル(リガンド作動性Clチャネル)が膜電位シフトの役割を果し,骨格筋においてはClC1という電位依存性Clチャネル静止膜電位をセット・維持する主役を果している。これに対して多くの上皮細胞においては,電解質や水の分泌・吸収機能に直接的に関与しており,その中で中心的な役割を果すのが嚢胞性線維症の原因遺伝子の産物であり,cAMP依存性Clチャネルの分子実体であるCFTR(Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator)である。
 最近,これらの機能に加えて,細胞種を問わずすべての細胞が共通して持っている重要な機能(すなわち,一般生理学的機能)のいくつかにClチャネルが本質的な役割を果していることが次々と明らかにされている。

脳細動脈平滑筋のクロライドチャネルと細胞間コミュニケーション

著者: 山崎純 ,   北村憲司

ページ範囲:P.331 - P.336

 哺乳動物の細胞膜には一価陰イオン(Cl)が通過するチャネル,ポンプや交換輸送体などの経路があるが,Clチャネルの重要性については陽イオンチャネルほどにはあきらかになってはいない。血管平滑筋の細胞もその例外ではないが,平滑筋でのClチャネルの役割は大きいと推測される1,2)。膜電位変化などの電気現象はイオンチャネルを調べる電気生理学実験によって研究され,血管の収縮性と密に関連していると考えられている。Clチャネルが活性化するときには,細胞の膜電位とClの平衡電位(細胞内外のイオン濃度によって決定される)の差が駆動力になって膜電位が平衡電位に向かって変化する。血管平滑筋を例に挙げると,一般的に静止膜電位は約-75mVから-50mVであるので,チャネル活性化時にはClの平衡電位(-30mVから-50mV)に近づくように電位が変化する。この脱分極は血管平滑筋を収縮させるのに充分なほどであると考えられる(-40mVへの脱分極でも血管収縮が起こると報告されている1))。
 これまで血管平滑筋細胞膜のイオンチャネル研究では,一般的に太い血管から酵素で単離した細胞が種々の血管での電気現象の比較の対象になってきた。この種の細胞は電位固定法を使った電気生理学には有用な材料であるといえるが,少なからず多くの問題点を内包している。

連載講座 個体の生と死・24

胎児の身体的発達―胎児超音波計測より

著者: 妹尾大作 ,   秦利之

ページ範囲:P.337 - P.343

 超音波医学の目覚ましい発達により,リアルタイム二次元超音波画像の描出が臨床的に可能となって以来,それまでブラックボックスであった子宮内の胎児およびその付属物(胎盤,臍帯,羊水,卵膜)を明瞭に観察し得るようになり,周産期医療は飛躍的に進歩した。さらに超音波診断装置の解像力の向上に伴い,胎児の中枢神経系,循環器系,消化器系,腎尿路系,体表などにおける個々の臓器を同定できるようになり,胎児期における各臓器の正常発育パターンが解明され1-15),同時に発育不全あるいは形態異常の診断がなされるようになった。近年では,血流などの流動体をカラー表示し,血流速度や血管抵抗などを計測できる超音波カラードプラ法ならびにパルスドプラ法による胎児循環動態の解明も可能となり16),胎児心拍数図などの従来の検査法に比べより早い時期に胎児低酸素症の存在を診断できるなど,機能的評価までもが行われるようになった17)。そして現在では,三次元超音波法を用いた胎児の立体画像を描出し得るようになり,体表の形態異常の診断がより容易になされるようになったうえ18),臓器の発育を体積で評価することも可能となった19,20)。今日では胎児の行動をリアルタイムな三次元立体動画として観察することさえできるようになっており,今後,胎児の発達過程における行動様式の解明が期待されるところである21)

初耳事典

Arginine paradox―アルギニンパラドックス/他5件

著者: 中木敏夫

ページ範囲:P.344 - P.346

 L-アルギニン(L-Arg)が注目を集めるようになったのは,一酸化窒素合成酵素(NOS)の基質であることが明らかになったからである。NOSには3種類のアイソザイムがある。それぞれの精製酵素から得られるKm値は1-2μMである。一方,生体内のL-Arg濃度は血漿,細胞内いずれも約100μMである。このことより,3種類のNOSに対して,L-Argは細胞内濃度によりすでに十分な基質濃度に達していることになる。したがって,L-Argを増加させても活性は最大でもわずかに(1%程度)増加するのみであり,大きな反応として認知できる量のNOが新たに産生されるとは考えられない。それにもかかわらず,新たに外部からL-Argを追加するとNOの産生量が増加し,NOによる生体反応が惹起されることが知られている。この現象をアルギニンパラドックスと呼ぶ。
 この説明として,次のことが考えられている。(1)内因性拮抗物質(ジメチルアルギニン,シトルリンなど)が存在するため,NOSを活性化するためには実際の基質濃度よりも高濃度のL-Argを必要とする。特に神経細胞内のL-Arg濃度は細胞外L-Argへの依存度が高く,シトルリン濃度とL-Arg濃度の比がNOSによるNO産生量を決めるという。これは基質と競合的阻害物質の概念で説明されるといえる。

追悼

杉 靖三郎氏を偲ぶ

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.347 - P.347

 橋田邦彦文相の一番弟子であった杉 靖三郎氏が,白玉樓中の人となられた。
 故人は明治39年(1906年)大阪堺市の生れで,昭和4年(1929年)東京帝国大学医学部医学科を卒業し,物療内科で2年間の修練を経た後,生理学教室に入り,橋田教授に師事して電気生理学を専攻された。昭和7年東京文理科大学・東京高等師範学校に講師として赴任し,人間生理学,健康教育を担当されたのは弱冠26歳の時であった。昭和15年に医学博士の学位を取得,文部省精神文化研究所員となり,昭和19年には東京帝国大学講師を兼任された。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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