特集 一価イオンチャネル
膵β細胞のATP感受性カリウムチャネルとその役割
著者:
横倉正明1
三木隆司12
清野進1
所属機関:
1千葉大学大学院医学研究院細胞分子医学分野
2千葉大学遺伝子実験施設
ページ範囲:P.280 - P.284
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1983年,Nomaは細胞内のATPにより濃度依存性に閉鎖する性質を持つATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)を初めて心筋細胞において報告した1)。その後,膵β細胞2)をはじめ種々の組織においてもその存在が報告された3)。そして膵β細胞のKATPチャネルを介するK+電流は,グルコース刺激やスルホニル尿素剤によって抑制されることが示された4-6)。膵β細胞からのインスリン分泌は栄養素,ホルモン,神経系など様々な因子により調節されているが,そのなかでもグルコースは生理的に重要な調節因子である7)。現在,グルコースによるインスリン分泌の機構として代謝説(図1)が広く受け入れられている。すなわち,グルコーストランスポーター(GLUT2)を介して膵β細胞に取り込まれたグルコースはグルコキナーゼによりリン酸化を受け,解糖系,電子伝達系によりミトコンドリアでATPの産生に変換され,細胞内ATP/ADP比が上昇する。このことが細胞膜にあるATP感受性K+チャネル(KATPチャネル)を抑制し閉鎖させる。その結果,細胞膜は脱分極し,電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)が開口し,細胞内にCa2+が流入し,インスリン分泌が惹起される。KATPチャネルは膵β細胞の代謝レベルとCa2+シグナル-インスリン開口分泌とを結びつける重要な分子である8)。