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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学54巻1号

2003年02月発行

雑誌目次

座談会

生命のナノテクノロジー

著者: 伊藤正男 ,   廣川信隆 ,   木下一彦 ,   楠見明弘 ,   川合知二 ,   横山浩 ,   原正彦 ,   野々村禎昭 ,   藤田道也

ページ範囲:P.2 - P.35

 21世紀の科学技術の研究分野として,生命,情報,材料の三つが特に注目されている。最近,材料から情報にまたがるものとしてナノテクノロジーの重要さが指摘され,目覚ましい発展がみられる。ナノテクノロジーはさらに,生命の研究分野にも重要な影響を及ぼしつつあり,生きた細胞そのものが,自然が創造したナノテクノロジーの産物ともいうべき構造をもっている。今後の生命の科学研究には,ナノテクノロジーの技術,手法や考え方が大きな役割を演ずると期待される。

 『生体の科学』誌では,毎年1号に未来志向の特別企画を行っている。今回は,「生命のナノテクノロジー」と題して,これからの生命研究に対するナノテクノロジーが及ぼすであろう大きな影響について座談会を組み展望していただいた。

座談会に関連して

F1-ATPaseのステップ回転―ATP駆動の分子機械が働く仕組み

著者: 木下一彦 ,   足立健吾 ,   伊藤博康

ページ範囲:P.36 - P.40

 たんぱく質の分子は,たった1個だけでも立派に働くので,分子機械と呼ばれる。例えば,図1に示してあるのは1個の回転モーター分子で,中央上部に突き出ている黒っぽい棒状の部品(サブユニット)が,それを取り囲む六つの灰色の部品の中で回る。われわれの体の中には,この分子モーターがたくさんあり,くるくると回り続けている。原子が縦・横・奥行きそれぞれ数十個並んだ塊がたんぱく質の分子。こんなに小さな分子が,たった1個だけで働くのである。

 この回転分子モーターは,F1-ATPaseないしF1(エフワン)と呼ばれている。体内では,回転により,生体内のエネルギー通貨であるATPを化学合成している。回転による化学合成とは,いったいどういう仕掛けなのだろうか。反対方向に回るときには,ATPを分解して,そのエネルギーを使って文字通りモーターとして働くのだが,合成の時と同じ仕掛けを使うのだろうか。

連載講座 個体の生と死・26

新生児の適応生理と発達

著者: 山口規容子

ページ範囲:P.41 - P.46

 近年の医学・医療の進歩・発展に伴い,ハイリスク妊娠,ハイリスク分娩によるハイリスク新生児の救命率が著しく向上してきた。それに従い,新生児の範囲も,極度の未熟性をもつ児から成熟した正期産新生児に到るまで拡大してきたのも事実である。

 すなわち,極端なハイリスク新生児,超早期産児(妊娠週数28週未満),あるいは超低出生体重児(出生体重1000g未満)の死亡率は年々低下し,生存率が向上した背景には,新生児の子宮内から子宮外への生理的適応に加えて,極端な未熟性を考慮した出生後の管理および適応障害の病態解明に向けて,関係者の日夜献身的努力があったことはよく認識されている。

実験講座

SPring-8を用いた生体イメージング

著者: 八木直人

ページ範囲:P.47 - P.53

 SPring-8と聞くと,多くの人たちは「ああ,あのカレーの砒素の分析の」と思うことだろう。確かにSPring-8はあの事件で知名度が上がったが,それがSPring-8にとってよいことだったかどうかは意見の分かれるところである。科学技術と社会とのかかわりとか,大げさなことをいう前に,SPring-8が法医学的な分析以外にも非常に多くの分野で有用な実験装置であることは,多くの人に知ってもらわねばならない。ここにまとめた生体イメージングの技術も,SPring-8の利用技術全体から見ればごく一部に過ぎない。しかし,それだけでも十分に多くの手法と利用範囲を持っている。

解説

高速原子間力顕微鏡―液中ナノメーター世界の高速撮影

著者: 安藤敏夫

ページ範囲:P.54 - P.60

 タンパク質は時間とともに形態・構造(それと同時に,その周りの場)を変えながら,その特有の機能を個々の分子レベルで発現する。例えば,基質との結合(あるいはそれに続く基質の分解)は最初局所の構造を励起し,それがその後の時間発展するグローバルな変化をドライブし,機能を生じせしめる。すなわち,「構造」と「機能」は密接に関係している。それゆえ,機能する仕組みを理解するには,どのような形態・構造・場の変化が個々のタンパク質分子に起こっているかを知ることは極めて重要であり,様々な技術(電子顕微鏡,蛍光エネルギー移動,蛍光偏光など)を駆使して,その姿を捉えようとする研究が行われている。

 しかし,時間とともに変化するタンパク質の姿を捉えることは困難であり,得られる情報はごく限られている。例えば,X線結晶構造解析や電子顕微鏡法は,タンパク質の構造・形態の精緻な情報を与えるが,それがどのように時間発展するかを示すことはできない。他方,光学的な手法は個々のタンパク質分子の時間的変化を間接的に与えることが可能だが,構造情報を持たないか,持つとしても極めて粗いものでしかない。この限界を破る新しい顕微鏡「高速原子間力顕微鏡」をわれわれは世界に先駆けて開発し,水溶液中で個々のタンパク質分子がドラマティックに動く様子を映像として捉えることに,世界で初めて成功した1)。本稿では,原子間力顕微鏡(AFM)の原理,走査速度律速因子について概説したのち,われわれの装置開発とその装置による高速イメージング,および将来の展望について述べる。

核内ステロイドレセプターを介した情報伝達の分子機構

著者: 加藤茂明

ページ範囲:P.61 - P.66

 体内や食品に存在する低分子量脂溶性生理活性物質の中には,核内レセプターリガンドとして作用するものが数多く知られている。すなわち,ステロイド/甲状腺ホルモン,ビタミンA(レチノイド),ビタミンD群のエイコサノイド,さらにコレステロール代謝体などである1)。核内レセプターは,一つの原初遺伝子から分子進化した遺伝子スーパーファミリーを形成しており,いわゆるクラスⅡ遺伝子群の発現を制御するDNA結合性転写制御因子である。ヒトゲノム解読の結果,48種のレセプターが存在すると考えられている1)。そのためこれらレセプターリガンドの分子作用メカニズムは,核内レセプターを介した標的遺伝子発現制御にある。本稿では,すべての核内レセプターに共通した主機能である遺伝子制御機能を中心に,核内レセプター機能について概観したい。

話題

中国医学界の現況―上海健康科学中心

著者: 遠藤政夫

ページ範囲:P.67 - P.69

 上海は中国の欧米への窓口として特異な位置を占めている。10年以上前,北京から上海を訪問した時も上海の活気には圧倒されたが,至るところ道路が建造中だらけであるということと,街の中が活気に満ちているという点はいささかも変わっていなかった。

 山形大学医学部と上海第二医科大学が姉妹校関係を締結してからすでに18年になる。消化器を専門とする第二内科初代教授であった故石川誠先生は漢方医学に見識が深かった。中国における消化器病医学研究の中心が上海第二医科大学附属病院西仁済(Renjin)病院の消化器病医学研究所であったところから姉妹校関係を結ばれたのが発端である。その間,山形県の財政的援助により上海第二医科大学から6ヵ月の短期間ではあるが12名の助教授・講師クラスの研究者が山形大学医学部附属病院に留学している。今回の訪問で,これらの留学生のすべてが教授または附属病院診療部長に昇進して活躍していることが判ったことは嬉しいことのひとつであった。

初耳事典

nagie oko(nok)/他5件

著者: 政井一郎 ,   深尾敏幸 ,   松本昌泰 ,   梶本佳孝 ,   田中伸幸 ,   小倉明彦

ページ範囲:P.70 - P.72

nagie oko(nok)

(政井一郎 理化学研究所政井独立主幹研究ユニット)


ナンセンスにはきりがない―新しいスプライシング変異NAS

(深尾敏幸 岐阜大学医学部附属病院小児科)


脳の神経幹細胞は常に新ニューロンを作っている?

(松本昌泰 広島大学大学院医歯学総合研究科脳神経内科学)


PDX-1:インスリン分泌細胞への分化を誘導する因子

(梶本佳孝 大阪大学大学院医学研究科病態情報内科学)


SARA and Ski

(田中伸幸 東北大学大学院医学系研究科免疫学分野)


忘れさせタンパク質

(小倉明彦 大阪大学大学院生命機能研究科)

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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