icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学54巻2号

2003年04月発行

雑誌目次

特集 樹状突起

細胞突起形成機構の分子形態学的解析

著者: 小林直人 ,   齋藤正一郎 ,   脇坂浩之 ,   樅木勝巳 ,   重本和宏 ,   宮脇恭史 ,   齋藤恭子 ,   松田正司

ページ範囲:P.76 - P.81

[1] 樹状突起と足細胞:突起形成に共通するメカニズムとは

 ヒトの細胞の種類は少なくとも200種を超えるというが,その中で「突起」を持つ細胞の種類はさほど多くはない。突起形成細胞の代表格である神経細胞neuronの他,著者らが研究している足細胞podocyte(腎臓の糸球体上皮細胞)や,グリア細胞glia,肝臓の星状細胞(伊東細胞)stellate cell,免疫系の構成細胞の一つである樹状細胞dendritic cellなどが典型的な細胞突起を形成する。これらの細胞の間で,突起形成のメカニズムに共通性・一般性はあるのだろうか。

 本稿では,突起形成を細胞質側から支える細胞骨格系をキーワードとし,主に神経細胞と足細胞との比較を通して,突起形成細胞に共通するメカニズムとは何かを考察する。論考の詳細に関しては,著者らのこれまでの総説1-6)も参照されたい。

糸状仮足形成,葉状仮足形成のシグナル伝達

著者: 末次志郎

ページ範囲:P.82 - P.89

[1] はじめに―アクチンによる形態形成と細胞運動

 細胞が運動(migration)するとき,ダイナミックなアクチン細胞骨格の再構成が起こる。細胞は運動していく方向に向かってアクチンを重合させる(図1)。重合して新たに形成されたアクチンフィラメントは糸状仮足(フィロポディア)や葉状仮足(ラメリポディア)といった形態をとる。成長円錐(growth cone)の伸展もまた細胞運動のときと同様に糸状仮足や葉状仮足形成を伴う。糸状仮足はアクチンフィラメントの束からなる突起状の構造であり,葉状仮足は網目状のアクチンフィラメントからなっている。これらの構造の形成は非常にダイナミックであり,非常に早いアクチン重合が起こる必要がある。アクチンフィラメントは反矢じり端と矢じり端の二つの端を持つが,早く重合するのは反矢じり端である。このため,早いアクチン重合は反矢じり端で起こる。

 アクチン重合を開始するためにはアクチン重合核を形成する必要がある。アクチンだけのin vitro系において,アクチン重合核形成はアクチンの三量体形成か,反矢じり端が露出されたアクチンフィラメントの付加である。しかしながら,細胞内では単量体アクチン結合タンパク質のためアクチンの三量体形成はほとんど起こらない。また,アクチンフィラメントの反矢じり端はキャッピングタンパク質など様々なアクチン結合タンパク質によって覆われている。そのため細胞におけるアクチン重合の開始はシグナル依存的なタンパク質が制御している。一つはArp2/3複合体という重合核になりうるタンパク質を活性化し,重合核とする方法である。もう一つは覆われている反矢じり端をPIP2などのシグナル分子が露出させ,この端を重合核として用いる方法である。

 特に葉状仮足においては,Arp2/3複合体はアクチン重合核形成において重要であるだけでなく,網目状構造を作る基礎となる。in vitroでArp2/3複合体とアクチンを混ぜ重合条件にすると70度の角度で枝分かれしたアクチンフィラメントが形成される1)。これは細胞の葉状仮足でみられるアクチンの枝分かれ角度と同じである2)。また,葉状仮足においてArp2/3複合体は枝分かれの基部に存在している。アクチン重合を誘導するメカニズムはほかにも考えられるが,Arp2/3複合体を介したメカニズムが網目状の形態を直接説明できる。

 このArp2/3複合体の活性化因子として重要なのがWASPファミリータンパク質である。WASPファミリータンパク質はArp2/3複合体のアクチン重合における重合核形成機能を活性化し,アクチン重合を爆発的に引き起こす3,4)。実際に葉状仮足形成においてWASPファミリータンパク質およびArp2/3複合体は必要不可欠であることが示されている5)。成長円錐にWASPファミリータンパク質は局在し,成長円錐の伸長におけるアクチン重合を制御していると考えられる(図1)。

 仮足形成においてはこのような重合を促進するシグナルだけでなく,アクチン脱重合を抑制し,その結果としての重合の促進も重要であると考えられる。脱重合にはコフィリンと呼ばれるタンパク質が重要であると考えられ,コフィリンはLIMキナーゼによってシグナル依存的に制御されている。また近年,Ena/VASPファミリータンパク質が反矢じり端のキャッピングタンパク質と拮抗し,仮足形成におけるアクチン重合を促進しているとのデータが提出された。

 本稿ではWASPファミリータンパク質とArp2/3複合体,コフィリンとLIMキナーゼ,Ena/VASPファミリータンパク質とキャッピングタンパク質について述べる。

ポストシナプス・樹状突起スパインにおけるCaMKⅡの空間的シグナリング

著者: 稲垣直之

ページ範囲:P.90 - P.96

[1] CaMKⅡとシナプスの可塑的変化

 カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ(CaMK)Ⅱは,細胞内においてカルシウムシグナルのエフェクターとして働き,様々な細胞の機能を調節している1-3)。特に神経細胞においては,CaMKⅡは樹状突起棘(スパイン)のポストシナプスに豊富に存在しており,シナプスの可塑性や記憶に重要な役割を果たしていると考えられている(図1)。この点に関して,long-term potentiation(LTP)や学習行動とCaMKⅡとの関係を示唆するCaMKⅡ阻害剤やCaMKⅡノックアウトマウスを用いた数多くの報告がなされてきた4-6)。また,CaMKⅡがシナプスの可塑性に直接関与する細胞内分子メカニズムの例として,プレシナプスから放出されたグルタミン酸によるNMDA受容体の活性化とそれにひき続いて起こるカルシウムシグナル,CaMKⅡの活性化,AMPA受容体のリン酸化と反応性の増強が報告されている(図1)7)

 このように,ポストシナプスにおけるCaMKⅡのシグナル伝達は,他の神経細胞からのシグナルを樹状突起・細胞体に伝えるのみならず,シナプス自身の伝導効率を調節するという重要な役割を担っている。従って,ポストシナプスにおけるシグナル伝達の意義はON/OFFといった時間軸の情報を伝えるだけではないと考えられる。すなわち,1本の樹状突起上のシナプスでも,どの神経細胞由来の軸索との間に形成されるポストシナプスでCaMKⅡの活性化が起こったかという「空間的なシグナル伝達」が重要な意味を持つと予想される。

シナプス結合の3次元構造―GABA作働性シナプス

著者: 窪田芳之

ページ範囲:P.97 - P.103

 大脳皮質や線条体など,脳に存在している局所神経回路がどのように機能しているのか,現在,まだ全くの謎である。機能原理が理解できれば,多くの分野に対する貢献ができるであろう。例えば,癲癇やアルツハイマー型痴呆症などの脳疾患の根本的な治療や,制御理論への応用などである。多くの研究者が注目を始めたとはいえ,局所神経回路の機能的構造の本格的な解析はまだ始まったばかりで,残念ながら完全解明には程遠いという現状である。機能的な構造を理解する上で,GABA作働性の抑制性シナプスがどのような構造でターゲットの神経細胞を神経支配しているかを理解することは,非常に大事であると考えられる。形態学の分野では,「形が機能を表す」といわれており,歴史的に形の解析から推論され証明されるにいたった生体の機能も数多い。皮質回路の機能の解明も多方面から進められているが,私は,電子顕微鏡で観察し同定した非対称型のシナプスの画像を連続超薄切片から取込み,それをもとに3次元的な像を再構成し,抑制性シナプスの接着構造に関する詳細な検討を行っている。興味深い結果が出たので,機能的な意義にも一部ふれながら紹介する。

シナプス裏打ち蛋白質のシナプス局在化機構

著者: 神作愛 ,   畑裕

ページ範囲:P.104 - P.110

[1] 分子のシナプス局在決定機構を研究する意味

 神経シナプスは神経伝達の場であると同時に細胞接着の場である。神経シナプスには神経伝達物質放出に関わる分子群と,神経伝達物質を受容する分子群が局在し,さらに,細胞接着構造を形成する分子群が集積している。神経シナプスを他の細胞間結合から際立たせる特徴のひとつに,「神経シナプスはシナプス入力依存的に構造的,機能的に変化する」という現象がある。この現象が,脳における神経回路網の再編をもたらし,その積み重ねの上に記憶学習のような高次機能が成立すると想定されている。したがって,神経シナプスの構造的,機能的変化を分子レベルで解明することが,神経生物学の重要な課題になっている。神経シナプスが神経伝達の場であると同時に細胞接着の場であることに対応して,神経シナプスの変化にも,神経伝達効率の変化と細胞接着の変化の二つの側面があるはずであり,おそらく両者は密接に関係していると考えられる。

 これまでの研究により,神経伝達効率の変化をもたらす分子機構については,多くのことが明らかになっている。とくに最近の大きな成果として,AMPA型グルタミン酸受容体のシナプス膜上の局在を制御する分子機構の解明をあげることができる1)。神経伝達の直接の担い手である受容体の数が変動すれば,神経伝達効率がそれに伴って変化する可能性は容易に想像される。本特集の別の項目に詳述されると思われるが,樹状突起のスパインにも種々の形状があり,例えばAMPA型グルタミン酸受容体が局在しているかどうかによって,形状が変化することが知られている2)。この形状変化は,シナプス活動に依存する細胞骨格の再編の結果かもしれない。すなわち,神経シナプスの変化は,分子レベルでは受容体や細胞骨格などのシナプスを構成する分子のシナプスへの集積状態の変化として捉えることができる。私どもが,シナプスを構成する分子のシナプス局在決定機構に関心をもっているのも,そのためである。とくに,私どもは,シナプスの分子構造の変化を,シナプス入力のみならず細胞接着の側面からも明らかにしたいと考えている。つまり,シナプス入力に依存して細胞接着が変化するか,細胞接着の変化に依存してシナプス入力の効率が変化するか,そしてそのときにシナプスの分子構造にどのような変化が生じているのかという問題を設定している。

樹状突起mRNAの局在化,翻訳制御機構

著者: 松岡洋祐 ,   米田悦啓

ページ範囲:P.111 - P.117

 学習,記憶といった高次脳機能に蛋白質合成が必要であることは古くから知られていたが,近年になってアメフラシの培養神経細胞やラット海馬スライスを用いたシナプス可塑性を検討するin vitroモデルシステムにおいて,樹状突起での局所的蛋白質合成がシナプス可塑性発現に必要であることが示された1,2)。さらには2002年にカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼⅡのαサブユニット(CaMKⅡα)の樹状突起での翻訳を阻害したマウスを作製した結果,記憶障害を持つことが示され3)in vivo系で初めて脳機能における局所的蛋白質合成の重要性が示された。樹状突起における局所的蛋白質合成の研究は1982年のStewardらによる樹状突起の棘突起(スパイン)基部でのポリソーム発見が端緒となっている4)。この発見により,細胞体とは独立に樹状突起でも蛋白質合成が行われている可能性が示唆された。その後,ある種のmRNAは細胞体のみならず樹状突起にも局在化すること5),小胞体,ゴルジ装置が形態学的にも機能的にも樹状突起中に存在し,実際に細胞体から単離された樹状突起において蛋白質合成とそれに続く糖鎖付加が行われ得ることが示され6),樹状突起が細胞体から独立した蛋白質合成コンパートメントとして機能することが示された。このような研究の流れにのって,現在では樹状突起での局所的蛋白質合成の分子機構と,その前提となるmRNAの局在化機構についての研究が盛んに行われている7)。本稿では最近の知見を中心に,現在までに得られている成果を概説する。

樹状突起性細胞接着分子テレンセファリン

著者: 吉原良浩

ページ範囲:P.118 - P.124

 神経細胞は極性を持った細胞である。すなわち神経細胞は,軸索(axon)と樹状突起(dendrite)という構造および機能の異なった2種類の神経突起をもつ1)。形態的には多くの場合,軸索は樹状突起より細く,長く,またミエリンにまかれる場合がある。樹状突起は基部が太く,先端ほど細くなっており,スパインをもつものがある。機能的には一般に,軸索末端はシナプス前部を形成し,樹状突起および細胞体はシナプス後部を形成する。すなわち軸索と樹状突起は神経伝達の方向性を決定しており,その接点であるシナプスを介して神経回路網が機能する。分子的側面においても軸索と樹状突起は明らかに異なっており,それぞれに特異的にソーティングされる多くの分子が存在する2,3)。これまでに細胞骨格蛋白質4),神経伝達物質受容体5-7),イオンチャネル8)などが特異的に軸索あるいは樹状突起に存在することが報告されており,それら分子の選択的ソーティングにモーター蛋白質9,10)や低分子量G蛋白質11)などの関与が示唆されている。細胞認識・接着分子群についても例外ではない。

 これまでに多数の軸索性細胞接着分子(axon-associated cell adhesion molecules:AxCAMs)が報告されているが12,13),樹状突起特異的に局在する接着分子(dendrite-associated cell adhesion molecules:DenCAMs)については少数の例しか見出されていない14,15)。その中でも終脳特異的蛋白質テレンセファリンが1994年に初めてのDenCAMとして報告され14),最近ではその終脳特異的発現調節機構,樹状突起特異的ソーティング機構さらには樹状突起形態形成における機能的役割について解明されつつある。本稿ではテレンセファリン発見のいきさつから,その構造・発現・機能解析について最新のデータを交えて解説する。

樹状突起機能の2光子励起ケイジドグルタミン酸法を用いた解析

著者: 河西春郎 ,   松崎政紀 ,   野口潤 ,   安松信明

ページ範囲:P.125 - P.129

 大脳皮質の錐体細胞ではグルタミン酸作動性入力の90%が樹状突起のスパインに入力する。スパインの形は変化に富み,頭部が大きく発達した太いスパインと,頭部の小さい細いスパインに大別される(図1a)。この多形性に関して,D. Purpuraらは,精神遅滞児においてスパインの形成異常(spine dysgenesis)が一般に見られ,細いスパインが圧倒的に多いことを報告した(図1b)1)。このスパインの形と機能については長らく議論があり,たとえばF. Crickはスパインのネックが短くなれば(spine twitch)電気的結合が増し,シナプス結合が強くなり,そのような過程が記憶と関係する可能性を推論したことは有名である2)。スパイン機能は2光子励起法(図2a)が登場してから,著しく解析が進むようになった。2光子励起法では近赤外光を用いるために臓器の深部で断層画像が得られる(図2b)。この方法論を用いた研究により,スパインネックは,Crickの説で仮定されているような電気的な遮蔽よりも,たとえばカルシウムイオンなどの代謝的な因子を遮蔽し,スパイン機能を個別に調節しやすいようにするとする実験結果が示された3)。また,自然刺激あるいはテタヌス刺激でスパインの形態変化が誘発されること4),さらに,太いスパインはin vivoで1ヵ月以上安定であることもマウスでわかってきた5,6)。しかし,これらの研究では,スパイン形態と機能との関係は明らかにされていない。

ニューロステロイドのシナプス形成誘導作用

著者: 筒井和義 ,   坂本浩隆 ,   浮穴和義 ,   古川康雄

ページ範囲:P.130 - P.137

 高次情報中枢である脳は末梢内分泌腺が合成するステロイドの標的器官として捉えられてきた。ところが,最近の研究により,脳も独自にコレステロールをもとにステロイドを合成していることが明らかとなった。この新しい概念の脳分子は,末梢内分泌腺がつくる従来の「古典的ステロイド」と区別して,「ニューロステロイド(neurosteroids)」と名付けられた。脳のニューロステロイド合成は,哺乳類を用いたBaulieuら(INSERM,フランス)の研究とわれわれの鳥類,両生類,魚類の研究により見出された。脊椎動物の脳は共通して,コレステロールをもとにプレグネノロン,プレグネノロン硫酸エステル,デヒドロエピアンドロステロン,プロゲステロン,プロゲステロン代謝ステロイド(アロプレグナノロンあるいはエピプレグナノロン),テストステロン,エストラジオールなどを合成する。

 これらのニューロステロイドの作用を解析するには,脳のニューロステロイド合成細胞を明らかにする必要があった。われわれは,可塑性シナプスを有するニューロンとして知られる小脳のプルキニエ細胞(Purkinje cell)が活発にニューロステロイドを合成することを見出し,ニューロンによるニューロステロイド合成を初めて証明した。プルキニエ細胞が脳の代表的ニューロステロイド合成細胞であることは脊椎動物に一般化される重要な発見である。

マウス遺伝学による神経回路網精緻化の研究

著者: 岩里琢治 ,   糸原重美

ページ範囲:P.138 - P.145

 発達期の脳において,遺伝的プログラムに従って,細胞移動や軸索誘導が起こり,おおまかな神経回路が形作られる。高等動物の神経回路が機能的なものとして完成するためには,それに加えて,発達期のある特定の期間に,神経活動によって回路が精緻化されることが必要と考えられている。こうした神経活動依存的な回路発達の機構は,これまで哺乳類をはじめとする脊椎動物の感覚系を有力なモデルとして研究されてきた。最もよく用いられてきたのは,ネコやフェレットなど大型動物の視覚系であり,手法としては主に薬理学が用いられた。マウスやラットの体性感覚系にある,バレル(barrel)と呼ばれる特徴的な神経構造の形成もまた,優れたモデル系として注目されてきた1)。しかし,動物が小さいためか,従来の薬理学的手法が有効に適用できず2,3),そのため分子機構の研究はほとんど進んでいなかった。近年,マウス遺伝学的手法が導入されることによって,ようやく齧歯類に特有のバレル形成に関する分子機構を解明する試みが端緒についた。本稿では,樹状突起発達に関する最近の知見を含め,バレル形成機構についての遺伝学的研究を概説する。

連載講座 個体の生と死・27

乳児の発達と生理

著者: 小西行郎

ページ範囲:P.146 - P.151

 乳幼児の行動発達については,コミュニケーションの難しさや体動のために,脳機能の発達を調べる手段が限られていた。しかし,最近では脳解剖学をはじめとした脳科学の進歩に伴い,徐々にではあるが脳の発達のメカニズムが明らかになりつつある。ここでは脳解剖学で得られた細胞死やシナプスの形成あるいは髄鞘化などと行動発達などの関係などについて述べたい。

解説

個体発生と酵素多型―アフリカツメガエルのアルドラーゼを中心に

著者: 塩川光一郎 ,   梶田恵理 ,   堀勝治

ページ範囲:P.152 - P.157

 同一の生物種にあって,本質的に同一の反応を行う酵素タンパク質が複数個ある場合,これを酵素レベルの多型(ポリモーフィズム)すなわち,酵素多型と呼び,その多型を示す酵素タンパク質のアミノ酸の配列が異なる場合,そのそれぞれを互いに他に対して,アイソザイム(イソ酵素)と呼んでいる。

 酵素多型の現象については,1950年代の初めにすでにエステラーゼなど,多くの酵素で知られていたが,当時はまだ酵素多型という概念がなく,抽出・精製の過程における何らかの修飾の結果であろうと考えられていた。ところが,Johns Hopkins大学のClement L. Markertは電気泳動的に異なるマウスの乳酸デヒドロゲナーゼ(乳酸脱水素酵素;LDH:lactate dehydrogenase)について詳細な研究を行い,これが同じような機能をもつサブユニット分子の組み合わせによって生ずる酵素多型によることをつきとめ,1959年,同じ反応を行う一群の酵素タンパク質をアイソザイムと呼ぶことを提案した1)

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?