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特集 樹状突起
ポストシナプス・樹状突起スパインにおけるCaMKⅡの空間的シグナリング
著者: 稲垣直之12
所属機関: 1奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科細胞内情報学講座 2科学技術振興事業団さきがけ研究21「認識と形成」
ページ範囲:P.90 - P.96
文献購入ページに移動カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ(CaMK)Ⅱは,細胞内においてカルシウムシグナルのエフェクターとして働き,様々な細胞の機能を調節している1-3)。特に神経細胞においては,CaMKⅡは樹状突起棘(スパイン)のポストシナプスに豊富に存在しており,シナプスの可塑性や記憶に重要な役割を果たしていると考えられている(図1)。この点に関して,long-term potentiation(LTP)や学習行動とCaMKⅡとの関係を示唆するCaMKⅡ阻害剤やCaMKⅡノックアウトマウスを用いた数多くの報告がなされてきた4-6)。また,CaMKⅡがシナプスの可塑性に直接関与する細胞内分子メカニズムの例として,プレシナプスから放出されたグルタミン酸によるNMDA受容体の活性化とそれにひき続いて起こるカルシウムシグナル,CaMKⅡの活性化,AMPA受容体のリン酸化と反応性の増強が報告されている(図1)7)。
このように,ポストシナプスにおけるCaMKⅡのシグナル伝達は,他の神経細胞からのシグナルを樹状突起・細胞体に伝えるのみならず,シナプス自身の伝導効率を調節するという重要な役割を担っている。従って,ポストシナプスにおけるシグナル伝達の意義はON/OFFといった時間軸の情報を伝えるだけではないと考えられる。すなわち,1本の樹状突起上のシナプスでも,どの神経細胞由来の軸索との間に形成されるポストシナプスでCaMKⅡの活性化が起こったかという「空間的なシグナル伝達」が重要な意味を持つと予想される。
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