特集 クロマチン
セントロメア特異的なクロマチン構造
著者:
深川竜郎1
所属機関:
1国立遺伝学研究所総合研究大学院大学先導科学研究科
ページ範囲:P.179 - P.184
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正常な真核細胞では,ほぼ決まった時間周期で染色体の複製と分配が正確に行われる。染色体の複製・分配といった基本的な生体反応に狂いが生じると染色体の異数化,がん化など細胞に対する悪影響が生じる。したがって,染色体複製や分配機構を解明することは,複雑な細胞システムを理解するためには不可欠な研究である。細胞周期のS期で複製された染色体は,M期では両極から伸びた紡錘体(spindle)に捕えられ,娘細胞へと分配される。この際,紡錘体が結合する染色体の特殊構造はキネトコア(kinetochore)と呼ばれている。キネトコアが形成される領域はセントロメア(centromere)という言葉で定義されており,その領域に存在するDNAと複数のタンパク質から構成されている。1本のヒト染色体は数十Mbから数百Mbの長さを持つが,セントロメアとして紡錘体が結合する領域は数百kb程度の大きさである。長い染色体からセントロメア領域が選ばれる分子機構には未知な点が数多くあったが,最近の研究の進展から多くの生物種を通じて共通したセントロメア領域のクロマチン構造が存在することがわかってきた。
セントロメアのクロマチン構造に関する研究は,基礎生物学的な重要課題のひとつとして認識されてきたが,近年,がん細胞で生じる染色体不安定性の要因解明といった視点からの医学研究としても研究が活発に行われている。それらの視点に加え,セントロメアに関する基礎知識をもとに将来的には遺伝子治療などに応用できる人工染色体ベクターの開発への期待も高まっている。本稿では,セントロメアのクロマチン構造に関する最新の研究成果と残された問題点について解説したい。