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文献詳細

雑誌文献

生体の科学54巻3号

2003年06月発行

文献概要

特集 クロマチン

クロマチンリモデリングと遺伝子発現制御

著者: 広瀬富美子1 松影昭夫2

所属機関: 1愛知県がんセンター研究所発がん制御研究部 2日本女子大学理学部生物化学研究室

ページ範囲:P.197 - P.205

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[1] クロマチンリモデリングとは

 多細胞動物は,一つの受精卵から出発して,時間的/空間的に精密に決められたプログラムに従って,細胞分裂と分化を進行させて形成される。ヒトの場合,約60兆個の細胞からなり,その種類は200を超える。すべての細胞が基本的には,同一の2セットのゲノムをもちながら,様々な形と機能を持つことができるのは,3-4万個ある遺伝子の発現の違いによっている。特定の細胞で,ある遺伝子は転写され,別な遺伝子は転写されないことは,どのようにして決められているのであろうか。また,ある細胞が外的刺激や分化の過程で質が変わるとき,一連の遺伝子発現のONとOFFの切り換えが必要となる。これを調節する機構はどのようなものであろうか。遺伝子の発現パターンの維持(分裂で生じた二つの細胞もそれは受け渡される)と,変化に伴った発現のシフトをもたらしているのは,DNAのヌクレオチド配列の変化を伴わない(エピジェネティックな)制御機構によっている。これには,DNA塩基の修飾(CpG配列にあるシトシンのメチル化),ヒストンの修飾(アセチル化やメチル化),様々なDNAやヒストンに結合する制御因子や修飾酵素が関わっている。さらに,遺伝子発現パターンが変化するためには,DNAとヒストンで構成されるクロマチンの構造を変化させる必要がある。これに関わるのが,クロマチンリモデリング因子(以下CRF)である。これらの多くの因子による一糸乱れない共同作業があって,転写という壮大なオペラのプリマドンナである転写酵素RNAポリメラーゼが登場できるのである。

 真核生物のクロマチンは,形態学的にはヘテロクロマチンとユークロマチンの二つの状態として核内で観察される。前者はDNAとヒストンの複合体が高度に凝縮した状態で,後者は脱凝縮して弛んだ状態にある。細胞切片を透過電子顕微鏡で観察すると,前者は主に核膜近くで濃く染色され,後者は核中央部に薄く染色される領域として観察される。また,ショウジョウバエの唾腺多糸染色体では,ヘテロクロマチンは濃く染色されるバンド,ユークロマチンは染色バンドの間の薄く染色される領域として見える。機能的には,ヘテロクロマチンにある遺伝子は,転写活性が高度に抑制された状態(silent state)にあり,ここでは,これをⅠ相と呼ぶことにする。一方,ユークロマチン(Ⅱ相)にある遺伝子は,さらに三つの相のいずれかにあると考えられる。転写が不活性な基本相(ground state:Ⅱ-A),転写開始の準備が整った状況(poised state:Ⅱ-B)および転写が進行している活性な相(active state:Ⅱ-C)である1)(図1)。卑近な喩えでいうと,Ⅰは銀行の金庫にしまわれたお金,Ⅱ-Aは取り出し可能な,例えばATMにあるお金,Ⅱ-Bは財布に入っている状態,そしてⅡ-Cは,買い物をして支払をしている状態といえるであろう。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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