特集 クロマチン
クロマチンを鋳型とした複製・転写の無細胞系
著者:
永田恭介1
春木宏仁1
農野薫1
所属機関:
1筑波大学基礎医学系
ページ範囲:P.222 - P.230
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ゲノムが複製し,遺伝子の転写が起こり,転写産物からタンパク質が翻訳されるというゲノム情報の流れをセントラルドグマと呼ぶ。複製と転写の鋳型はゲノムDNAであり,その分子機構の解析ははじめは原核細胞を材料に遺伝学を支えに生化学的な手法を用いて解析が進んできた。やがて真核細胞も研究対象となった。真核細胞の複製と転写反応に関わる主体酵素も,もちろんDNA依存性DNAポリメラーゼであり,DNA依存性RNAポリメラーゼである。ところが,これらの酵素はヌクレオチドの重合を触媒するが,細胞の中で行われるような制御された正確な反応,たとえば開始反応などを自身では再現できない。従って,生化学が最初に目指したのは,原核細胞での研究を手本に真核細胞の正確な複製と転写を再現できる系の構築であり,ついでその解体と再構成による機構解析であった。本論でも簡単に述べるとおり,その努力は基本機構の理解に大きな成果を上げた。真核細胞の研究は,当初から予想されていたように次の問題に直面した。真核細胞ゲノムは,これまでの解析に用いられてきたようなはだかのDNAではなく,タンパク質との複合体を形成してクロマチンとして核内に存在しているのである。クロマチンの複製と転写機構の研究により,はだかのDNAを鋳型として用いてきた系では解決できなかった問題にも解答が見出せる可能性が見えてきた。
本論では,はだかのDNAを用いた無細胞系から得られた知見を簡単に概観し,ついでクロマチンを用いた無細胞系の現状とそれを基盤とした展望について述べる。