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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学54巻6号

2003年12月発行

雑誌目次

特集 オートファジー

特集に寄せて

著者: 大隅良典

ページ範囲:P.486 - P.487

 近年,タンパク分解の研究は生物学の前面に登場し,多くの人が関心を寄せ始めている。これはユビキチンプロテアソーム系が発見され,この系がサイクリン分解による細胞周期などの生命事象に関わる制御に,重要な役割を演じていることが明らかとなったことが引き金となっている。一方,細胞内タンパク質分解のもう一つの重要な経路であるリソソーム系は,半世紀以上前にC. de Duveが細胞分画法でリソソームを発見したことによって,その研究がスタートした。その後,電子顕微鏡による微細形態観察により,リソソームにおける分解様式としてのオートファジーという概念が定式化されて,すでに50年近くが経過している。これまでも多くの研究者が細胞内分解コンパートメントの機能とその生理的意義に関して興味をもって参入してきたが,研究の進展は遅々としていた。その理由はタンパク合成の研究に比較して,タンパク分解の研究,とりわけリソソームにおける非選択的な分解は,リソソームが複雑かつ動的なオルガネラであること,オートファジーの生化学的な定量法が欠落していたことに起因していると思われる。

 リソソーム/液胞における分解に関して,外界の異物を分解するエンドサイトーシスとファゴサイトーシスをヘテロファジーと呼ぶのに対応して,自己の構成成分の分解過程はオートファジー,自食作用と名付けられた。オートファジーは一般的には非選択的で細胞質成分,オルガネラのバルクな分解を担っていると考えられている。ユビキチン経路では分解すべきタンパク質を厳密に識別するために,多数のリガーゼによるユビキチン化の過程と,引き続くユビキチン化タンパク質のプロテアソームによる分解の両方の過程に多量のATPが必要とされる。これに反してリソソーム/液胞でのタンパク分解は,栄養飢餓のような環境に応答して短時間に大規模にタンパク質を処理する機構として優れた経路である。

オートファジーの形態学的側面

著者: 山本章嗣

ページ範囲:P.488 - P.494

  夕暮れて淡き輪郭

  膜という概念の中に人は生まれき

          (永田紅“日輪”より)


 「電子顕微鏡の生物学における最大の貢献は“生体膜の発見”である」といっても言い過ぎではないであろう。細胞内には複雑な膜系が縦横無尽に発達し,様々な細胞活動を担っている。細胞の膜系がどのようにして形成されるかという問題は,細胞生物学の中心的課題として現在も精力的に研究されている。その中でも,オートファジーは特別の関心を持って研究されてきた。オートファジーは,細胞内に正体不明の膜構造が現れ,未知の機構で細胞質を隔離して分解するという極めて魅惑的な現象である。細胞にとってオートファジーは重要な機能の一つであり,飢餓によって栄養の供給を外部から断たれても,この機構により自らの一部を分解し生命活動に必要な分子を調達することができる。肝細胞のオートファジーが1962年,AshfordとPorter1)により報告されて以来,電顕形態学によってオートファジーの研究が数多くなされた。その努力の結果,ほとんど全ての真核生物でオートファジーという共通の現象が見られることが明らかになった。オートファジーを行う膜の出現機構についても電顕形態学により数多くの研究がなされて様々な説が提出されたが,いまだ決着はついていない。最近,オートファジーに必須の遺伝子群(APG)が同定され,分子細胞生物学を用いてオートファジーを総合的に解析することが可能となりつつある2)。40年にわたる電顕形態学の知識は,遺伝子を中心とする新しい研究方法と融合することにより,オートファジーの研究の推進に大きな力となると考えられる。

オートファゴソーム形成過程の微細形態学

著者: 横田貞記

ページ範囲:P.495 - P.500

 真核細胞は飢餓環境を生き延びる戦略として自分自身の一部を分解系に取り込み栄養源とする方法,オートファジー(自食作用)を進化させてきた。酵母を用いた研究で自食作用に関わる遺伝子が分離され,またその哺乳動物ホモログもとられ,その機能が解明されつつある1)。一方,一過性に増殖させた細胞小器官の選択的な除去にも自食作用が関与することが示されている2,3)。後者は不要な細胞小器官を取り除くもので,飢餓に対するものとは別の細胞小器官の数や品質を管理する戦略のように思われる。自食作用はリソソームの微細形態学の研究から,その存在が記載され,二つの様式,ミクロオートファジーとマクロオートファジーに分類されている4)。ミクロオートファジーでは,リソソームが直接細胞質や分子を取り込み消化する。マクロオートファジーでは,分離膜が標的(細胞小器官や細胞質など)を囲い込み,オートファゴソーム(自食胞)を形成し,その後自食胞はリソソーム区画と融合して,取り込んだものを分解する。この小文では,自食胞形成過程の微細形態を線虫と哺乳動物細胞に焦点を絞って最近の知見を述べる。

生細胞におけるオートファゴソーム形成の可視化

著者: 久万亜紀子 ,   水島昇

ページ範囲:P.501 - P.506

[1] オートファジーの発見と電子顕微鏡

 オートファジーは細胞内のタンパク質分解を担う,真核細胞に普遍的に備わる生命現象である。オートファジーは,細胞質成分をリソソームに運び込むための輸送システムであり,日常的な細胞質成分の代謝回転,あるいは栄養が絶たれた環境における生存の維持に寄与している。オートファジーは1962年,動物細胞において初めて観察された。Ashfordら1)は,グルカゴンで潅流した肝細胞を電子顕微鏡で観察した際に,細胞質やミトコンドリアを取り囲んだリソソーム様の構造を多数発見した。これらの内容物は様々な程度に分解されており,なんらかの膜構造体が細胞質を取り囲んで消化するという分解系の存在が示唆された。以後の電子顕微鏡による詳細な観察から,オートファジーは次のような過程であることがわかっている。まず,細胞質に現れた隔離膜と呼ばれるカップ状の膜が細胞質の一部を囲い込む(図1)。細胞質の囲い込みは原則的に非選択的であり,小胞体やミトコンドリアなどのオルガネラが含まれることもある。続いてオートファゴソームはエンドソーム・リソソームと融合し,リソソーム内の加水分解酵素がオートファゴソームに供給され,内容物が分解される。

 これまでのオートファジー研究は電子顕微鏡観察に大きく依存しており,形態学的な解析が中心になされてきた。一方で生化学的な解析は困難を伴い,その分子機構が明らかになってきたのはごく最近のことである。分子レベルの解析が難航したひとつの理由として,オートファジーを検出するよいマーカーがなかったことが挙げられる。このため,簡便なオートファジーの検出方法の確立が望まれてきた。

オートファゴソーム形成をめぐって

著者: 大隅良典

ページ範囲:P.507 - P.513

 オートファジーの分子機構はようやく分子の言葉で語ることができる時代に入ったが,まだまだ解決しなければならない問題が山積している。

哺乳動物のオートファジー:分子機構と生理機能

著者: 吉森保

ページ範囲:P.514 - P.520

 1993年,大隅らにより出芽酵母のオートファジー不能変異株apgが同定され1)(大隅総説507頁を参照),オートファジー研究に大きな転機が訪れた。オートファジーが最初に観察され40年に亘る研究史を持つ哺乳動物についても,酵母の成果の応用により一気に解析が進展した。新たなステージに入った哺乳動物オートファジー研究は,これまで阻まれてきた分子機構の解明とそれに基づく役割の理解という二つの側面を持つ。とりわけオートファジーが様々な機能的意義を持つ可能性が出てきたことが注目される。本稿では,われわれが行ってきたApg哺乳類ホモログの解析を中心に,哺乳動物のオートファジーについて何がどこまでわかってきたかを紹介したい。

オートファジーにおけるApg7タンパク質活性化酵素

著者: 谷田以誠 ,   木南英紀

ページ範囲:P.521 - P.527

 哺乳類において,オートファジー(自食作用)はストレスや細胞内恒常性維持に必要のみならず,神経変性疾患,癌,心筋症と関わりをもつことが知られている1-7)。オートファジーの際には,オートファゴソームという細胞小器官が,ミトコンドリア・小胞体といった細胞小器官をも包み込むようにして細胞質成分を取り囲み,最終的に内包物をリソソームで分解する(図1)8)。このオートファゴソーム膜で細胞質成分を取り囲む過程に二つのユビキチン化様修飾機構がかかわっている(図2)9)。一つはApg12修飾機構でオートファゴソーム膜形成の初期過程の隔離膜形成に関わっており,もう一つのLC3(酵母ではApg8p)修飾機構は,オートファゴソームの膜の伸長・形成に関与している(図2)10,11)。Apg7タンパク質活性化酵素は,このApg12とLC3の二つのモディファイアーを基質とするユニークなユビキチン様タンパク質活性化(E1)酵素である12-16)。これらApgタンパク質のほとんどは酵母オートファジー変異株の解析から端を発したものである17)。現在,Apgホモログは線虫,ショウジョウバエをはじめとして,マウス,ヒトに至る哺乳動物および植物にまで保存されており,このユビキチン化様修飾システムの生物における重要性がクローズアップされてきた。ここでは,修飾反応の鍵となる酵素であるApg7,およびそれに関わるタンパク質を中心に話を進めていく。

肝オートファジーのシグナリング機構

著者: 門脇基二 ,   金沢匠

ページ範囲:P.528 - P.533

 近年,オートファジーに対する関心は著しく高まりつつあり,先日の米国ゴードンカンファレンス(6月,メイン州Colby College)においても,この分野への新しい人々の参加が新鮮な熱気をもたらしてくれていた。このオートファジーの,特に形成過程の分子機構については,主にわが国の研究者による貢献によりその詳細が次々と明らかにされつつあり,本特集で記述されているとおりである。また,オートファジーのもう一つの特徴はダイナミックで鋭敏な速度調節が行われることであり,そのプロトタイプとして栄養飢餓による誘導が古くからよく知られてきている1)。酵母において,それは窒素源の欠乏や炭素源の変化による誘導であるが,動物細胞においては栄養素のうちもっぱらアミノ酸がこの作用を持ち,糖や脂肪には認められない。従って,アミノ酸による調節機構がオートファジーの生理的調節機構の中心の一つと位置づけられる。

 本稿では,新たな領域となりつつある栄養素によるタンパク質代謝調節シグナリング機構の一環として,アミノ酸によるオートファジー調節機構を,インスリンなどのホルモンによる調節機構とも絡めながら,私見をも含めて紹介したい。なお,最近,栄養素のうち,ビタミンCによるアストログリア細胞でのオートファジー促進作用が初めて報告された2)ことは,この種の知見として珍しく,新たな可能性を拓くものであり,誠に興味深い。

植物細胞の液胞とオートファジー

著者: 森安裕二 ,   吉本光希

ページ範囲:P.534 - P.539

 オートファジーは,細胞が自身のオルガネラなどを含む細胞質成分を膜構造内に隔離し分解する現象であり,真核生物に普遍的に存在することが知られている。植物においてもオートファジーの存在は古くから知られているものの,それに関する解析的な研究はあまり行われてきていない。植物細胞の特徴の一つは,巨大な液胞を持つことであり,液胞が哺乳動物細胞ではオートファジーの中心的役割を果たしているリソソームに相同なオルガネラであることを考えると,液胞とオートファジーの関係は興味深い。さらに植物細胞においては,液胞そのものがオートファジーによって形成されるという説がある。成熟した植物細胞に存在する大きな液胞は,細胞体積の9割以上を占め,植物細胞の伸長・拡大と直接関連するオルガネラであるので,オートファジーは植物の生長・発生に多種多様なかたちで寄与している可能性も考えられる。また,近年のシロイヌナズナ全ゲノム解析により,酵母で見つかっているオートファジーに必須の遺伝子の多くについて,それらのホモログが植物にも存在することがわかってきた。最近,酵母におけるオートファジーに必須の遺伝子であるAPG9APG7のホモログ遺伝子が破壊されたシロイヌナズナT-DNA挿入変異株の表現型が調べられ,植物個体におけるオートファジーの生理的意義が議論されている。本稿では,植物におけるオートファジーの役割について概説する。

オルガネラ分解の分子機構:ミクロペキソファジーに必要なPAZ遺伝子群の機能と新生膜構造体

著者: 阪井康能

ページ範囲:P.540 - P.547

[1] オルガネラ・ホメオスタシスを支える分子基盤と酵母細胞におけるミクロペキソファジー

 膜に囲まれた巨大な分子複合体であるオルガネラがどのようにして細胞内で合成され分解されるのか,特に分解系については,つい最近まで全く明らかにされていなかった。一方,オートファジーは自分の細胞内部のものをリソソームまたは液胞に取り込んで分解するシステムである。少なくともミトコンドリアやペルオキシソームがオートファジーにより分解されることがわかってきた。特にペルオキシソームは,酵母から動植物細胞に普遍的に存在するオルガネラであり,分化の過程・薬剤応答・培養条件などに応じて,オルガネラの数や大きさが極めて大きく変化する。そのため,オルガネラ合成から分解に至るまでのオルガネラ動態を,比較的容易に制御できることからオルガネラ・ホメオスタシスの分子基盤を追跡するモデル系として極めて適している。オートファジーによるペルオキシソームの選択的分解については,特に“ペキソファジー”という名が与えられている。これは一般に栄養飢餓条件下で,非選択的に起こるオートファジーとは異なって,“被分解物であるペルオキシソームが,どのようにして細胞内で認識されるのか”という被分解物の認識機構に関する基本的な問題をペキソファジー研究が含んでいることにもよる。

 さらにペキソファジーには,オートファジーと同様,その膜動態の違いによってマクロペキソファジーとミクロペキソファジーが知られている(図1)。マクロペキソファジーでは,新生した起源不明の隔離膜が,被分解物であるペルオキシソームを完全に取り囲んでペキソファゴソームを形成し,ペキソファゴソームが液胞と融合することよりペルオキシソームを液胞へ輸送して分解する。一方,メタノール資化性酵母Pichia pastorisにおいて顕著に観察されるミクロペキソファジーは,液胞が,直接,ペルオキシソームをクラスターごと取り囲み,ペキソファゴソームや隔離膜の形成なしに,ペルオキシソームを液胞に取り込むものとされている。マクロオートファジーの分子機構については多くの分子装置が明らかになりつつあるが,われわれがミクロペキソファジー変異株を単離した1996年当時,ミクロオートファジーに関与する遺伝子については何もわかっていなかった。このようにP. pastorisにおいて観察されるミクロペキソファジーは,オルガネラ・ホメオスタシスやオートファジーに関連する細胞生物学での基本的問題を解くためのモデルとして優れたものである。

オートファジーと細胞死

著者: 内山安男

ページ範囲:P.548 - P.555

 実験的に誘導した培養細胞の細胞死の形態を観察する時に,いつも感じることはその多様性である。しかし,リンパ球をはじめある種の細胞では,いわゆる,典型的な細胞死,特にアポトーシスの形態を見ることができる。一つには,細胞内オルガネラに乏しく,細胞形態が複雑化する要因が少ないことに起因するのかもしれない。生体の組織における細胞死も同様で,胎生期の形態形成で見られる細胞死は,リンパ球のそれに近い。一方,神経系の細胞や細胞更新に伴う様々な組織の細胞死,疾患に伴う細胞死をみると,その変化が多様であることに気付く。例えば,典型的なアポトーシスの一つと考えられている,消化管上皮の死の形態を見ると,細胞の縮小化,核クロマチンの濃縮は起こるが,細胞内オルガネラは複雑な変化を呈している。よく観察すると,膜系を中心とした変化が起きており,中でもオートファゴソーム,オートリソソームの複雑な形態が出現し,これらが変化の中心であることがわかる。しかし,これらの死は,環境の変化に伴う受け身の細胞死とは違い,細胞自体に備わっている死の機構の活性化に伴う積極的な細胞死と考えられる。ここでは,ネクローシスnecrosisは受け身の死と定義し,積極的細胞死active cell death(ACD)と区別する。細胞死の形態の違いが死の分子機構の違いを反映するか否かは,不明な点も多い。

 胎生期の神経系を中心にその死の形態を検討した結果,ACDは死にいく形態によって三つのグループに別けられることが報告されている1)。Ⅰ型ACDはアポトーシス(apoptosis)とよばれる死であり,ACDの多くはこれに分類される。今日ではこの死に関わる機構とその実行因子について分子生物学的な解析が進んだ結果,その全貌が明らかになりつつある。Ⅱ型ACDはアポトーシスと異なり,死にいく細胞にたくさんのオートファゴソーム/オートリソソームが誘導され,リソソーム性あるいはオートファジー性細胞死(autophagic/lysosomal cell death)とよばれる。近年,オートファジーの解析が分子レベルで行われるようになり,Ⅱ型ACDも分子レベルで検討されるようになってきた。Ⅲ型ACDは溶解細胞死(lytic cell death)とよばれ,発生初期に見られる細胞死で,突然起こり細胞が消失してしまう。その実体は全くわかっていない。本稿では,Ⅰ型およびⅡ型ACDにおいて,主役となるプロテアーゼについて概説する。

自己貪食空胞性ミオパチー

著者: 田中幹人 ,   西野一三

ページ範囲:P.556 - P.561

 オートファジー(自己貪食)は細胞内廃物の消化に重要な役割を果たしていることが知られているが,骨格筋においては,通常の形態学的観察でリソソームや自己貪食空胞(autophagic vacuole)が認められることは殆どない。しかし,自己貪食空胞が多数出現する一群の筋疾患が確かに存在することから,筋細胞にとってもオートファジーは必須の機構であることが伺える。われわれは,このような筋疾患群のうち,特に遺伝性のものを「自己貪食空胞性ミオパチー」と名付けて,その病態を解明しようと試みている。

 自己貪食空胞性ミオパチーは,筋病理学的特徴から次の三つのカテゴリーに分類される:1)縁取り空胞性ミオパチー(rimmed vacuolar myopathy),2)酸性マルターゼ欠損症(acid maltase deficiency),3)特異的な空胞膜を持つ自己貪食空胞性ミオパチー(autophagic vacuolar myopathies with unique vacuolar membranes)。本稿では,それぞれのサブタイプに分けて記載を行う。

実験講座

蛍光スペクトル顕微鏡

著者: 平岡泰 ,   志見剛 ,   原口徳子

ページ範囲:P.562 - P.569

 ヒトゲノムプロジェクトに代表されるゲノムサイエンスの発展は,生物学のあり方を大きく転換させたといっても過言ではない。以前は,生体から生理活性を頼りにその機能を果たしている生体因子を分離して,ついにはDNAやタンパク質の一次配列を決定するという分析的な方法が主流であった。しかし,これからの生物学は,すでに既知となっているDNA塩基配列から読み出される多くの機能未知のタンパク質を,細胞や生体システムに統合して,生物システムを理解していく必要がある。そのような時流の中で,一つの方法論として活躍してきたのが,蛍光顕微鏡を使った細胞内局在の解析である。

 蛍光顕微鏡法の特長は,特定の分子だけを選択的に蛍光で染めて観察するため分子特異性が高く,細胞という複雑な構造の中で,特定の分子の挙動を解析できる点である。その上,生きた細胞での観察も可能なために,その分子がいつ,どこにあるかの,そしてその局在がどのように変化していくかを生物(または細胞)を生かした状態で知ることができる。GFP(green fluorescence protein)の発見は,このような蛍光顕微鏡法に革命的な進展をもたらしたといえるだろう。特定のタンパク質をGFPを使って簡単に蛍光標識し,観察することができるようになったのである。一方で,蛍光観察に用いる蛍光顕微鏡装置も大きな発展を遂げた。光学的な改良やソフトウエアの改善が多くなされ,蛍光顕微鏡による生きた細胞での局在解析は誰でもが可能な範囲となってきた。

解説

小胞体におけるタンパク質の品質管理

著者: 河野憲二

ページ範囲:P.570 - P.575

 一般の製造工場は,様々な部品を組み立て製品を完成させ,最終的にその機能をチェックし,完成品のみを出荷するという品質管理を行っている。不良品や欠陥品はある割合で生ずるのは仕方のないことなので,この品質管理がきちんと行われるかどうかは非常に重要である。うまく行われないとその会社は不良品が多いということで商品が売れなくなり倒産の憂き目をみることになろう。検出された不良品や欠陥商品は,原因が簡単な場合には悪い部品を交換し再生すればまた出荷できるであろうし,またどうしようもない場合には廃棄する場合もあろう。細胞もこれと似たような品質管理機構をもっていることがわかってきた。ここでは,動物細胞の小胞体におけるタンパク質のフォールディングと品質管理機構について概説する。

初耳事典

TRP channel/他6件

著者: 原雄二 ,   森泰生 ,   吉村信一郎 ,   中村暢宏 ,   斉藤史明 ,   土方貴雄 ,   細川暢子 ,   高見茂 ,   松本智裕

ページ範囲:P.576 - P.579

TRP channel

(原雄二・森泰生 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻)


ゴルジマトリックスタンパク質群

(吉村信一郎 金沢大学薬学部/中村暢宏 金沢大学薬学部,同自然科学研究科)


コンディショナルノックアウトマウス

(斉藤史明 帝京大学医学部神経内科)


デスマスリン

(土方貴雄 群馬大学大学院医学系研究科器官機能構築学講座)


小胞体関連分解(ERAD)

(細川暢子 京都大学再生医科学研究所)


鋤鼻器とフェロモン

(高見 茂 杏林大学保健学部解剖学教室)


紡錘糸形成チェックポイント機構

(松本智裕 京都大学放射線生物学研究センター/生命科学研究科統合生命科学専攻)

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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