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文献詳細

雑誌文献

生体の科学55巻1号

2004年02月発行

文献概要

特集 ニューロンと脳

脳の神経回路形成の臨界期

著者: 一坂吏志1 畠義郎2

所属機関: 1鳥取大学医学部生命科学科生体情報機能学講座神経生物学分野 2鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学専攻生体高次機能学分野

ページ範囲:P.26 - P.32

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 われわれの脳は百億個を越える神経細胞からなるが,それらは発生,発達の過程で整然としたネットワークを構築するようになる。このネットワークの基本は,遺伝情報に基づくプログラムに従って構築されるが,大枠ができあがった後,神経活動に依存したネットワークのチューニングが行われる。この後期過程においては,感覚や運動を通して環境との相互作用そのものが脳の形成過程に影響を与えるため,ネットワークの基本構造に個体差はなくとも,生後の環境要因によって最終的な形や機能は大きく変化する。さらに,この環境要因は多くの場合,生後発達の一時期に大きな影響を与える。例えば,言語は他者とのコミュニケーションという経験を通して初めて獲得される脳機能であり,言語を習得する能力は幼児期に極めて高いということはよく知られている。同様の現象は鳥の歌学習やインプリンティングなど数多く知られており,この,脳機能が環境要因に対して特に敏感に変化する時期を「臨界期」と呼ぶ。臨界期は言語などの高次脳機能だけでなく,視覚や聴覚といった感覚知覚にも認められ,脳機能発達の基本的な性質と考えられる。

 臨界期に脳内で何が起きているのかという点は視覚系について特に広く研究されてきた。ヒトの乳幼児の視力は生後数ヵ月の間に急速に発達し,その後数年かかって成人と同等になる。しかし,白内障などにより正常な視覚入力が得られないと視機能の発達は妨げられる。乳幼児期に治療を行い視覚入力を改善すると,視機能は急速に発達するが,成人になってから眼を治療しても視機能は十分回復しない1)。このことから,視機能の発達には生後初期の視覚経験が重要な役割を担っていることがわかる。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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