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文献詳細

雑誌文献

生体の科学55巻1号

2004年02月発行

文献概要

特集 ニューロンと脳

オートポイエーシス系としての脳

著者: 河本英夫1

所属機関: 1東洋大学文学部哲学科

ページ範囲:P.71 - P.76

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 オートポイエーシス(自己制作)は,チリの神経生理学者マトゥラーナによって,ギリシャ語から作られた合成語である。システムの作動のもっとも重要な特徴を,システムそのものの形成プロセスに置く。形成プロセスは,学習,回復,再構成のような場面に半ば必然的に含まれている。形成経験とは,以下のような場面である。たとえばゴッホの絵を見ることは,絵を対象として見ることと同時に,見ることの形成を行ってしまっている。ゴッホの絵に含まれる黄色は,通常経験のなかに出現することのない黄色であり,色合いではなく,黄色の激しさが類を見ない。また初めて歩き始めた幼児は,一歩歩くごとに歩く行為をつうじて行為する自己を形成している。歩くと同時に歩く自己の形成が生じる。そのため本来同じ一歩を歩くことができない。一般に心の本性は知るという機能を基本にして考えられている。ところが心は,知ること以上に多くのことを行っている。情動は知ることであるより,むしろ自己触発的な運動であり,精神と呼ばれる機能は,知ることだけではなく,自分自身を作り出し,変えていく働きをしている。この形成プロセスをメカニズムとして定式化したのが,オートポイエーシスである。自己組織化の延長上に高次系のシステムを構想しようとすれば,システムがさまざまに変化するだけではなく,それ自体で活動のまとまりとなり,自己と呼べるような主体的な活動の単位が形成される場面が生じる。この場面では,自己組織化の複雑化のプロセスに不連続性が生じる。神経システムや免疫システムは,すでに不連続な飛躍を経た系だと考えられている。そこでこのシステムの構想を,できるだけ現状の研究の理論的なモデルとして活用できるように,工夫したいと思う。最初にこのシステム論の骨子を簡潔に述べ,その後現状の研究に対してどのような示唆をあたえ,どのようなアイディアを出せるかを考えてみたい。

参考文献

1)河本英夫:メタモルフォーゼ,pp 54-79,青土社,東京,2002
2)河本英夫:オートポイエーシスの拡張,pp 25-27,青土社,東京,2000
3)マトゥラーナ,ヴァレラ:オートポイエーシス―生命システムとは何か,河本英夫(訳),pp 235-236,国文社,東京,1991
4)ジョゼフ・ルドゥー:エモーショナル・ブレイン,松本元,川村光毅(訳),pp 333-337,東大出版会,東京,2003
5)花村誠一:分裂病の精神病理学とオートポイエーシス.河本英夫,花村誠一・他,精神医学,p 205,青土社,東京,1998
6)シッピッツァー:回路網のなかの精神,村井俊哉,山岸洋(訳),pp 259-290,新曜社,東京,2001
7)Baars BJ:グローバルワークスペース理論の神経モデル―意識の認知神経科学.苧阪直行(編),意識の認知科学,pp 24-41,共立出版,東京,2000

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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