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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学55巻2号

2004年04月発行

雑誌目次

特集 アダプタータンパク

血管内皮細胞の遊走を制御するアダプター蛋白質Crk

著者: 福原茂朋 ,   望月直樹

ページ範囲:P.98 - P.102

 血管内皮細胞はVascular endothelial growth factor,Angiopoietin,Ephチロシンキナーゼ受容体系1),スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体・リゾホスファチジン酸1(LPA)受容体2)・ケモカイン受容体3)などのG蛋白質共役型受容体(GPCR)からの細胞内情報伝達系の活性化により細胞遊走能が亢進する。

 遊走には1)細胞膜の進展,2)細胞-基質間の接着,3)細胞を牽引するちからとしてのアクトミオシン系が重要である4)。このそれぞれの調節機構が合目的的に制御されることで細胞の運動が調節され,運動能の亢進に通ずる。特に1)の細胞膜進展には低分子量GTP結合蛋白質Racの活性化が必要である5)。Racのグアニンヌクレオチド交換因子のひとつであるDOCK180の上流でCrkが機能していることが,線虫から哺乳類まで共通のシグナルカスケードとして明らかにされている6,7)

ドッキング蛋白Shcの神経系における役割

著者: 森望

ページ範囲:P.103 - P.110

 生体を構成する細胞の増殖,分化,成熟,老化,死のすべての現象において,細胞外からの刺激に適切に応答してその細胞を維持または変化させるプロセスに係わるシグナル伝達は,細胞の生存にとって非常に重要な意味をもつ。シグナルを媒介する主体の多くはリン酸化酵素であり,それによって修飾されシグナルの流れを規定してゆくものがアダプター蛋白あるいはドッキング蛋白と呼ばれる一群の蛋白質である。アダプター蛋白とドッキング蛋白の区別は必ずしも明確ではないが,いずれも分子内にSH2,SH3,PTBなどの特異性の高い蛋白質結合ドメインを複数もち,状況に応じてシグナルの流れを切り分ける働きがある1,2)。その意味で,アダプターやドッキング蛋白は触媒活性をもたない比較的小さい分子でありながら,細胞内シグナル伝達の切り札となる。

 細胞膜上に無数に存在するいわゆる受容体型チロシンキナーゼ(RTKs)や細胞内のSrc系チロシンキナーゼなどの直接の基質となるShcは,自己リン酸化されたそれらのキナーゼの活性化体にいち早く結合するドッキング蛋白質である。Pelicciらによる1992年の発見当初は細胞の癌遺伝子として知られたが3),1996年頃から神経系組織で発現するShcホモログの存在が明らかになるにつれて4-7),それらの神経系での新たな機能の解析が進んできている。ここでは,神経系におけるShcの役割という観点から,神経細胞の発達,分化,脳の高次機能,また,神経のストレス応答と脳の老化におけるShcおよびその関連分子の発現と機能を中心にとりまとめる。神経系におけるShcの役割に関連する初期の総説8,9)とShc系分子に関する一般的な総説10,11)も併せて参照されたい。

軸索ガイダンスに関与するアダプター関連分子

著者: 根岸学 ,   加藤裕教

ページ範囲:P.111 - P.117

 学習や記憶などの複雑な脳機能を可能にしているのは,神経細胞が神経突起をのばし,互いに接着することにより形成される複雑な神経回路の存在による。通常,神経細胞は細胞体から1本の軸索と複数の樹状突起を伸長する。軸索は様々な軸索ガイダンス分子に導かれて伸長し,目的のターゲット細胞に到達し,シナプスを形成し,複雑な神経回路を形作る。この神経回路網の基本構造はかなり正確で厳密にできており,それを可能にしているのは軸索ガイダンス分子の誘導作用によるものである。現在までに様々な軸索ガイダンス分子が発見されており,細胞膜に結合した分子もあれば細胞外に分泌される分子もある。ガイダンス分子は,そのガイダンス作用から大きく分けて二つのグループに分けられる。一つは軸索に対し反発作用を示す分子で,semaphorinファミリーやephrinファミリーがある。他方は誘因作用を示すもので,netrinなどがそれに当たる。しかし,例えばnetrinはその受容体の種類により誘因作用を示したり,反発作用を発揮したりと,ガイダンス因子の作用は状況によって複雑に変化する。軸索ガイダンス分子は細胞膜上のそれぞれに特異的な受容体に結合し,神経細胞内にシグナルを伝達するが,現在までに様々なガイダンス分子の受容体がクローニングされ,その分子構造が明らかにされてきた。さらに,その受容体を介した細胞内への情報伝達機構について,近年精力的に研究が進められており,受容体の神経細胞内領域に結合する様々な機能分子が同定され,ガイダンス作用における役割が徐々にわかってきた。ここでは,それらの分子をガイダンス分子ごとにまとめて紹介する。

小胞輸送に関わるアダプター分子Mintの分子機構

著者: 岡本昌也 ,   松山知弘

ページ範囲:P.118 - P.123

 MintファミリーはMint1,Mint2,Mint3からなる一種のアダプタータンパク質である。Mintは単なる「つなぎ」ではなく“coat protein”,“scaffold protein”,“transcription regulating protein”として多様な機能を持つことが次第に明らかになりつつある。従来Mintはアルツハイマー病との関連で議論されることが多かったが,本稿ではこのような最新の知見を踏まえ,より普遍的な細胞機能の観点から考察したい。

脳におけるアダプタータンパクIRSp53の細胞機能

著者: 於保祐子 ,   山田正夫

ページ範囲:P.124 - P.128

 神経軸索突起は脳発生期に著明に伸張し,樹状突起の適切な位置にシナプスを形成する。さらに成体脳が形づくられた後も,神経突起末端では外部からの刺激によってシナプス形成が続き,学習・記憶といった脳の生理機能が維持される。こうした脳発生分化・機能維持の過程は精緻に制御されており,多彩な細胞外因子の情報が受容体から入力し,細胞内シグナル伝達を介して特定の機能ユニットに正確に伝えられている。これらの制御過程を分子レベルで見ると,細胞膜表面レセプター,細胞内のシグナル伝達分子,エフェクター分子が,適切な位置に整列して有機的に結びついていることが,神経ネットワークの機能に重要であることがわかる。最近の研究で,複数種類の分子と同時に結合する能力を持ち,結合した分子を機能的に結びつけるいわゆる,アダプタータンパクが多く同定された。IRSp53は,こうしたアダプタータンパクのひとつである。

 IRSp53は最初げっ歯類でインスリン-IGFⅠ受容体型チロシンリン酸化酵素によってリン酸化される53kDaのタンパクとしてクローニングされ,insulin receptor substrate of 53kDa protein,IRSp53と名付けられた1)。しかし,タンパク一次構造から推定される機能ドメインが既知のIRS1-4とは全く異なっていることから,このタンパクはインスリン-IGFⅠ受容体下流で特異なシグナル伝達系に関与する可能性が示唆されていた。その後このタンパクは,アクチン再構成に関与するRhoファミリーGタンパクとそのエフェクターと複合体を形成することがわかり,細胞の極性形成・維持に関与するシグナル伝達にかかわっていることが明らかとなった2-4)。さらにIRSp53は脳変性疾患であるポリグルタミン病のひとつ,DRPLAの責任遺伝子産物とも結合する5)。ポリグルタミン病の責任遺伝子産物はどれも広く組織に発現するにも拘わらず,病変は特異的な神経領域で起こる。IRSp53の選択的組織分布がこの組織特異的神経細胞死の病態に関与していると推定される6)。さらにIRSp53とプルキンエ細胞に特異的なアクチン結合タンパクespinとの結合,シナプス後肥厚部に存在するshank1やMALSとの結合が報告され,このタンパクが脳内で多彩な結合能を持つことが明らかになっている7-9)。本稿ではまずIRSp53の遺伝子構造とタンパクドメインについて述べ,次に脳での発現や機能を中心に,現在までの知見をまとめて紹介する。

イオンチャネルと結合するアンカリングタンパクAKAPの役割

著者: 東田陽博 ,   星直人 ,   横山茂

ページ範囲:P.129 - P.132

 細胞の中でサイクリックAMP(cAMP)とcAMP依存性タンパク質リン酸化酵素(A-キナーゼ)の関与する経路と,イノシトール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)をセカンドメッセンジャーとするタンパク質リン酸化酵素(C-キナーゼ)の関与する細胞内シグナル伝達経路は双璧である。歴史的には,サザランドによるcAMPの発見は直ちにクレブスとフイッシャーやグリンガードによる,A-キナーゼによるタンパク質のセリンやスレオニン残基をリン酸化する発見になった1)。なかんずく,特定のタンパク質1個をリン酸化するのみでなくリン酸化によるリレーにより,いい換えるとシグナル連鎖(カスケード)により信号が伝達されることも示された。ホスホリパーゼCにより生じるIP3やDAGはベリジや西塚により見出され,それぞれ,細胞内カルシウム貯蔵サイトからのカルシウム動員をはかり細胞質のカルシウム濃度を高めるとともに,C-キナーゼを活性化する2)。C-キナーゼもタンパク質のセリンやスレオニン残基をリン酸化する。A-キナーゼやC-キナーゼは相当広範な多くのタンパク質を基質とし,それらをリン酸化する。

 ホルモンやニューロトランスミッターによる刺激を,広範なターゲットスペクトルムを持つこのようなキナーゼがセカンドメッセンジャーとして,どのようにして細胞の特定のタンパク質をリン酸化し,定まった細胞機能を活性化できるのかは長らく不明のままであった。この問題にチャレンジし解決したのは,米国ワシントン州シアトルのワシントン大学でクレブスの下で博士取得後の研究をし,NaやCaイオンチャネルの研究で知られるカテラルの下で過ごした,オレゴン州ポートランドのオレゴン健康科学大学のボラム研究所教授のジョン ・ スコットである3)。彼は,キナーゼを繋留するタンパク質(A-kinase anchoring protein;AKAP)を見出した(図1左)。AKAPは細胞の特定の場所に局在し,その近傍とターゲットタンパク質をAKAPに繋留されたA-キナーゼでリン酸化する。さらに,AKAPはターゲットタンパク質に結合することにより,決められた単一のタンパク質のリン酸化を行うこともできる。そのことは,とりもなおさず,リン酸化する対象を制限し,不特定多数に信号が伝わらなくする機能も持ち合わせている。信号伝達の正確さに貢献している。

アダプタータンパク質JIPとアミロイド前駆体タンパク質

著者: 多留偉功 ,   鈴木利治

ページ範囲:P.133 - P.138

 Alzheimer病(AD)は進行性の神経変性疾患であり,その発病機構に関しては,βアミロイドタンパク質(Aβ)の凝集あるいは蓄積が重要であるという説(アミロイド仮説)が主流となっている1)。Aβは一回膜貫通型タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein;APP)の二段階のプロテアーゼ切断によって生じるが,現在,孤発性ADにおけるAβ蓄積の原因は不明であり,Aβ生成の制御機構に関する知見が求められている。また一方でAPPは,ファミリー分子であるamyloid precursor-like protein1,2(APLP1,APLP2)とともに生体に必須の役割を担っていることが知られ,その生理機能の解明も望まれている2)。APPの代謝制御や生理機能の解明の手掛かりとして期待されるのが,APPの結合分子の一つとして同定されたc-Jun N-terminal kinase-interacting protein(JIP)である。本稿では,まずJIPファミリーについて概観したのち,APPとの相互作用の生理的意義について議論する。

細胞小器官シャペロンであるVCP/p97の働きを仲介するアダプタータンパク質

著者: 長浜正巳 ,   多賀谷光男

ページ範囲:P.139 - P.145

 アダプタータンパク質とは,狭義においては特定の配列や構造を認識して二つまたはそれ以上の異なるタンパク質間の結合を仲介する分子のことであり,比較的よく保存されたドメイン構造を持っている。本号のいくつかのトピックでも取り上げられているSH2やSH3ドメインを持つタンパク質はその典型的な例である。小胞輸送においてよく知られているアダプタータンパク質の例としては,クラスリン被覆小胞の形成を助けるAP(adaptor protein)複合体がある1)。この複合体にはAP1-AP4の4種類のファミリーメンバーが知られており,小胞に乗り込む膜貫通型の積み荷分子(受容体など)とクラスリンを連結させることで,積み荷分子を効率よく小胞内に取り込む役割を担っている。

 アダプタータンパク質という言葉はより広い意味で使われることもあり,異なる機能を持つユニットを連結させるタンパク質もアダプターといえる(図1)。例えば,微小管を介した膜輸送に関与するダイナクチン複合体は,ATPase活性を持つモータータンパク質であるダイニンと輸送される積み荷(小胞やオルガネラ)の結合を仲介する2)。ダイナクチン複合体の場合,複数存在するサブユニットが異なる積み荷分子を認識することで,多様な積み荷の輸送を可能にしている(ダイニン自身も複数のサブユニットから構成され,そのうちのいくつかは積み荷タンパク質と直接結合する)。

免疫疾患とドッキングタンパクCas-Lの機能

著者: 野村さや香 ,   岩田哲史 ,   森本幾夫

ページ範囲:P.146 - P.150

 Cas-L(Crk-associated substrate lymphocyte type:pp105Cas-L)は,T細胞においてβ1インテグリンとリガンドの結合によりチロシンリン酸化される主要なタンパク質としてクローニングされ,p130Casと同様の構造をもった105kDのドッキングタンパクである1)。さらに,その後の解析で,β1インテグリン刺激によるT細胞のサイトカイン産生のシグナル伝達や細胞遊走能の発現のためにCas-Lのチロシンリン酸化が重要であることが示された2,3)

 本稿では,インテグリン下流のシグナル伝達分子のひとつであり,ドッキングタンパクとして様々なタンパク質と結合するCas-Lの働きについて,β1インテグリンを介するT細胞の活性化を中心に,著者らの最新の成果を踏まえて解説する。

Scaffold分子Gab2によるT細胞受容体シグナル伝達の負の制御

著者: 山崎晶 ,   斉藤隆

ページ範囲:P.151 - P.158

 Gab2(Grb2-associated binder 2)ファミリーは,Guら,西田らによって単離された,Gab/DOS(daughter of sevenless)ファミリーに属する分子量約97kDのアダプター分子である1,2)。発現は比較的普遍的であり,PHドメイン,複数のプロリンリッチモチーフ,リン酸化チロシンモチーフなどを有し,分子間相互作用に関与する配列を非常に多く含んでいる(図1)。さらに,中央部に存在する特徴的な領域MBD(c-Met binding domain)は,Gab1においてリン酸化されたc-Metと直接結合することが報告されている3)

 Gab1,Gab2は様々なサイトカイン,増殖因子刺激(IL-2,IL-3,IL-15,TPO,EPO,SCF,M-CSF,Flt3lなど)によってリン酸化を受け,PI3キナーゼ,SHP-2などをはじめとして様々な分子と結合し,細胞内分子の足場をなすことから,Scaffoldタンパク,ドッキングタンパクなどと呼ばれる4)。興味深いことに,Gab2は抗原受容体刺激においても強くリン酸化されることから,われわれはTCR下流におけるGab2の機能に注目した。

ドッキング蛋白SNT/FRS2とRET受容体

著者: 黒川景 ,   高橋雅英

ページ範囲:P.159 - P.163

1 ドッキング蛋白SNT/FRS2の発見の経緯

 1993年Rabinらは,PC12細胞において,nerve growth factor(NGF)とfibroblast growth factor(FGF)によってチロシンリン酸化されるが,epidermal growth factor(EGF)やインスリンでリン酸化されない78~90kDaの蛋白を同定した。p34cdc2/cdk2に結合する蛋白であるp13suc1と結合することから,suc-associated neurotrophic factor-induced tyrosine-phosphorylated target(SNT)と名付けられた1)

 1997年Kouharaらは,FGFレセプター(FGFR)からのシグナルが,RAS-MAPKを活性化するのを介在するシグナル分子を同定するため,GRB2と結合し,FGF刺激によってリン酸化される蛋白を精製,一次構造を決定し,FGF recep-tor substrate 2(FRS2)と名付けた。FRS2はNGFでもチロシンリン酸化され,またp13suc1と結合する蛋白がFRS2の抗体で認識されることから,先に報告されたSNTと同一の蛋白であることが明らかとなった2)

SH3ドメインの分子認識機構

著者: 湯沢聡 ,   稲垣冬彦

ページ範囲:P.164 - P.170

 SH3は50-70アミノ酸残基からなり,細胞内シグナル伝達を制御する構造かつ機能ドメインである。SH3はプロリンに富むリガンド(PRRリガンド)に特徴的な構造である2型ポリプロリンヘリックスを認識し結合する。NMRやX線結晶構造解析によりSH3と標的リガンドとの複合体の構造決定が進み,SH3によるPRRリガンドの認識における一般性と特異性に関してその詳細が明らかにされてきた。本稿ではSH3によるPRRリガンドの認識機序を紹介するとともに,最近明らかになった二つのSH3が協同的にPRRリガンドを認識する新規な認識機構とその生理的意義を紹介する。

実験講座

バイオアクティブビーズを用いた遺伝子導入法

著者: 東恒仁 ,   松永幸大 ,   福井希一

ページ範囲:P.171 - P.177

 細胞への遺伝子導入法としては,酵母に用いられる酢酸リチウム法,動物細胞に用いられるリポソーム法,リン酸カルシウム法,DEAEデキストラン法,ウイルスベクター法,植物細胞に用いられるポリエチレングリコール(PEG)法,アグロバクテリウム法,比較的細胞種を問わず使用することができるマイクロインジェクション法,エレクトロポレーション法,パーティクルガン法などが挙げられる。これらの手法は対象ごとに学術研究の場では広く用いられており,研究用のツールとしては既に細胞の遺伝子導入法は確立されたものであるといえるかもしれない。しかしながら,商業化の際には,特に植物細胞の場合は極めて高額の特許料が必要であるという問題点が指摘されている。また,より多くの遺伝情報を同時に細胞内に導入することが可能である人工染色体を用いた形質転換法など,巨大DNA分子の導入法は未だ確立されているとはいい難い。これらの問題を克服するために,本研究室では新しい遺伝子導入法の開発を試みている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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