icon fsr

文献詳細

雑誌文献

生体の科学55巻3号

2004年06月発行

文献概要

特集 分子進化学の現在

共生という生き方の帰結―微生物ゲノム解析からの洞察

著者: 深津武馬1 石川統2

所属機関: 1産業技術総合研究所生物機能工学研究部門生物共生相互作用研究グループ 2放送大学自然の理解専攻

ページ範囲:P.217 - P.225

文献購入ページに移動
[1] アブラムシの必須共生細菌Buchnera

 アブラムシ類は世界中で4000種以上が知られ,一生を通じて植物の汁液のみを餌とする吸汁性昆虫である。植物の師管液にはショ糖が多量に含まれるが,タンパク質や脂質はほとんど存在しない。窒素源としてはある程度の量のアミノ酸が含まれるが,その組成は大きく偏っており,必須アミノ酸の含量が低いために,普通の動物にとっては利用困難である。しかしアブラムシ類はこのような栄養的に難しい食物資源の利用に特化して,温帯域でもっとも重要な農業害虫の一つとなるほどの繁栄を実現している。その秘密は,アブラムシの体の中に存在するミクロの共生系にある。

 アブラムシの体内には菌細胞(mycetocytes, bacteriocytes)と呼ばれる巨大細胞が存在し,その細胞質の中に無数の球状の細菌が共生している(図1)。この共生細菌は,大腸菌などに近縁のγプロテオバクテリアに属しており,Buchnera aphidicolaと呼ばれている1)。抗生物質や高温によってBuchneraを除去すると,アブラムシの成長は著しく阻害されて,不妊になってしまう。Buchneraの方もアブラムシの体内でしか生きていけず,胚発生や卵形成過程における垂直感染で母虫から子へと伝えられていく。栄養生理学的な解析から,Buchneraは必須アミノ酸を効率的に合成して,宿主アブラムシに供給していることが示されている2)。すなわち,宿主アブラムシと共生細菌Buchneraは,お互いなしでは生きていけない一つの生物複合体として絶対相利共生関係にある。両者の緊密な共生関係は,2億年前後の進化の歴史をもつと考えられている3)

参考文献

41:566-568, 1991
43:17-37, 1998
253:167-171, 1993
407:81-86, 2000
108:583-586, 2002
270:397-403, 1995
396:133-140, 1998
45:848-851, 1995
82:101-104, 1981
32:402-407, 2002
6:263-278, 1998
15:321-326, 2000
405:299-304, 2000
55:709-742, 2001
15)Bushman F:Lateral DNA Transfer:Mechanisms and Consequences. Cold Spring Harbor Lab. Press Plainview, NY, 2002
11:555-565, 2001
15:6-16, 1998
16:291-317, 1987
9:4359-4366, 1990
17:589-596, 2001
18:829-839, 2001
407:757-762, 2000
296:2376-2379, 2002
100:581-586, 2003
19:176-180, 2003
409:529-533, 2001
66:2748-2758, 2000
67:5315-5320, 2001
27:189-195, 2002
100:1803-1807, 2003
11:2123-2135, 2002
303:1989-1989, 2004
97:10855-10890, 2000
270:2543-2550, 2003

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?