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文献詳細

雑誌文献

生体の科学55巻5号

2004年10月発行

文献概要

特集 生命科学のNew Key Word 2.核/染色体

バウンダリーエレメント

著者: 石井浩二郎12

所属機関: 1久留米大学分子生命科学研究所細胞工学研究部門 2科学技術振興機構さきがけ研究

ページ範囲:P.398 - P.399

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 真核細胞の核内に保持されるゲノムDNAには膨大な数の遺伝子が含有されている。細胞機能の発揮には個々の遺伝子のゲノムDNAからの忠実な発現が不可欠であるが,遺伝子発現の緻密かつダイナミックな調節は様々なレベルの制御要素の組み合わせで成り立っている。その中で特徴的クロマチン制御の領域限定を担っているのが「バウンダリーエレメント(boundary element)」と呼ばれる一連のDNAシス因子である1)

 長大なるゲノムDNAは,核内で多様なタンパク質との高次複合体「クロマチン(chromatin;染色体)」を形成することで,高度な折り畳みによる秩序だった収納と,細胞分裂を通じた安定な継承・維持を達成している。染色体DNAの折り畳みにはヒストンタンパク質への巻きつきを基本単位とした複数の高次中間段階が介在しているが,その状態は外的シグナルなどに応じて動的に変遷し得るものであり,染色体折り畳み度は遺伝子発現レベルと相関関係を示す。しかしながら,1本の染色体に含まれたゲノムDNA上には多数の遺伝子が存在するため,単一のクロマチン分子内にも異なる折り畳みレベルのクロマチン構造が接しあいながら混在することになる。バウンダリーエレメントはこれら染色体上のクロマチン構造領域の境界を規定し,隣り合って互いに干渉しあう可能性のある動的クロマチン変換効果の伝播を部位特異的に遮断する機能を果たす。バウンダリーエレメントは,特にその遺伝子発現に与える影響に着目した場合,エンハンサーやサイレンサーなどの転写制御要素と混同しやすいが,バウンダリーエレメントは自らの部位を越えて伝播しようとするクロマチン変換効果は遮断するが(図1 ① の効果),自分自身を横切らない効果に対してはそれが近接する因子に由来していても全く影響を与えない点(図1 ② の効果)で上述の転写制御要素と一線を画する。

参考文献

111:151-154, 2002
11:237-248, 2003
109:551-562, 2002
13:291-298, 2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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