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文献詳細

雑誌文献

生体の科学55巻5号

2004年10月発行

文献概要

特集 生命科学のNew Key Word 4.細胞小器官

小胞型グルタミン酸トランスポーター

著者: 森山芳則1

所属機関: 1岡山大学大学院自然科学研究科生体膜生化学研究室

ページ範囲:P.412 - P.413

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 神経のシナプス末端には直径50nm程度のシナプス小胞が充満している。各種の神経伝達物質はこの小胞の中に蓄積されており,神経の興奮に応答して細胞外にエキソサイトーシスされる。放出された神経伝達物質は後シナプスの受容体と結合し情報を伝える。これが「化学伝達」である。小胞内の神経伝達物質の蓄積は,小胞型神経伝達物質トランスポーター(vesicular neurotransmitter transporters)と総称される複数のトランスポーターが,液胞型プロトンプンプ(vacuolar H-ATPase, V-ATPase)が形成するプロトンの電気化学的ポテンシャル差を駆動力として,基質である神経伝達物質を能動輸送した結果である。このトランスポーターは輸送する基質により4種に分類される。小胞型モノアミントランスポーター,小胞型アセチルコリントランスポーター,小胞型抑制性アミノ酸トランスポーター,そして,小胞型グルタミン酸トランスポーターである。小胞型グルタミン酸トランスポーターは興奮性アミノ酸であるグルタミン酸を輸送するトランスポーターとして定義され,最近,その分子実体が明らかにされた1-3)。Vesicular glutamate transporterの和名。VGLUTとも略する。

 VGLUTは,構造的には12回膜貫通型の原形質膜に存在するNa依存性リン酸トランスポーターファミリー(SLC17)の仲間であり,現在までにVGLUT1,VGLUT2,VGLUT3という3種のイソ型が知られている(図1)。それぞれの分子量は若干異なるがおよそ56000であり,他3種の小胞型神経伝達物質トランスポーターとは全く異なった膜タンパクである。VGLUTはLグルタミン酸を基質として認識する。D体も基質とするが,その程度はL体の約15%である。D,Lアスパラギン酸は基質として認識されないが,1-aminocycloropropane-trans-1,3-dicarboxylic acidのようなトランス型の環状グルタミン酸類縁体は比較的よい基質である4)。エバンスブルーのようなグルタミン酸を含んだ色素が輸送を阻害するが5),強力で特異性の高い阻害剤は未だに知られていない。このトランスポーターは前述のプロトンの電気化学的ポテンシャル差の要素のうち,内部正の膜電位を輸送の駆動力として用いている4)。内部酸性のpH勾配は必要ない。この輸送活性には低濃度(大体5mM)の塩素イオンが必要である。塩素イオンが存在しないと活性は5%程度に減弱する。臭素イオンも同様に有効であるが,ヨードやチオシアネートアニオンは阻害的である。これは活性を制御するアニオン結合部位がVGLUT分子上に存在するためであると考えられている4,6)。VGLUTの特性の一つに輸送の多芸性(versatility)があげられる3)。VGLUTが原形質膜上に存在すると,Na勾配により駆動される無機リン酸の取り込み反応を引き起こすようになる。従って,VGLUTは局在するオルガネラ,駆動力・輸送基質・輸送の方向を変化させることができる(図1)。このような性質を示すトランスポーターは他に知られていない。

参考文献

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101:7158, 2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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