特集 生命科学のNew Key Word
8.発生/増殖
PDX-1―ホメオドメインタンパク質
著者:
金藤秀明1
梶本佳孝2
所属機関:
1大阪大学医学部病態情報内科学
2総合医科学研究所
ページ範囲:P.470 - P.471
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Pancreatic and duodenal homeobox factor-1;PDX-1(別名IPF1,IDX-1,STF-1)はホメオドメイン蛋白の一つであり,インスリン遺伝子プロモーター領域に結合し,インスリン遺伝子の膵β細胞特異的発現に関わっている。また,グルコキナーゼ遺伝子,グルコーストランスポーター2遺伝子などのβ細胞特異的遺伝子の転写に共通して関与することも示されている。さらに,PDX-1ノックアウトマウスでは膵が欠失し,出生後早期に糖尿病のために死亡することが報告されており,PDX-1が膵初期発生において重要な役割を演じていることが明らかとなっている。ヒトにおいてもPDX-1の変異ホモ接合体が膵欠損をもたらし,また同じ変異のヘテロ接合体が糖尿病(MODY4)の原因となることが報告されている。
PDX-1がβ細胞のマスターレギュレーターとして機能することから,これまで人為的β細胞分化誘導にPDX-1が用いられてきた。実際に,膵α細胞由来細胞株,腸管クリプト細胞,肝細胞などにin vitroあるいはin vivoにて遺伝子導入することにより,インスリンやグルコキナーゼといったβ細胞特異的遺伝子群の発現が誘導されるなど,そのβ細胞分化誘導因子としての潜在的有用性が示されている。ただ,未だグルコース応答性のインスリン分泌を非β細胞において再現するには至っておらず,今後Neurogenin3などやはり膵内分泌細胞分化誘導能を有するその他の転写因子を共発現させたり,ベータセルリンなどのβ細胞分化誘導能を有する成長因子を追加的に作用させることで,より効率的にβ細胞分化ができるのではないかと期待されている。