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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学55巻6号

2004年12月発行

雑誌目次

特集 脳の深部を探る

エレクトロポレーション法によるモルヒネ耐性・依存の責任脳部位の決定

著者: 植田弘師 ,   井上誠 ,   久保慎司

ページ範囲:P.556 - P.562

 モルヒネは強力な鎮痛効果を有する薬物であるが,慢性的に使用すると鎮痛耐性や依存性の形成が見られる。モルヒネの主な作用点であるμ-オピオイド受容体(MOR)は全身に分布するが,モルヒネ慢性投与に伴う耐性・依存性の形成については脳内のMORが大きく関与していると考えられる。興味深いことに,MOR遺伝子欠損動物ではモルヒネ依存のみならず,カンナビノイド,ニコチン,アルコールなどによる依存形成も著明に抑制されることが報告されている1-6)。このことは,脳内のオピオイド神経系は多くの薬物依存の共通経路として機能している可能性を示している。オピオイド依存のみを取り上げても,脳内の複数の部位にMOR受容体が存在し,それぞれが薬物依存に関して個別の役割を果たしていることが知られている。薬物依存の真の分子基盤を分子のレベルで解明するに先立ち, こうした依存性形成の場が,局在した脳部位に特定されるか,あるいは異なる複数のオピオイド受容体を有する脳部位がいわゆるオピオイド回路を形成し,相互連携の結果成立するのかを明らかにすることから始めなければならない。

 われわれは,遺伝子欠損マウスの脳局所に遺伝子をレスキューするという手法を用いて,モルヒネ鎮痛効果および耐性・依存性形成に重要な役割を担う責任脳部位の解析を行っており,本稿ではこの新しい研究手法を紹介する。

大脳基底核のCaチャネルサブユニット

著者: 村田美穂 ,   金澤一郎

ページ範囲:P.563 - P.566

 神経系においてカルシウムシグナルは,神経伝達物質放出や神経細胞死,遺伝子発現制御など多くの重要な機能に関与していることが知られている。電位依存性カルシウムチャネルは細胞外カルシウムが細胞内に流入する主要な経路であり,カルシウムチャネルの機能を制御することは神経細胞の正常な機能を得る上で極めて重要である。カルシウムチャネルの神経系における機能については,これまで小脳や海馬,大脳皮質での研究が主であったが,近年T型カルシウムチャネルα1G欠損により視床皮質リレーニューロンのバースト発火がおきないことにより欠神発作がおきる1)ことや,黒質ドパミン神経のバースト発火にもT型カルシウムチャネルが関与している2)ことなどが明らかになり,基底核におけるカルシウムチャネルの機能についても解明が進み,新たな薬剤の開発にも期待がもたれている。

外側膝状体のクロライドトランスポーターとクロライドホメオスタシス

著者: 福田敦夫

ページ範囲:P.567 - P.573

 中枢神経系における最も主要な抑制性伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)が,神経細胞の発生期にはシナプスを介さないパラクライン的な作用で脱分極とCa2+流入を惹起して神経細胞への分化や細胞移動を促したり,その後の神経回路形成期には興奮性伝達物質としてシナプスの形成や強化に関与する可能性が近年示唆されている1,2)。すなわち,GABAは発達段階に応じて異なった役割を持ち,神経系の発達初期におけるその役割は古典的概念の抑制性伝達物質とは大きく異なっている。その機序として回路形成期に特異的なクロライドホメオスタシスとその発達的変化,すなわちクロライドトランスポーターがクロライドホメオスタシスを変化させることによりクロライドイオン(Cl-)をチャージキャリアとするGABA作用の興奮/抑制の調節を行い,神経回路の形成や機能の発達に積極的に関与しているのではないかと考えられる3)。まずGABAを興奮性に作用させて回路構築を促し,その後で抑制性に変化させることにより,成熟型の神経回路網を完成するという仮説である。

 一方,視覚情報は外側膝状体背側核で中継され,大脳皮質視覚野へ投射するが,この視覚情報処理には発達依存的および活動依存的な可塑性が起こることがよく知られている。これらの可塑性にかかわる神経回路網の変化は,外側膝状体および一次視覚野のレベルのそれぞれで起こるが,視覚野の可塑性の臨界期の決定におけるGABAの重要な役割が最近明らかになった。しかし,外側膝状体の可塑性におけるGABAの役割は視覚野のそれと異なることも示唆されているが,詳細はまだよくわかっていない4)。もし外側膝状体と視覚野の可塑性におけるGABA作用に差異があるとすると,前述の仮説に立てば,そのメカニズムとしてクロライドホメオスタシスの違いが関与している可能性も考えられる。そこで,本稿ではまずクロライドホメオスタシスとGABA作用の関係について振り返り,ついで外側膝状体のクロライドトランスポーターとクロライドホメオスタシスに関して,その発達過程,特に視覚野との差異に注目して行った研究について述べてみたいと思う。

アルツハイマー病と辺縁系

著者: 小林克治 ,   越野好文

ページ範囲:P.574 - P.577

[1]大脳辺縁系

 大脳辺縁系という名称は,1878年にBrocaがMonro孔の周囲の中心部分を縁どって大辺縁葉と命名したことに由来する。このため,大脳辺縁系は視床下部の周囲の辺縁皮質と,辺縁皮質と解剖学的に線維連絡のある皮質下領域より構成され,扁桃体,海馬体,海馬傍回,帯状回,中隔核,視床が大脳辺縁系の主要な構成要素である。高等動物ほど新皮質,すなわち連合野の容積が増大し,大脳辺縁系は脳の底面や内部に押しやられる形になった。しかし,視床下部と同様に大脳辺縁系の発達程度は哺乳動物種間ではあまり差がなく,これは大脳辺縁系が動物に共通な機能,すなわち本能,情動,原始的な感覚,記憶と自律機能に関係するからである。

 アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)は認知障害から発病し,精神病症状などの非認知障害の症状を呈しながら失外套状態へ至る疾患である。神経原線維変化(neurofibrillary tangles:NFT)と呼ばれる神経細胞内の封入体と,ベーターアミロイド蛋白(beta amyloid protein:BAP)沈着から生じる老人斑が細胞病理学的変化の中心で,この両者を合わせてアルツハイマー変化と呼ぶ。

梨状葉皮質ニューロンの軸索側枝の解析

著者: 岸清

ページ範囲:P.578 - P.584

 梨状葉皮質は齧歯類や食肉類の脳において大きな面積を占めているのにも拘わらず1),そのニューロンのニオイ分子に対する反応が嗅球の僧帽細胞の反応と似ているために,嗅覚情報処理に果たす役割はわかっていなかった2)(図1)。しかし,近年における発生工学的な神経回路の追求法の開発および梨状葉皮質の電気生理学的研究の進展に伴って,梨状葉皮質が行っているニオイの識別機構の実態が徐々に明らかになってきた。

海馬におけるサイトカインの発現

著者: 南雅文

ページ範囲:P.585 - P.589

 サイトカインの多くは免疫・造血系の細胞間情報伝達物質として同定され研究が行われてきたものであるが,1990年代になりそれらが脳内でも産生されることが明らかにされ,これまでに中枢あるいは末梢神経系において様々な作用を有することが報告されてきている。また,当初サイトカインに分類されていたインターロイキン-8(IL-8)は,インターロイキン類では唯一Gタンパク質共役型の受容体を有するというユニークなものであったが,その後,IL-8に類似の構造をもち白血球などの細胞に対しケモタキシスを惹起する一群の物質が次々と同定され,現在ではケモカインと呼ばれる一群のファミリーを形成しており,これらケモカイン類も脳内での生理的および病態時の役割が注目されている。本稿では「海馬」に焦点をあて,特に,脳虚血や痙攣などの病態時におけるサイトカイン・ケモカインの発現と機能についてこれまでの知見を紹介する。

恐怖条件付けにおける扁桃体海馬移行領域の役割

著者: 藤﨑美久 ,   清水栄司 ,   橋本謙二 ,   伊豫雅臣

ページ範囲:P.590 - P.597

 感情的学習と記憶的学習の第一のモデルとして,嫌悪学習の一つであるパブロフの恐怖条件付けがある。恐怖条件付けは恐怖と不安の動物モデルとして,恐怖や不安に関わる脳部位の同定やその役割の解明,また恐怖や不安の治療法開発など様々な研究に使われている1-3)。恐怖条件付けに携わる代表的な領域としては扁桃体と海馬があるが,その他に中脳中心灰白質,内側前頭前野なども知られている。ところでラット,マウスなどの動物では扁桃体と海馬に挟まれるようにして扁桃体海馬移行領域amygdalo-hippocampal transition area(AHi)が存在するが,その機能については不明な点が多い。今回は恐怖条件付けと上記の領域の役割について概説するとともに,最近われわれが行った,AHi病変ラットと最初期発現遺伝子を用いた研究について紹介し,AHiの司る機能について考察する。

視床線条体系による大脳皮質基底核ループ機能のモニターと切り替え

著者: 木村實 ,   南本敬史 ,   堀由紀子

ページ範囲:P.598 - P.604

 視床の髄板内核は,視覚,聴覚,体性感覚などの特殊感覚の大脳への中継核である外側膝状体(LGB),内側膝状体(MGB),腹側基底核(VB)などと異なり,網様体賦活系1)に含まれ,広範囲の大脳皮質に投射すると考えられたために非特殊核に分類されている。一方,新しいトレーサーを用いた最近の研究によって,各々の髄板内核は部位特異的な求心性投射と,大脳皮質,線条体を中心とした特異的な投射先をもつことが明らかになってきた2)。これに対して髄板内核の機能については最近までほとんど生理学的な知見が乏しく,不明であった。私たちは最近数年間,尾側部の髄板内核であるCM核およびPf核の機能を調べる研究を行い,機能仮説を提唱した3)。この仮説は大脳基底核,大脳皮質と視床髄板内核の機能に関わるものであり,髄板内核だけでなく,大脳基底核と大脳皮質との機能連関に関する新しい,検証可能な仮説である。本稿では,この仮説を中心に視床線条体投射の機能的な意義について論じる。

視床におけるコリン作動性投射の生後発達

著者: 車田正男 ,   星野嘉恵子

ページ範囲:P.605 - P.608

 脚橋被蓋核(PPT)は背外側被蓋核(LDT)とともに脳幹におけるコリン作動性投射線維の主な起始部位である1)。PPTは網様体賦活系の一部で,さまざまな感覚系,運動系に対する興奮性投射を示し,知覚や認識過程において不可欠とされる2)。視床は豊富なコリン作動性線維により支配されていることが知られており3),また,例えば外側膝状体のコリン作動性投射による影響については多くの報告が成獣でなされている。さらに,発達段階での影響についてもいくつかの重要な所見が示されており,脳幹から外側膝状体へのコリン作動性投射のタイミングおよびコリン作動性シナプスの始まりは,広範囲な発育や外側膝状体回路の生後発達における改造を受ける網膜膝状体終末分枝の成熟に重要なかかわりを持つ可能性がある4)。一方,視・運動機能に関わるとされる視床連合核の内側外側核・膝上核(LM-Sg)も脳幹からのコリン作動性投射を受けることが報告されている5)。また,PPTと基底核出力系(淡蒼球,黒質など)との相反連絡はよく知られており,注意行動などにある重要な役割があると考えられているが,PPTニューロンの行動制御における機能的役割については十分理解されたとはいえない。しかしPPTの破壊によりREM睡眠時の眼球運動頻度が減少すること,サッケード運動調節に関わる前頭眼野や黒質網様部がPPTに投射していることなどが示されていることから,PPTはサッケードなどの眼球運動調節に関わる可能性が示唆される6)。本稿では主に視床連合核であるLM-Sgへのコリン作動性投射およびシナプス糸球体の生後発達を提示し,それらの機能的意義について考察する。

絶食による視床下部遺伝子発現の制御

著者: 森川吉博

ページ範囲:P.609 - P.614

 生体はエネルギーを消費した時,空腹感を感じて食物を摂取し,満腹感を感じた時に食物摂取をやめる。摂食調節により,エネルギーの収支のバランスを保っており,このバランスが崩れた時,肥満になったり痩せたりする。1942年,HetheringtonとRansonは,視床下部がこの摂食調節に重要な役割を担っていることを示した1)。彼らは視床下部腹内側核を破壊したラットは過食となり,肥満になることを見出した。1951年には,AnandとBrobeckが, 視床下部外側野の両側破壊によりラットは無食となり,痩せることを示した2)。これらのことから,視床下部腹内側核が満腹中枢,視床下部外側野が摂食中枢と考えられるようになった。さらに,1958年にHerveyが,視床下部腹内側核を破壊したために肥満になったラットと正常ラットの血管を吻合することによって血流が交互に循環するようにしたパラバイオーシスの実験を行ったところ,正常ラットは飢餓のために死亡した3)。この頃から,満腹シグナルを伝える因子が血中に存在すると考えられはじめたが,その存在をより強く示唆したのは1969年のColemanのob/obマウスとdb/dbマウスを用いたパラバイオーシスの実験である4)ob/obマウスとdb/dbマウスはともに単一の遺伝子変異によって肥満となるマウスで,彼はこの実験からob遺伝子が満腹シグナルを伝える因子を,db遺伝子がそのレセプターをコードしていると推測した。しかしながら,1994年にその因子がクローニングされ,レプチンと命名されるまで20年以上の歳月を要することとなる。

 本稿ではレプチンによる摂食調節を簡単に説明した後,絶食がレプチンを共通経路として視床下部での遺伝子発現におよぼす影響について概説する。さらに,視床下部での遺伝子発現調節でレプチンを介さない経路についても述べる。

視床下部の摂食調節ニューロン―分布・局在・神経ネットワークについて

著者: 北徹朗 ,   影山晴秋 ,   竹ノ谷文子 ,   塩田清二

ページ範囲:P.615 - P.620

 中枢における摂食調節およびエネルギー代謝調節は,主に視床下部で行われている。視床下部には摂食中枢である外側視床下部lateral hypothalamus(LH)と満腹中枢である腹内側核ventromedial hypothalamus(VMH)が存在する。また,摂食・満腹の両機能を併せ持つ弓状核arcuate nucleus(ARC)が存在し,主にこの三つの神経核で摂食やエネルギー代謝調節にかかわる情報がコントロールされていると考えられる。最近,新規摂食調節物質が相次いで同定され,脳内における摂食調節機構の研究は急速に進展している(表1)。

 本稿では,摂食調節に作用する神経ペプチドのうち特に重要であると考えられているニューロペプチドY(NPY),プロオピオメラノコルチン(POMC),グレリン,オレキシン,ガラニン様ペプチド(GALP)の視床下部における分布・局在およびそれらの機能を概説する。摂食機能調節に関わるニューロンについての理解を深めていただければ幸いである。

睡眠・覚醒調節における汎性投射系の役割

著者: 小山純正

ページ範囲:P.621 - P.626

 約50年ほど前のMagounらの一連の研究により,覚醒の維持機構として,上行性の脳幹網様体賦活系という概念が提唱された1)。この系の実体は長い間不明であったが,その後の組織蛍光法や免疫組織化学法などの解剖学的手法の発達により,従来は網様体と一括されていた構造の中に,脳幹に起源をもち脳の広い領域に投射する細胞群(汎性投射系)の存在が明らかになった。

 本総説では,われわれが無麻酔動物から記録した神経活動の睡眠・覚醒との関わりをもとに,汎性投射系を中心とした睡眠・覚醒調節機構について述べる。

最後野ニューロンのペースメーカー活性/過分極作動性内向きカチオン電流による制御

著者: 舩橋誠 ,   松尾龍二

ページ範囲:P.627 - P.633

 最後野は延髄背側部の第4脳室の最尾側部に隣接する部位にあり,脳室周囲器官のひとつである(図1)。脳の血管は通常,血液脳関門(隣接する内皮細胞が癒合してタイトジャンクションをなす)を持ち,血液中の化学物質が脳内へしみ出さないようになっているが,脳内にはこの血液脳関門が欠損している部位が7ヵ所ある。最後野はその一つである。このような部位のニューロンは常に,血流により運ばれる化学物質にさらされる。最後野ニューロンは種々の化学物質に対して感受性をもつため,血液中の化学物質の濃度変化を感知するセンサーのような働きをしていると考えられている。また,最後野ニューロンへは迷走神経からの直接および間接の入力があり,内臓感覚などの自律神経系の感覚情報を察知できる。最後野ニューロンはこれらの液性および神経性の入力を統合し,神経連絡をもつ視床下部や孤束核のニューロン活動を修飾する。これにより最後野は,摂食行動1-3),体液恒常性4,5),循環調節6)などのホメオスタシスに貢献する。また,イヌやネコなどの嘔吐する動物においては,最後野ニューロンが各種催吐物質に反応して嘔吐を惹起することから,最後野は化学受容性嘔吐誘発域(chemoreceptor trigger zone)とされる7)。ラットは嘔吐しない(できない)動物であるが,これらの動物種においても,最後野ニューロンが悪心を惹起することが,味覚や薬物による条件付け学習の実験からわかっている8-10)。このように化学受容性に富み,自律機能の調節を担っている最後野ニューロンにおいて,ペースメーカー電流の活性が発見されたことは,自律系の神経調節機序を考える上で大変興味深いことである。

連載講座 個体の生と死・32

高齢期における精神神経変化

著者: 宇野正威

ページ範囲:P.634 - P.640

 高齢期にはいると,身体各器官と共に脳神経系もさまざまな様式で老化し,感覚・運動機能から高次神経機能・精神機能の全ての面に多くの変化が生じる。その変化が生理的変化の範囲であれば自立した生活を全うできるであろうが,病的過程が加われば自立は困難になる。高齢期に入っても,豊富な知識を保持しつつ,社会で活躍している人も少なくはない。しかし,多くの人は高齢になるにしたがい記憶力の衰えを自覚し,新しい知識を吸収する力と意欲が減退する。また,身体疾患の罹患と環境変化からうつ症状を呈することも少なくない。

 本稿では,まず高齢期における精神神経機能の生理的変化について述べ,ついで高齢期にはいると増加する痴呆性疾患,とくにその初期症状との関連に焦点を当てる。生理的老化と痴呆性疾患との境界領域をどのように捉え,いかに対応するかは,高齢期の精神保健の観点から深く関心の持たれている課題である。

解説

自閉症の病因と病態

著者: 瀬川昌也

ページ範囲:P.641 - P.646

 自閉症は記憶機能,言語,母子関係を含む社会性および情緒の障害を示す広汎性発達性障害である。遺伝的要因が示唆されているが,原因遺伝子は同定されていない。自閉症の主症状を何に置くか諸家により意見の相違があるが,病態に視床・皮質結合の異常,皮質の脱抑制,覚醒刺激系の障害が関与していることは諸家の認めるところである1)。さらに,初期徴候が乳児期早期4ヵ月までに発現し,その後特有の徴候が年齢依存性に発現すること, これらの症状の多くは環境要因に左右されること,男性優位の性差を持つこと,などを特徴とすることは意見の一致をみている2)

 これは,自閉症の病因となるニューロンあるいは神経系は,乳児期早期にすでにあるレベル以上に形態的,機能的に発達しており,中枢神経系の下位から上位へ階層的に配列された神経系を並列的に支配し,その機能の発達の制御を行い,かつその活性が環境に左右され,男性優位の易罹患性を持つものであることを示す。筆者はこれを脳幹セロトニン(5HT)神経系と考えている。しかし,自閉症には5HT神経系の異常では説明できない徴候もあり,またその神経病理は,前脳辺縁系と小脳の発達障害による固定的病変の他に,小脳深部核を含む特定のニューロンに成人年齢に及ぶ膨化と萎縮という動的病変がみられる3)

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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