文献詳細
文献概要
解説
F1-ATPaseの逆回転によるATP産生の実証
著者: 伊藤博康1
所属機関: 1浜松ホトニクス(株)筑波研究所
ページ範囲:P.351 - P.356
文献購入ページに移動 われわれの体の中には,人が作った機械のように働くタンパク質や,RNAでできた分子機械がある。その中でも,われわれが生きていくために必要なエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を合成するFoF1-ATP合成酵素は,ぐるぐると回転する回転モーターであることがわかってきた。この酵素は,バクテリアからヒト,植物にいたるまで広く普遍的に存在する膜タンパク質で,細胞の消費するATPの大部分を合成している1)。この酵素の存在の普遍性や構造の保守性から考えて,生物は,その誕生のかなり初期の段階でこの酵素造りを完了してしまったと考えられる2)。
ここで紹介するのは,この分子機械の一部を操作して,ATPという高エネルギー物質を合成できることを証明したことである3)。文字通り力ずくで,化学反応を誘導できたことになる。具体的には,ローター部分のサブユニットを捕まえて,ATPで分解して回転するのとは逆向きにぐるぐると回したのだが,タンパク質機械のある一点にある向きの力(トルク)をかけるだけで,そこから物理的に離れている触媒部位での反応を制御して平衡状態からはるかに離れたところまで反応を駆動できたこと,力学的エネルギーを直接化学エネルギーに変換したことなど,初めての発見がある。
ここで紹介するのは,この分子機械の一部を操作して,ATPという高エネルギー物質を合成できることを証明したことである3)。文字通り力ずくで,化学反応を誘導できたことになる。具体的には,ローター部分のサブユニットを捕まえて,ATPで分解して回転するのとは逆向きにぐるぐると回したのだが,タンパク質機械のある一点にある向きの力(トルク)をかけるだけで,そこから物理的に離れている触媒部位での反応を制御して平衡状態からはるかに離れたところまで反応を駆動できたこと,力学的エネルギーを直接化学エネルギーに変換したことなど,初めての発見がある。
参考文献
1)Berg JM, Tymocko, JL, Stryer L:Biochemistry, pp374-394, W. H. Freeman and Company, New York, 2002
2)吉田賢右,野地博行,宗行英朗:蛋白質核酸酵素 42:1396-1406,1997
427:465-468, 2004
2:669-677, 2001
370:621-628, 1994
241:2461-2466, 1966
7)香川靖雄:細胞工学 23:968-972,2004
8)大沢文夫,宝谷紘一,中山冶人,難波啓一:生命の精密機械―そのしなやかな仕掛けが見えてきた,pp196-223,読売新聞社,東京,1987
386:299-302, 1997
93:1117-1124, 1998
355:473-489, 2000
410:898-904, 2001
掲載誌情報