特集 タンパク・遺伝子からみた分子病―新しく解明されたメカニズム
2.酵素および酵素制御
ミオチュブラリンmyotubularin(MTM1)
著者:
野口悟1
西野一三1
所属機関:
1国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第一部
ページ範囲:P.392 - P.393
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ミオチュブラリン(EC3.1.3.64)はチロシン/デュアル特異性ホスファターゼ活性部位(PTP/DSP)と相同配列をもつタンパク質ファミリーのメンバーである1)。しかし,実際には,タンパク質よりも脂質に対して2000倍以上強い脱リン酸化活性をもち,ホスファチジルイノシトール3-リン酸(PI3P)とホスファチジルイノシトール3,5-二リン酸(PI3,5P2)の3位の脱リン酸化に働くことが示されている。全長603アミノ酸残基からなり,酵素触媒部位を含め六つの機能ドメインが報告されている2)。アミノ末端からホスファチジルイノシトール3,5-二リン酸と結合するGRAMドメイン,細胞膜ラッフルへの移行に必須であるRIDドメイン,ホスファターゼ活性を担うPTP/DSPドメイン,ホスファターゼ不活性型ホモログ分子MTMR12と相互作用するSIDドメイン,さらに,カルボキシル末端にはコイルドコイルドメインとPDZ結合部位が存在する。ヒトでは,分子構造のよく似た13の相同遺伝子と二つの偽遺伝子とともに大きな遺伝子ファミリーを形成することが報告されている。
ミオチュブラリンはXq28に存在するMTM1遺伝子にコードされている。元々MTM1遺伝子はX連鎖性劣性ミオチュブラーミオパチー(X-linked myotubular myopathy:XLMTM)の原因遺伝子として,ポジショナルクローニングにより同定された3)。現在までに300人以上の患者で分子全域にわたるMTM1遺伝子変異が報告されている2)。XLMTMは大部分の例が,臨床的には乳児期重症型を示す。新生児期から全身の著明な筋力・筋緊張低下と呼吸困難を伴い,ほとんどの患者が4-8ヵ月齢で死亡する。骨格筋組織の病理所見は,中心核を持つきわめて小径の丸い筋線維が特徴である。ほとんどすべての筋線維がタイプ1線維である。また,筋線維中心部での酸化酵素活性の上昇とperipheral haloと呼ばれる周辺部での低活性を示す。これらの組織学的特徴は胎児筋のそれに類似し,筋線維の未熟性が強いと考えられた。そのため,筋管細胞(myotube)に似ていることから,ミオチュブラーミオパチーと名付けられた。