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文献詳細

雑誌文献

生体の科学56巻6号

2005年12月発行

文献概要

特集 構造生物学の現在と今後の展開

X線結晶学は膜タンパク質の構造解明にどのように立ち向かっているか

著者: 山下敦子1

所属機関: 1理化学研究所播磨研究所

ページ範囲:P.571 - P.580

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 ヒトの生体内の約70%は水であり,生命活動をささえるほとんどの化学反応,タンパク質間相互作用,遺伝子間およびタンパク質-遺伝子間相互作用はこの水中でおこっている。そしてこのわれわれの体内にある「水」は,生体膜というリン脂質二重膜によって多種多様な細胞や細胞内小器官に仕切られている。ところが,この「膜」があるがために,タンパク質・遺伝子・および低分子化合物が膜を介して細胞と細胞の間を行き来することが不可能になってしまった。そこで活躍しているのが,膜に埋まった形で存在する膜タンパク質である。ゲノムに記録されているタンパク質のうち約20-30%が2回以上膜を貫通している膜タンパク質であるといわれており1),膜を介した情報伝達・情報変換・物質輸送・エネルギー変換などを担っている。この中にはホルモンなどの受容体,トランスポーター,チャネルなど生理的に重要な役割を果たすものが多数存在し,さまざまな疾患の原因タンパク質や治療薬の標的分子となっているものも少なくない。

 しかしながら,これまで膜タンパク質の構造解析が極めて困難であったため,構造に基づく機能の理解がほかの水溶性タンパク質にくらべ大幅に遅れていた。このことは現在Protein Data Bankに登録されている全構造データのうち膜タンパク質のものが約0.5%しか含まれておらず,全部で96の膜タンパク質の構造しかわかっていない(2005年10月現在)ことからも歴然としている。立体構造情報,特にX線結晶構造解析によって得られる原子レベルでの構造情報は,今日タンパク質の機能の理解にあたって欠かせない存在である。その中で構造生物学者はこの困難な課題である膜タンパク質の結晶構造解析にどのように立ち向かってきたのか,本稿ではこれまでの取り組みについて触れ,またその実際例の一つとして,筆者らが最近報告したNa/Cl依存性神経伝達物質トランスポーターの構造研究2)と,そこから何が明らかになったかについて紹介したい。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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