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文献詳細

雑誌文献

生体の科学57巻1号

2006年02月発行

文献概要

特集 こころと脳:とらえがたいものを科学する

概念の発達と操作の神経機構―ヒト思考形式の非論理バイアスによる概念創発

著者: 山崎由美子1 日原さやか1 藤井直敬1 岡ノ谷一夫2 入來篤史1

所属機関: 1理化学研究所脳科学総合研究センター象徴概念発達研究チーム 2理化学研究所脳科学総合研究センター生物言語研究チーム

ページ範囲:P.51 - P.57

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 William Jamesは,世の中の多くの事象の数々を区別し,分類して,「同一である」と認める機能を『概念作用』と定義した1)。現在経験しているある事象を,過去に出会った経験と「同じである」と再認識することだけでも,それは概念的な認知機能であるといえる。過去の事象は,現在の事象と厳密な意味では決して同一ではあり得ないにもかかわらず,それを「あたかも同一であるかのように【見なして】いる」からである。このように『概念』とは,厳密には同一ではあり得ないものを同一と「とりあえず見なす」という,ある種の「暫定性」を前提とし,要素間の類似性と同一性の境界における「曖昧性」を内包する。このような「概念作用」は,それに基づいて引き起こされる行動様式として検出するならば,下等な無脊椎動物でもその原初的形態は観察される。

 しかし,ヒトの概念作用は,上述のように現実に目の前に存在する数々の事象を単に弁別することによってカテゴリー化するのみではない。その本質的な機能は,直接的には存在しない「性質」や「関係性」といった抽象的な『概念』事象を先験的に規定して,それに適合する現実の要素を枚挙するといった思考形式にある。例えば「何も存在しない」という『零』や『空』といった概念である。人類が“0”の発見にいかに苦心し,できてみればそれがいかに有用であったかを思い起こせば,この抽象的概念作用の意義がわかるだろう。概念作用には,このように「仮説性」「空想性」や「蓋然性」などへの先験的な「気づき」の創発が必須である。これはヒト脳に特異的な機能であるかもしれない。

参考文献

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14:3-9, 2002
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(in press)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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