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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学57巻2号

2006年04月発行

雑誌目次

特集 膜リサイクリング

膜リサイクルシステム―リサイクリングエンドソームについての最近の話題

著者: 田口友彦

ページ範囲:P.70 - P.76

 近年,生体分子(特にタンパク質)の可視化の手法が急速な勢いで進歩・確立され,生体分子の動態を時間的・空間的に追跡することが可能になった。そのことによって,タンパク質が細胞内で実際に機能している“場”について情報を得ることができ,タンパク質の一生に関してわれわれは多くのことを学ぶことができるようになってきている。タンパク質の誕生(生合成)と死(分解)についての理解が多くのブレークスルーを医学・生物学にもたらしているのは周知であるが,タンパク質が機能している“場”についての知見が今後どのような形でタンパク質の一生に関して新しい統合的理解をもたらしてくれるのか多いに期待できる。

 本稿では,近年進展著しい細胞膜タンパク質の膜リサイクルシステムについて概説し,その中心の役割を果たしている細胞内小器官“リサイクリングエンドソーム”についての最近の話題を紹介していく。

ゴルジ装置-小胞体間膜リサイクリング

著者: 吉村信一郎

ページ範囲:P.77 - P.82

 小胞体とゴルジ装置の間のタンパク質輸送は順行輸送と逆行輸送によって制御されている。順行輸送は小胞体で新規合成されたタンパク質の輸送に機能する。逆行輸送は小胞体に局在すべきタンパク質の小胞体への保持,あるいは順行輸送に必要な因子の回収に必要とされてきた。今回は逆行輸送に焦点をあてて概説したい。

 分泌タンパク質や膜タンパク質は小胞体上で合成された後,小胞体からゴルジ装置を経由する段階で糖鎖などの修飾を受け,その後細胞外へ分泌されたり,あるいは細胞膜,エンドソームなどのそれぞれの目的地に運ばれたりする。この小胞体からゴルジ装置方向への輸送を順行輸送(anterograde transport)という。また,ゴルジ装置から小胞体方向への逆行輸送(retrograde transport)経路も存在する。順行輸送と逆行輸送のバランスによりタンパク質,脂質などの適切な局在,そして細胞内小器官のアイデンティティーが維持される。さらに逆行輸送においては,近年タンパク質の品質管理において重要な役割を果たす可能性が示唆されている。逆行輸送経路にはCOPⅠ依存的経路とCOPⅠ非依存的経路(図1)が知られているが,本稿ではそれぞれの経路において代表的な因子を紹介し,それらの因子の役割について記述する。またそれぞれの逆行輸送経路の意義についても考察する。

膜融合の立役者:SNAREタンパク質

著者: 大庭良介 ,   竹安邦夫

ページ範囲:P.83 - P.90

 様々な細胞内小器官で満たされる真核生物の細胞内において,細胞内小器官間のタンパク質輸送は小胞輸送によって担われる。送り手側の膜からCOPⅠ被覆小胞・COPⅡ被覆小胞・クラスリン被覆小胞といった輸送小胞が輸送タンパク質を含んだ形で千切り取られ,受け取り側の膜に輸送小胞が融合することを通して,小胞内(あるいは小胞膜)タンパク質が細胞内小器官間を移動する。この膜融合課程にはSNAREを中心に,それに直接あるいは間接に関与するRab-GTPaseやSMタンパク質といったタンパク質が関わっている。これらの分子は小胞膜融合の特異性を決め,どの輸送小胞がどの細胞内小器官に輸送されるかという細胞内の膜流通を管理する重要因子である。

 本稿では,SNARE分子に注目し,膜融合におけるSNARE分子の役割を述べるとともに,細胞生物学的解析と分子進化学的解析から推察できる細胞内小器官の進化の過程について言及する。

cAMPシグナルによるエキソサイトーシスの調節機構

著者: 柴崎忠雄 ,   清野進

ページ範囲:P.91 - P.95

 cAMPは細胞内Ca2+濃度上昇を引き金として惹起されるエキソサイトーシス(開口分泌)において極めて重要な細胞内シグナルである1)。cAMPは海馬や小脳プルキンエ細胞からの神経伝達物質放出制御による長期増強,嗅神経や交感・副交感神経から神経伝達物質放出などに関与する。また膵β細胞,膵α細胞,下垂体細胞,副腎由来クロム親和性細胞からの開口分泌もcAMPによって制御される。

 開口分泌でのcAMPの標的分子はおもにPKAが挙げられる。 最近では, サイクリックヌクレオチド作動性(CNG)チャネルやexchange proteins directly activated by cAMP(Epac)がPKA非依存性開口分泌を担うと報告されている。CNGチャネルは嗅神経からの神経伝達物質放出に,Epacはある種の神経細胞や膵β細胞での開口分泌に深く関わっている。本総説ではcAMPによる開口分泌の制御機構の解明が進んでいる神経細胞や膵β細胞を中心に取り上げ,開口分泌におけるPKA依存性経路とEpac依存性経路(図1)の最近の知見について概説したい。

分泌顆粒のエキソサイトーシス

著者: 泉哲郎

ページ範囲:P.96 - P.101

1 分泌顆粒とは

 多細胞生物が統合的に機能するためには,分化細胞間の細胞間連絡が必要となる。特に物理的に離れた細胞間の相互作用では,生理活性物質を細胞外に分泌して,血液などを介してその情報を離れた細胞に伝達することが,主要な手段となる。この際,情報となる生理活性物質は,分泌刺激の強度に応じて,必要とされる濃度と速度で分泌されなければならない。生理活性物質の作用が,食事摂取量(体重)の調節,組織の成長といったタイムスケールの長い場合,数時間以上かかる,生合成に応じた分泌(構成性分泌)でも十分に対応できる。しかし食物の消化,血糖値の調節,心拍数・呼吸数の制御,さらには運動の開始など,より速い反応を必要とする場合は,刺激に応じて分泌物質を合成するのではとても間に合わない。そこであらかじめ生理活性物質を細胞内に貯留して,必要時に必要量を迅速に分泌する,調節性分泌経路が進化したと考えられる。

 分泌物質を細胞内に貯留する器官は分泌小胞と総称されるが,このうち直径150-400nmくらいで,中心に電子密度の高いコア部分,まわりに低いハロ部分があるものを(有芯)分泌顆粒と呼ぶ。この言葉は,主として神経シナプスなどに存在する,直径50nmくらいの電子密度の低い小胞と区別するために用いられる。シナプス小胞は,グルタミン酸などの低分子を貯留し,核から遠く離れた神経線維の先端でリサイクルされる。すなわちその内容物は,閉区間であるシナプス間隙からの再吸収や細胞質での合成でまかなわれ,小胞膜もエンドサイトーシスにより再利用される。

Ca2+依存性エキソサイトーシス

著者: 森靖典 ,   後藤由季子

ページ範囲:P.102 - P.107

 Ca2+は細胞外からのシグナルを細胞内に伝達するためのセカンドメッセンジャーとして,様々な生命現象において重要な役割を担っている。本稿ではCa2+依存性エキソサイトーシスがどのような生命現象に関与しているのか,またCa2+はどのようにエキソサイトーシスを制御しているのかを概説し,さらにCa2+依存性エキソサイトーシスがどのように調節されているかに関してわれわれの得た知見を交えて紹介したい。

細胞膜損傷の修復

著者: 東郷建

ページ範囲:P.108 - P.113

 動物の様々な組織,とくに物理的負荷が多くかかる組織において,細胞膜には日常的に損傷が起きている1)。もしこの細胞膜の損傷が修復されなければ,それはその細胞の死を意味するが,通常は細胞膜の損傷は修復され,細胞は生き延びていることが明らかにされている1)。この膜修復という現象は長く省みられることがなかった。このことの一つの理由は,修復の仕組みが脂質二重膜の性質にのみ帰結され,細胞膜は細胞それ自身の関与なしに単に自発的にあるいは受動的に修復すると考えられてきたことにあるであろう。ところが,細胞膜損傷の修復が実際には損傷箇所から流入するCa2+に対する細胞の応答であることが,古くChambersやHeilbrunnによって示されていた(“surface precipitation reaction”)2)。1990年代に入り,直径1μm程度の微小な細胞膜損傷の修復には損傷箇所から流入するCa2+が誘起するエキソサイトーシスが必須であることが見出された3)。さらに細胞は,もっと大きな,たとえば10μm2程度以上の損傷を修復する能力も有していることが知られている。すなわち,そのような大きな損傷ができたとき,損傷箇所直下にある小胞同士が融合してできる大きな膜構造が,ちょうどパンクしたタイヤを修理するように膜損傷を修復するのである。それについては別の総説に詳しい4)。本稿では,細胞膜が微小な損傷を受けた場合の修復機構について,特にエキソサイトーシスの関与に重点を置いて,最近の研究を紹介する。

クラスリン依存性エンドサイトーシス

著者: 中山和久

ページ範囲:P.114 - P.121

 細胞とその外部環境を隔てる細胞膜を介して,様々な物質のやり取りや情報交換が行われている。エンドサイトーシスは単なる栄養成分やシグナル分子の細胞外からの取込みだけでなく,受容体を介するシグナル伝達の調節においても重要な役割を果たす。真核細胞のエンドサイトーシス経路は,クラスリン依存性と非依存性の二つに大きく分類できる。クラスリン依存性のエンドサイトーシス経路に関する研究はこの10年ほどの間で著しく進展し,多くのことが明らかになってきた。一方,近年までクラスリン非依存性エンドサイトーシス経路としてひとくくりにされてきたものは,カベオリン依存性経路やクラスリンにもカベオリンにも依存しない経路などさらに複雑であることがわかってきた。しかし,クラスリン非依存性経路の生理的な役割に関してはいまだに不明な点が多い。したがって本総説では,クラスリン依存性エンドサイトーシスについて,クラスリン被覆小胞の構成要素とコートタンパク質の集合,被覆ピットの陥入と被覆小胞の形成の過程の調節を中心にして解説する。クラスリンに依存しないエンドサイトーシスに関しては,ほかの総説をご参照いただきたい1,2)

シナプス後部における受容体のリサイクリング

著者: 山口和彦 ,   立川哲也

ページ範囲:P.122 - P.127

 哺乳類中枢神経系の複雑な機能は,約1011個の神経細胞の織りなす神経回路網によって実現されているが,神経細胞同士の接点,シナプスは1神経細胞あたり平均1万ヵ所以上あると考えられている。

 軸索末端であるシナプス前部からは,電気信号によりトリガーされて神経伝達物質が放出され,シナプス後部では,神経伝達物質が特異的受容体に結合し,情報は再び電気信号に変換される。シナプス後部における受容体発現は常時,構成性受容体トラフィッキングによって調節されている。シナプス後膜表面に構成性エクソサイトーシスにより挿入された受容体は,構成性エンドサイトーシスにより内在化された後,リサイクルされ,再びシナプス後膜に挿入される。シナプス後膜における受容体の発現が活動依存性に長期に増強されたり(長期増強,LTP),抑圧(長期抑圧,LTD)されることが記憶や学習の基礎機構の一つとなっている。

接着分子のリサイクリング

著者: 西村範行 ,   東尾浩典 ,   佐々木卓也

ページ範囲:P.128 - P.133

 細胞接着は,生体を構築・維持していくために不可欠な細胞の機能であり,多細胞生物の個体発生における組織・器官の形成などの生命現象や炎症,創傷治癒,癌細胞の浸潤・転移といった病態を理解するためにも極めて重要である。細胞接着には,細胞表面の接着分子が細胞外基質と結合する細胞-細胞外基質間接着と,隣り合う細胞の接着分子がトランスに結合する細胞-細胞間接着がある。線維芽細胞や血球細胞は細胞運動を支える一過性の動的な接着を形成するが,上皮細胞や内皮細胞は生体の恒常性維持に必須の安定した接着を形成する。運動している線維芽細胞は,進行方向に向かって細胞突起を伸ばし,その先進部において接着分子インテグリンを介して細胞-細胞外基質間接着装置である接着斑(focal adhesion, FA)を形成するとともに,後方部においてFAを分解することによって,細胞体を進行方向へ移動させるという過程を繰り返している。このような細胞運動におけるFAの動的な再編成には,インテグリンが細胞膜とエンドソームの間をリサイクリングされることが種々の生理的および病理的現象において重要な役割を担っている1)。一方,接着している上皮細胞は,二つの生体腔を隔てる安定したバリアーを形成している。このバリアーを支える上皮細胞接着は,隣り合う細胞間隙をシールする安定した構造であるとともに,一過性かつ動的に再編成される構造でもある。SnailやTwistといった転写因子やユビキチン-プロテアソーム系は,接着分子の発現量を調節することによって,上皮細胞接着の再編成に重要な役割を担っているが,最近,上皮細胞接着を担っている接着分子も細胞膜とエンドソームの間をリサイクリングしていることが明らかになりつつある2)。本稿では,この接着分子のリサイクリングについて考えてみたい。

細胞運動と膜輸送

著者: 西村隆史 ,   貝淵弘三

ページ範囲:P.134 - P.139

 神経突起の伸長や方向性を持った細胞遊走には,細胞骨格の再構築と膜輸送が協調して働くことが重要である。細胞運動におけるアクチン細胞骨格の再構築や微小管ダイナミックスの分子機構は広く理解されるようになってきた。一方で,細胞の形態形成や運動における膜輸送や膜蛋白リサイクリングの重要性,およびその制御機構には不明な点が多く残されている。本総説では,最近徐々に明らかになってきた膜輸送の意義とその分子機構について述べる。

エンドソーム輸送と細胞骨格

著者: 秋山信治 ,   宮田英威

ページ範囲:P.140 - P.144

 エンドサイトーシスは細胞が外部の物質(微小な粒子,分子)やレセプターを細胞内に取り込む活動である。その際には細胞外液を内包した膜小胞(endocytic vesicle, EV)が細胞膜から形成される。クラスリン依存の膜小胞形成機構は特にくわしく研究されている1)。エンドサイトーシスにはこのほかに細胞質ドメインであるカベオラが関与するもの,クラスリンシステムにもカベオラにも依存しないものがある。形成されたEVは初期エンドソーム,後期エンドソームを経てリソソームへ移行,あるいは初期エンドソームからリサイクリングエンドソームを経て再び形質膜へ輸送される(図1)。ここでは,これらの輸送過程において微小管とアクチンフィラメントという二つの主要な細胞骨格が果たす役割を,われわれの研究を織り交ぜながら紹介する。

解説

MRIを用いてマウスの老人斑を見る

著者: 樋口真人 ,   西道隆臣

ページ範囲:P.145 - P.152

 アルツハイマー病をはじめとする多くの神経変性疾患は,現時点では根本的な治療手段がなく,剖検脳の病理検査を行わない限り確定診断も不可能である。しかしながら,こうした診断・治療上の問題が,近年の脳アミロイド研究によって解決される見込みが示されている。脳アミロイドの沈着は神経変性と密接に結びついており,これを標的とすることが疾患の早期診断においても治療法の開発においても重要視されている。診断に関しては,アミロイド結合性低分子化合物の開発技術や生体脳画像技術を組み合わせることで,神経変性疾患の脳アミロイド病変,特にアルツハイマー病の老人斑を,生きた患者や疾患モデル動物で描出することが可能になりつつある。本稿ではMRIによる老人斑の検出法を中心に脳アミロイド画像化技術を紹介し,その有用性について解説する。

話題

トロポニン発見四十周年記念国際シンポジウム

著者: 大槻磐男

ページ範囲:P.153 - P.155

 わが国において江橋節郎先生が筋収縮のカルシウム調節タンパク質であるトロポニンを発見されてから丁度40年を迎えたのを機会に,2005年10月25日から28日までの4日間にわたり記念国際シンポジウム“Regulatory proteins of striated muscle;structure, function and disorder(筋収縮の調節タンパク質:構造と機能および疾患)”が開催された。会場である岡崎自然科学研究機構の構内のコンフェレンスセンターに内外の関係者約130人が集まり,トロポニンおよびその他の筋収縮関連分野における国内外の代表的な研究者(国外11名,国内21名)による講演を行い討論が交わされた。わが国において開催された筋収縮調節タンパク質の国際会議としては,江橋先生が主催された熊谷・名取記念河口湖シンポジウム(1979年)以来のことになる。

 シンポジウムの前半ではトロポニン研究発展の経過をまとめるとともに,最近進歩が著しい構造生物学および医学的な側面に重点を置いて講演と討論を行った。そして後半には,ミオシン連関調節機構, 興奮収縮連関と疾患, 生筋X線回折, モータータンパク質,などの関連分野の代表的な研究者による講演を行った1)。トロポニンのセッションを終わったところで40周年を祝い,この分野の先駆者であるA. F. Huxley卿とA. Weber教授から送られてきた祝賀のメッセージが披露された。そのあとで江橋先生が83歳の年齢を感じさせない明晰な英語で返礼のスピーチを行い,トロポニン研究の総仕上げの会にふさわしい言葉の数々は参加者一同に深い感銘を与えた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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