特集 ミエリン化の機構とその異常
オリゴデンドロサイトおよびシュワン細胞の細胞体に発現するABCA2蛋白
著者:
山田勝也1
稲垣暢也2
所属機関:
1弘前大学医学部生理学第一講座
2京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学
ページ範囲:P.167 - P.171
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ABC(ATP-binding cassette)蛋白はATP結合ドメインを1分子あたり二つという基本構造を有し,よく保存された膜蛋白質の一群で,遺伝子ファミリーとしてはこれまで知られている中で最大のものの一つである1)。ヒトのABC蛋白は現在約50種類が知られており,AからGまで七つのサブクラスに分けられ,それらはチャネル,トランスポーター,レギュレーターなど多彩な機能を有する。 本稿の主題であるABCA2はAサブクラスに属し, われわれは2000年にラットで初めて全長を単離した2)。 ABCA2蛋白の機能はいまだに不明であるが,脳においてはオリゴデンドロサイトに3,4),また末梢神経ではシュワン細胞に5,6)強く発現することなどをこれまでに報告してきた。興味深いことに,ABCA2はこれら脳および末梢のミエリン形成細胞において細胞体内部およびプロセスにのみ発現し,そのミエリン部分や核には全く発現しない。この事実は,特に脳ではオリゴデンドロサイトマーカーとして用いられてきたものの大多数がmyelin basic protein(MBP)のようにミエリンに対するマーカーであるか,あるいは2',3'-cyclic nucleotide-3'-phosphodiesterase(CNP)のように細胞体の辺縁部およびミエリンをともに認識するものであったため,大変貴重であり,その機能にも強い関心がもたれている7-10)。
ABCA2が属するAサブクラスの分子群は,ABCA1が血中のhigh-density lipoprotein(HDL)が欠損するタンジール病の原因遺伝子であり,コレステロールやリン脂質輸送に関連することが報告されてから急速に注目されるようになった11,12)。Aサブクラスにはほかにも, 黄斑部変性症(スタッガード病)の原因遺伝子であり視細胞に特異的に発現するABCA4が,レチナール/ホスファチジルエタノールアミン複合体の膜輸送に関与すると考えられている13)。 一方, ABCA3は肺に非常に強く発現し14),特異的抗体を用いてヒト肺組織の免疫染色を行ったところ,肺胞Ⅱ型細胞に発現が認められた。 ABCA3は, 脂質に富んだ界面活性剤であるサーファクタントの分泌顆粒として知られるラメラ体の限界膜に特異的に発現していたことから,肺サーファクタントの膜輸送に関与している可能性が示唆されている15)。