特集 ミエリン化の機構とその異常
老齢脳におけるミエリン形成の分子機構―老化におけるミエリン化とパラノーダルジャンクションの変化
著者:
清和千佳1
阿相皓晃1
所属機関:
1東京都老人総合研究所ニューロン・グリア研究チーム
ページ範囲:P.184 - P.190
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高齢化社会を目前にして「脳の老化」が注目されるようになってきた。年老いて脳の機能が低下し,病気になる原因は多様であるが,最近の研究によれば老齢脳ではニューロンよりむしろ白質のオリゴデンドロサイト,特に髄鞘(ミエリン)そのものが減っていることが明らかにされ,そのほか脳機能低下障害や統合失調症などにもミエリンの関与が強く示唆されている1,2)。一方,骨のリモデリング機構に代表されるように,生体には様々なリモデリング機構が存在することが知られている。ミエリン形成においても脳の発達に伴って初期の新生が行われ,成熟した後は脱髄と再ミエリン化が繰り返して行われることによって機能的なミエリンを一生にわたり維持し続けることができると考えられている。このようなミエリンの新生・脱髄・再生の分子機構は深い謎に包まれていて,ミエリンの仕組みの全容解明のためにはこれらの三つのステップがセットで解明されなければ真の解明になり得ないところにミエリン研究の難しさがあるといえる。
われわれはこれまでにもミエリン形成の全容解明を目指して「ミエリンのリモデリング機構の解明」という新たな概念を提唱し,その分子機構の解明に取り組んできた。本稿ではそのなかでも特に老齢脳における脱髄と再ミエリン化の仕組みについて最近の知見を紹介する。