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特集 脳科学が求める先端技術
走査型プローブ顕微鏡の可能性
著者: 原正彦1 林智広3
所属機関: 1東京工業大学大学院総合理工学研究科物質電子化学専攻 2理化学研究所フロンティア研究システム 3産業技術総合研究所計測標準研究部門
ページ範囲:P.287 - P.291
文献購入ページに移動ナノテクノロジーを担う重要な顕微手法であり,ナノテクノロジー分野を切り開いた先駆的な発明ともいえる走査型トンネル顕微鏡(scanning tunneling microscope:STM)や原子間力顕微鏡(atomic force microscope:AFM)に代表される走査型プローブ顕微鏡1,2)は,表面・界面における構造解析に関する研究分野に飛躍的な進展をもたらしたことはいうまでもない。さらに近年では,顕微観察手法としてのみならず,原子・分子レベルに至る局所物性計測,さらには原子マニプレーション(移動)や単一分子操作(延伸)などにまで用いられている。対象物質としても,手法開発当時に多く観察されていた半導体・金属表面から,有機分子,そして生体分子へと,その範囲を広げてきた。
プローブ顕微鏡を用いた構造観察の研究で,広く一般の有機・生体分子を考えた場合3),それらの形状が多種多様で,その着目する領域が個々の分子レベルということもあり,特に生体分子の場合には3次元的な構造をいかに保持し可視化するかという根本的な問題もあって,どの分子にもあてはまる一般的な試料作製法や観察方法が確立されているわけではないことも事実である。それは,今までに有機・生体分子そのものが大気中ないしは溶液中で柔軟であるがゆえに機能を発揮してきたことに対して,無機金属・半導体系のように不純物を許さない清浄な雰囲気下で,正確に規定された表面・界面の条件のもとで議論されてきた,という違いにも起因する。その象徴として,生体分子を対象とした走査型プローブ顕微鏡観察では,実際の表面構造を表しているものではない「アーティファクト」と称される不確かな誤認像が多く報告された時期もあり4,5),特に生体分子のプローブ顕微鏡観察では,対象とする試料のそれぞれに対して,検出される像自体が実際の表面構造を表しているものか否かの判断に注意し,またそれらの問題を解決するような試料形状を検討しなければならないという背景をかかえて発展してきた。
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