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文献概要
特集 脳科学が求める先端技術
ブレイン-ネットワーク-インタフェースによる操作脳科学
著者: 川人光男1
所属機関: 1国際電気通信基礎技術研究所脳情報研究所
ページ範囲:P.315 - P.322
文献購入ページに移動脳が本当に理解できたといえるのは何がわかったときなのだろうか。脳の働きを科学的・客観的に調べることには,物理学,化学,分子生物学などにはない特別の難しさがあると感じるのは筆者だけではないだろう。脳神経の研究でも,分子を発見し,ある現象が生じる場所や時間などをつきとめる類の研究は,分子生物学,生化学,生物物理学などの確立した研究手法により長足の進歩を遂げている。しかしこのようなアプローチだけでは,たとえ細胞生物学に限定してみても,生命現象を本当に理解することはできない。生命現象の機能全体を,試験管の中か計算機の中かは問わずに,再構成する必要があると感じる研究者が増えてきた。第3期科学技術基本計画における総合科学技術会議が答申した生命科学の重点研究項目に生命現象の再構成が選ばれるのも,時代の必然だろう。物理学の生物学への進出として始まった分子生物学が,悉無的な事実(おもに物質)の蓄積を主とする学問から,理論と実験が相互作用する新しい姿に脱皮しようとしているのかもしれない。ヒトゲノム計画などに代表される,分解,分析,要素,還元論的な研究が成熟し,データが十分蓄積されれば,再構成,統合,全体,演繹的な研究が主になるのは当然である。新しい分子を発見すればそれだけでよしとする時代は終わり,生命現象の神秘を再現可能なメカニズムとして解き明かす新世紀が始まったともいえる。
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