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文献詳細

雑誌文献

生体の科学57巻4号

2006年08月発行

文献概要

特集 脳科学が求める先端技術

意識する自己への脳科学からのアプローチ

著者: 伊藤正男1

所属機関: 1理化学研究所脳科学総合研究センター

ページ範囲:P.323 - P.327

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 最近の脳科学の進歩は目覚ましいが,脳とこころの関係は依然として極めて困難な問題である。かつては,脳は固い骨と硬膜と髄液に守られていて,外界からは末梢神経を介して感覚信号を受け取ったり,脳から筋肉へ送りだされる運動信号を介さないかぎり容易に接近することができない存在であった。感覚路の切れた感覚遮断sensory deprivationや,運動麻痺による閉じこめlock-inの状態では,こころを含む脳全体と外界との間に境界線が引かれていた。現在では,知情意という,こころの3成分に対応する脳組織の働きがかなりの程度把握されるようになったし,電極を差し入れたり,磁気刺激をしたり,種々の信号を脳の中から取りだしたり,脳の内部に接近する種々の方法が案出されている。それで,脳とこころの境界が次第に狭められつつあるのであるが,狭めて行くと突如相手を見失ってしまうというのが多くの研究者の正直な感想であろう。

 客観的な機械論的な脳の過程が,どこでどのようにして意識する自己という主観に転換するのか,まだ想像することも困難な状況にある。脳の中に自意識をもつ小人,ホモンクルスが住んでいるという考えから,現代の脳科学といえどもまだ一歩も出ることができないでいるといっても過言ではない。ホモンクルスが脳の一部であることは疑いないように思われるが,ではどの一部であるかとなると答えることができない。将来,果して脳科学はホモンクルスを捉えることができるのだろうか。そのために必要なテクノロジーとはどのようなものであろうか。この論説では,現在の脳科学においてそのような可能性がいかに追及されているかを紹介し,その行方を考えてみたい。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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