icon fsr

文献詳細

雑誌文献

生体の科学57巻5号

2006年10月発行

文献概要

特集 生物進化の分子マップ 5.タンパクの3D構造

タンパク三次元構造の初期進化のメカニズム

著者: 長尾知生子1 笹井理生2

所属機関: 1岐阜大学人獣感染防御研究センター 2名古屋大学大学院工学研究科計算理工学専攻

ページ範囲:P.370 - P.371

文献購入ページに移動
 蛋白質は美しい天然構造をもつ。そのような天然構造が実現するのは,局所と全体の間に調和が取れた,特別なデザインのためであると考えられるようになった。すなわち,蛋白質の各場所を局所的に取り出すと,その局所部分のとりやすい構造は,その部分が天然構造の中でとっている構造に近い1)。そのように部分と全体が無撞着な設計になっていれば,ほどけた蛋白質の鎖は各場所から構造を作り,自発的に天然構造にフォールドすることができるであろう。この考え方は,80年代初めに郷によって示唆されたが2),その後,多くの蛋白質のフォールディングを定量的に説明する見方であることが示された3)

 さて,こうした無撞着な配列は地球上にどのようにして現れたのだろうか。大きく分けて二つのシナリオが可能であろう。一つは,無撞着な配列が前生物的な化学過程として現れ,そうした蛋白質らしい鎖がRNA世界の生命に採用され,細胞の成分となったという考え方である。もう一つは,原初の生命は無撞着でない,あまりよくフォールドしない鎖を用いており,それがDNAにコードされていたが,突然変異と選択を繰り返すうちに無撞着なよくフォールドする現代的な蛋白質に進化したという考え方である。後者の考え方は,よくフォールドできない配列が現代的な配列に徐々に進化できるという仮定に基づいている。もちろん,痕跡が残っていない大昔のことについて,上の二つのどちらが正しいかはわからない。しかし,後者の考え方が面白いと思われるのには次の二つの根拠がある。まず,ランダム配列から出発して,変異と選択によってフォールド可能な配列を選び出すことが実験的に可能である4)。蛋白質らしい配列は,ランダム配列から到達不可能な隔絶したものではない。次に,ゲノムのコードする蛋白質の半数程度の種類は天然状態では単独では定まった立体構造をとらない5)。そうした蛋白質もほかの生体分子と複合体を作るときには決まった立体構造をとるとすれば,構造が機能に必要であることには変わりはない。しかし,構造が崩れた蛋白質と,構造が決まった蛋白質が細胞の中で共存しており,その境界が鮮明でないことは興味深い。

参考文献

103:3141-3146, 2006
12:183-210, 1983
14:70-75, 2004
11:382-383, 2004
19:26-59, 2001
28:483-492, 2002
102:18950-18955, 2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?