特集 生物進化の分子マップ
12.ホルモン/生理活性ペプチド
ゴナドトロピン放出ホルモン受容体(GnRH-R)の分子進化
著者:
大久保範聡1
長濱嘉孝1
会田勝美2
所属機関:
1基礎生物学研究所生殖生物学研究部門
2東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻
ページ範囲:P.432 - P.433
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神経ペプチドの一種であるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)は,下垂体からのゴナドトロピン分泌促進を介して生殖腺を発達させるとともに,性行動を誘起するはたらきをもつ。それゆえGnRHは,生殖機能を中枢レベルで支配する最も重要な因子であると考えられている。脊椎動物からは三種類のGnRHパラログ(GnRH1,GnRH2,GnRH3)が見つかっている。しかし,三種類すべての遺伝子を保持している動物種は一部の魚類に限られており,多くの動物種では,一つもしくは二つのGnRH遺伝子が欠損していることがわかっている。例えば,ヒトを含めたすべての四足動物はGnRH3を欠損しているようである。ラット・マウスはさらにGnRH2も欠損している。複数種のGnRHをもつ動物種では,それぞれのパラログが機能分化している。GnRH1が下垂体からゴナドトロピンを分泌させる主因子として機能する一方,GnRH2とGnRH3はおもに脳内で神経修飾物質として機能する。一部のGnRHパラログを欠損している動物種においては,残っているほかのパラログがその機能を補っていると考えられている。
一方,GnRH受容体(GnRH-R)は7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体(GPCR)である。最近の研究によって,リガンドと同様,脊椎動物は複数のGnRH-Rパラログをもち,その分子進化は極めて複雑であることが明らかとなってきた。これまでに脊椎動物から同定されたGnRH-Rは,三つもしくは四つのサブタイプに分類することができる。