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文献詳細

雑誌文献

生体の科学57巻5号

2006年10月発行

文献概要

特集 生物進化の分子マップ 13.時計遺伝子

時計遺伝子の進化

著者: 吉村崇1 海老原史樹文1

所属機関: 1名古屋大学大学院生命農学研究科バイオモデリング講座

ページ範囲:P.440 - P.441

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 生物は地球の自転によって生じる24時間の環境の変化によりよく適応するために,おおむね24時間のリズム(概日リズム:circadian rhythm)を刻む計時機構を進化の過程で獲得した。概日リズムは原核生物からヒトに至るほぼ全ての生物に普遍的に観察されるため,生物の進化を考察する上で貴重な情報を提供するものと考えられる。過去10年あまりの研究によって概日リズムが「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子の転写,翻訳のフィードバック制御によって発振されていることが様々な生物種において明らかになってきた1)。ごく最近になって,葉緑体の祖先と考えられているシアノバクテリア(藍色細菌)では,時計遺伝子の転写,翻訳を停止させても時計タンパク質のリン酸化リズムによって概日リズムが発振されることが示された2,3)。この結果は少なくともシアノバクテリアにおいては転写,翻訳のフィードバック制御がリズム発振に不可欠ではないことを示唆しているが,このモデルがその他多くの真核生物に該当するかは未だ明らかにはされていないため,ここでは時計遺伝子の進化について議論したい。

 地球上に生命が誕生したとき,地球は自転していたため,あらゆる生物種において時計遺伝子が保存されていることが想像された。しかし予想に反してゲノムスケールの塩基配列の比較の結果,時計遺伝子は動物,菌類,植物,バクテリアなど,界の間ではあまり保存されていないことが判明した1)。ここで注目すべきは,時計を構成している遺伝子は異なっていても,転写,翻訳のフィードバック制御が重要であるという事実は界をまたいで共通しているということである。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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