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特集 生物進化の分子マップ 16.細胞内輸送
シナプトタグミンの分子進化
著者: 福田光則1
所属機関: 1東北大学大学院生命科学研究科生命機能科学専攻膜輸送機構解析分野
ページ範囲:P.458 - P.459
文献購入ページに移動 シナプトタグミン(synaptotagmin)はシナプス小胞上に豊富に存在するカルシウム・リン脂質結合タンパク質として,1990年にはじめて報告された(シナプス小胞をプレシナプス膜に「タグ」するの意)1)。シナプトタグミンは現在では一つの大きなファミリーを形成し,植物,無脊椎動物,脊椎動物を含む様々な生物種に見出されている(図1)2,3)。シナプトタグミンファミリーはいずれもアミノ末端側に膜貫通領域(TM)を1ヵ所,細胞質側のカルボキシル末端側にはカルシウム依存性プロテインキナーゼ(PKC)のC2調節領域と相同性をもつ領域を2ヵ所タンデムに有している(C2AおよびC2Bドメインと呼ばれる)4-7)。シナプトタグミンと同様に,カルボキシル末端側にタンデムC2ドメインをもつタンパク質は多数存在するが(例えばラブフィリン,シナプトタグミン様タンパク質(Slp)ファミリーなど)2,5),アミノ末端側の膜貫通領域の有無でシナプトタグミンファミリーとは明確に区別することができる。また,進化的に見て幅広い生物種に保存されているタンデムC2タンパク質はシナプトタグミンファミリーのみである2,5)。
ヒトやマウスなどの哺乳類では15種類の異なるアイソフォーム(Ⅰ-XV)が存在し,このうちシナプトタグミンⅠおよびⅦは線虫,ショウジョウバエからヒトに至るまで進化的に保存されている。線虫やショウジョウバエに固有のアイソフォームや哺乳類に固有のもの(Ⅲ,Ⅴ,Ⅵ,Ⅹなど)も存在しておりかなり多様性に富むが,動物のシナプトタグミンファミリーはいずれも同じ祖先に由来するものと考えられている。植物にもシナプトタグミンは存在するが,系統樹上は動物のシナプトタグミンとは明らかに異なるブランチを形成することから(図1),両者は異なる祖先タンパク質から進化したものと考えられる。相同性検索の結果,植物のシナプトタグミンに最も相同性の高いタンパク質は,酵母に存在するトリカルビン(tricalbin)というタンパク質であった2,6)。このタンパク質はシナプトタグミンと同様にアミノ末端側に膜貫通領域を1ヵ所,カルボキシル末端側にはC2ドメインを三つ連続してもつことから(C2A,C2B,C2C),植物のシナプトタグミンは進化の過程で三番目のC2ドメインを失うことによって生じたのではないかと推測されている2)。
ヒトやマウスなどの哺乳類では15種類の異なるアイソフォーム(Ⅰ-XV)が存在し,このうちシナプトタグミンⅠおよびⅦは線虫,ショウジョウバエからヒトに至るまで進化的に保存されている。線虫やショウジョウバエに固有のアイソフォームや哺乳類に固有のもの(Ⅲ,Ⅴ,Ⅵ,Ⅹなど)も存在しておりかなり多様性に富むが,動物のシナプトタグミンファミリーはいずれも同じ祖先に由来するものと考えられている。植物にもシナプトタグミンは存在するが,系統樹上は動物のシナプトタグミンとは明らかに異なるブランチを形成することから(図1),両者は異なる祖先タンパク質から進化したものと考えられる。相同性検索の結果,植物のシナプトタグミンに最も相同性の高いタンパク質は,酵母に存在するトリカルビン(tricalbin)というタンパク質であった2,6)。このタンパク質はシナプトタグミンと同様にアミノ末端側に膜貫通領域を1ヵ所,カルボキシル末端側にはC2ドメインを三つ連続してもつことから(C2A,C2B,C2C),植物のシナプトタグミンは進化の過程で三番目のC2ドメインを失うことによって生じたのではないかと推測されている2)。
参考文献
345:260-263, 1990
133:641-649, 2003
5:43, 2004
3:498-508, 2002
5)Fukuda M:Molecular Mechanisms of Exocytosis, Regazzi R(ed), 2006
6)福田光則:蛋白質核酸酵素 49:2186-2197,2004
7)福田光則:生化学 77:603-618,2005
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