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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学58巻3号

2007年06月発行

雑誌目次

特集 骨の形成と破壊

骨芽細胞分化におけるPLZFの機能的関与

著者: 池田龍二 ,   吉田健一 ,   井ノ上逸朗

ページ範囲:P.152 - P.157

 後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament, OPLL)は脊柱管内の後縦靱帯が異所性骨化し,脊髄神経を圧迫することで神経障害をきたす疾患である。OPLLは厚生労働省特定疾患に指定され,脊柱靱帯骨化症調査研究班を中心として,精力的に基礎,臨床研究が継続されている。しかしながら未だ成因解明には到っていない。筆者らは,OPLL由来靱帯細胞,骨芽細胞の前駆細胞であるヒト間葉系幹細胞(human Mesenchymal Stem Cell;hMSC)を用いて,骨芽細胞への分化に関わる遺伝子,OPLLの骨化に関わる遺伝子を同定したので紹介する。

骨芽細胞におけるRunx2/Cbfa1の役割

著者: 小守壽文

ページ範囲:P.158 - P.161

 Runx2(runt-related transcription factor 2)/Cbfa1(core binding factor α1)は,骨形成の分子基盤をなす転写因子であり,間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化に必須な役割を果たす。さらに骨芽細胞分化にはOsterix/Sp7とWntシグナルが必要とされる。まず,Runx2が間葉系幹細胞から前骨芽細胞への分化を決定するとともに脂肪細胞への分化を抑制する。そして,WntシグナルとOsterixが前骨芽細胞から骨基質を産生する未熟骨芽細胞へと分化させるとともに,軟骨細胞への分化を抑制する。骨芽細胞へ分化した後は,Runx2は骨芽細胞を未熟な分化段階に保ち,骨細胞への移行を抑制する。そして骨が成熟するためには,骨芽細胞においてRunx2の機能が抑制されていくことが必要である(図1)。

 Runx2は骨芽細胞分化に必須であるばかりでなく,Runx3とともに軟骨細胞の後期分化にも必須な転写因子であり,骨芽細胞・軟骨細胞という2系統の細胞系列の分化に必須な役割をする。Runx2自身の転写調節機構には,bone morphogenetic protein(BMP)が主要な役割を果たしていると思われるが,その詳細は不明である。また,最近様々な因子がRunx2と相互作用し,その機能を調節していることが報告されている。

 ここでは,骨芽細胞の初期分化から後期分化におけるRunx2の役割をOsterixとWntシグナルをまじえて詳述したい。

骨芽細胞分化におけるNotchシグナルの役割

著者: 坂本啓 ,   山口朗

ページ範囲:P.162 - P.165

 Notchシグナル系は無脊椎動物からヒトに至るまでよく保存されている細胞の分化制御機構である。 Notch(刻みめ)という名前のとおり, 元来はショウジョウバエの羽の形態変異に対する責任遺伝子として同定されたものである。哺乳類においても神経,表皮,消化管,筋,血管,造血系細胞など,上皮・間葉系を問わずほぼあらゆる種類の細胞・組織の発生と分化を司る重要な因子である。骨の発生あるいは再生においても例外ではなく,Notchシグナルが重要な役割を担っていることが近年明らかになってきた。

 本稿ではNotchシグナル系の概略を述べた後,われわれが研究テーマとして取組んできた骨芽細胞の分化におけるNotchシグナルの作用を最新の知見と合わせて紹介する。

軟骨分化とSox9

著者: 秋山治彦

ページ範囲:P.166 - P.170

 われわれの体を支持する骨格の多くは,軟骨組織の形成と,引き続く骨組織への置換による内軟骨性骨化で形成される。関節軟骨,気管軟骨などの一部の軟骨組織は生後も軟骨組織のまま維持され,生体内でそれぞれの機能を果たしている。軟骨細胞は未分化間葉系細胞から分化発生する。これら軟骨細胞は一方向に増殖し,基質蛋白質を分泌しながら成長軟骨帯を形成し,主に長軸方向の骨格伸長に寄与する。

 近年の研究から,これら一連の軟骨細胞の分化発生,増殖,基質蛋白質分泌などの細胞活動は,Sox9という転写因子を中心とする転写因子群によって厳密に制御されていることが明らかとなってきた(表1)。本稿では,ここ十数年の軟骨分化におけるSox9研究を最新の知見とともに紹介する。

軟骨/骨/脂肪/他組織での転写因子DEC1/DEC2の役割

著者: 加藤幸夫

ページ範囲:P.171 - P.174

 DEC1(Differentiated Embryonic Chondrocyte expressed gene-1)はヒト軟骨で発現が亢進する遺伝子として,サブトラクションの変法でクローニングしたbHLHとオレンジドメインをもつ転写因子である1,2)。一方,オルソローグであるマウスSTRA13,ラットSHARP2も独立して報告されたものの,われわれのDEC1の報告が最も早かった。われわれはさらに,bHLHドメインがほとんど同一であるが他領域の配列が異なるDEC2のクローニングにも成功した3,4)。SHARP1はDEC2と類似しているが,SHARP1はDEC2の短いminor transcriptあるいはクローニング中のアーティファクトであることがわかった3)。さらにわれわれは命名委員会と協議して,DEC1をBHLB2,DEC2をBHLH3と番号化した5)。さらにDEC1遺伝子はHES/Hairy遺伝子らとも構造類似性を示した5)。DEC1/DEC2はヒストン脱アセチル化酵素であるHDACやSirt1などと結合し,したがって一部の標的遺伝子への転写抑制作用はヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(TSA)により減少する。

 本総説では,軟骨/骨/脂肪/筋肉でのDEC1/DEC2の作用を中心に紹介し,転写因子としての一般的な特徴についても簡潔に述べる。

破骨細胞分化を調節する骨芽細胞の新しい役割

著者: 小出雅則 ,   高橋直之

ページ範囲:P.175 - P.180

 骨は吸収と形成が活発に行われている組織である。破骨細胞が骨を吸収し,骨吸収された場所に骨芽細胞が新たな骨を形成する。骨リモデリング(再構築)とよばれる現象で,破骨細胞と骨芽細胞の密な連携に基づいて行われる。骨芽細胞はRANKL(receptor activator of NF-κB ligand)とM-CSF(macrophage colony-stimulating factor)を発現し,破骨細胞を誘導することが知られてきた。最近それに加えて,骨芽細胞はリモデリングの第一段階である破骨細胞の形成部位を指定する機能も有していることが明らかになった。本稿では,破骨細胞の分化を調節する骨芽細胞の役割について,最近の知見を加えて解説する。

骨芽細胞と破骨細胞の相互作用

著者: 上原俊介 ,   森山芳則 ,   宇田川信之

ページ範囲:P.181 - P.185

1 骨リモデリングとカップリングファクター

 骨リモデリングは,破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成により成り立っている。現在のところ,破骨細胞による骨の分解がある程度進行すると破骨細胞がその場から離れ,近づいてきた骨芽細胞による骨形成が開始されると考えられている。しかし(1)骨吸収を停止させ,(2)骨芽細胞を引き寄せ,(3)骨形成を開始させる,という因子(カップリングファクター)の実体は不明である。

 最近われわれは,神経伝達物質の一種であるL-グルタミン酸が破骨細胞から分泌され,骨吸収を抑制することを見出した1)。 本稿では, 神経でのL-グルタミン酸シグナル伝達について簡単に述べた後,骨組織におけるL-グルタミン酸の役割について,われわれの知見を中心に述べる。

破骨細胞の分化および機能に伴う極性変化

著者: 滝戸二郎 ,   高石官成 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.186 - P.190

 破骨細胞は骨の破壊を担当する単球/マクロファージ系由来の多核細胞である1)。主にアクチンからなる細胞骨格は,単核細胞から多核細胞への融合,骨の認識,骨吸収,遊走など,破骨細胞の一生を通して大規模に再構築する。本稿は,その細胞内構造変化を極性というキーワードを軸として整理することにより,他細胞と共通する,あるいは破骨細胞独自の構造生成様式を理解することを目的とする。極性という単語は構造上の非対称性を意味するものであるが,生物学では研究対象である個体,組織,細胞によって様々な使われ方をされている。ここでは,破骨細胞と上皮細胞の極性を比較することにより理解を深めていきたい。破骨細胞はどのようにして付着,吸収する骨を認識するのか。この問いは,逆に破骨細胞は骨の反対側ではどのような構造を取っているのかとなる。細胞内での局所的構造は,どのような外界あるいは内在性シグナルにより作られるのか。破骨細胞はその短い生涯において目覚ましい構造変化を示すが,現在主流のgene chipを用いた遺伝子発現の解析方法とは異なり,より局所的な構造生成原理の解明を目指す立場が極性研究の指向性である。それでは,まず成熟破骨細胞における静的な基本極性を定義することから始めよう。

骨の機械的刺激への応答性

著者: 野田政樹 ,   溝口史高 ,   神田智厚 ,   林央子 ,   斉田良知

ページ範囲:P.191 - P.195

1 骨と物理的刺激の関わり

 骨の組織がメカニカルストレス応答してその量の増加をみたり,また無重力や寝たきりなどの物理的な刺激がない状態においては,骨量の速やかな減少が起こることは経験的にも明らかであり,また骨量の維持のために臨床上も重要な事項となっている1,2)。一方で,このような骨の機械的な刺激に対する応答性のメカニズムは,現在もなお充分には明らかではない。

 骨のメカニカルストレスへの応答機序は細胞がその入口となる。骨の組織の中では,骨細胞がメカニカルストレスの感受性に役割を持つと推察されている3,4)。骨細胞は樹状突起を多数持ち,これが存在する骨基質の中の骨細管において起こる液流動に伴う細胞側の応答が推察されている5)。このような骨における骨液の動きは,刺激の頻度や強さに依存しており,低レベルの刺激の強さであっても,その回数が多い場合には刺激として骨形成に有効であり,またインパクトの強い刺激などもスポーツマンにおける骨のように骨の形成を促進するとされる。さらに細胞レベルにおいても液流動によって細胞が応答するとされている。これまでin vitroでは,細胞の液流動への応答が確認されている6-14)。このような応答は血管内皮の細胞においても観察されている。骨の細胞においては一酸化窒素(NO)15,16)やプロスタグランディン16)などが液流動の刺激の結果産生され,またこれによる骨の細胞への制御が考えられている。

破骨細胞と免疫系

著者: 中島友紀 ,   高柳広

ページ範囲:P.196 - P.204

 骨は骨格系の基軸として生体を支える臓器であると共に,生命維持に必須なカルシウムの代謝器官であり,免疫系細胞の分化増殖を支える免疫組織としての一面も有している。骨代謝と免疫系はサイトカインや転写因子など多くの制御因子を共有しており,非常に密接な関係にある。そのため,生体防御に伴う免疫応答や自己免疫性疾患による免疫系の異常な活性化は,骨代謝に影響を及ぼすことになる。しかし,それぞれが個別の分野として発展してきた骨代謝と免疫系の研究は,その相互作用が正面から研究対象として取り組まれることは稀であった。

 ところが近年,関節リウマチ(RA)などの炎症性疾患において炎症や感染によって骨破壊を引き起こすメカニズムの研究が進展するにつれて,免疫系による骨代謝制御の重要性が明らかとなってきた。骨代謝と免疫系の連関を分子レベルで明らかにする最も重要な起点は,破骨細胞分化因子RANKL(receptor activator NF-κB ligand)の発見であったと考えられる1,2)。RANKLはTNF(tumor necrosis factor)ファミリーに属するサイトカインの一つであり,破骨細胞の分化に必須な役割を持つが,すでにT細胞上に発現し樹状細胞を活性化する因子として同定されていたTRANCE(TNF-related activation-induced cytokine)と同じ分子であった。RANKLおよびその受容体であるRANK,阻害受容体である破骨細胞分化抑制因子OPG(osteoprotegerin)の遺伝子欠損マウスを用いた解析などから,Penningerらは,RANKLが破骨細胞分化に必須であることのみならず,リンパ節形成や乳腺の成熟,さらには癌細胞の骨転移に重要な分子あることを生体レベルで明らかとしている2,3)。さらに,最近,生体のバリアシステムである表皮の細胞にRANKLが発現し,ランゲルハンス細胞を介してTreg細胞を制御することで自己免疫性皮膚疾患に関与していることも報告されている4)。 また, 筆者らは免疫系の制御因子として重要と考えられてきたインターフェロン(IFN)系がRANKLシグナルの制御に重要な役割を果たすことを明らかにし,活性化T細胞におけるサイトカイン産生で重要と考えられてきた転写因子NFATc1が破骨細胞分化で必須な役割を演じていることや,IFN系の細胞内シグナル伝達で重要と考えられてきた転写因子Stat1に骨形成抑制機能があることを見出した1)。このように,急速に融合してきた骨代謝と免疫系の研究領域は“骨免疫学”と呼ばれ,新規学際領域として急速に発展しつつある。

炎症性骨破壊と破骨細胞

著者: 田中栄

ページ範囲:P.205 - P.210

 炎症とは,生体組織になんらかの器質的変化をもたらす侵襲が加わった場合に,自己の恒常性を維持するために誘導される生理的な反応である。侵襲には外傷や放射線などの物理的・化学的刺激,感染,アレルギー,自己免疫によるものなどが挙げられる。炎症にともなう反応,いわゆるCelsusの炎症四徴(腫脹tumor,発赤rubor,熱感color,疼痛dolor)は,侵襲の原因となった異物の除去や,傷害された組織を修復するために惹起される生体反応であり,生体の正常な防御反応であるといえる。しかしながら,このような炎症反応が不必要に亢進したり,長期間持続したりすると,生体にとってさまざまな不都合な症状を呈するようになる。例えば代表的な慢性炎症性疾患である関節リウマチ(rheumatoid arthritis, RA)においては持続する滑膜炎によって骨・軟骨破壊が生じ,正常な関節機能が破綻して患者のADL(activity of daily living),QOL(quality of life)を著しく損ねる。また歯周病においても,歯槽骨の病的な吸収によって歯牙の安定性が損なわれ,最終的には歯牙の損失を生じることが知られている。このように炎症と骨吸収は密接な関係をもっているが,そのメカニズムが分子レベルで明らかになってきたのは最近のことである。本稿ではRAにおける骨破壊機序を中心として,炎症と骨破壊との関係について考察したい。

破骨細胞に骨吸収窩を形成するプロトンポンプV-ATPase

著者: 平郁子 ,   中西真弓 ,   二井将光

ページ範囲:P.211 - P.218

 骨組織は形成と吸収の平衡関係にある。骨形成には間葉系細胞に由来する骨芽細胞,骨吸収には造血系の破骨細胞が関与している1)。骨芽細胞が前駆細胞に接触し,破骨細胞への分化が開始される。破骨細胞は骨表面と形質膜との間に骨吸収のための環境である骨吸収窩(resorption lacunae)を形成し,プロトンを分泌して骨吸収窩内部を酸性化し,骨基質を分解するための至適な環境を作っている2)。破骨細胞の形質膜において,プロトンポンプの役割を果たしているのがV-ATPase(vacuolar-type ATPase,液胞型ATPase)である3-5)。V-ATPaseは,名称の由来のように植物・酵母などの液胞(vacuole)の酵素として発見された。動物細胞ではリソソーム,エンドソーム,シナプス小胞,メラノソーム,アクロソームなどの多彩なオルガネラに特異的なV-ATPaseが局在している。V-ATPaseが形質膜に局在している例として,破骨細胞,尿細管・介在細胞などが知られている。本稿では,どのようなV-ATPaseがどのような機構によって形質膜に局在しているかを破骨細胞を中心に考えたい。

線維性骨異形成症の分子生物学

著者: 豊澤悟

ページ範囲:P.219 - P.223

 線維性骨異形成症(fibrous dysplasia:FD)は,未熟な骨形成を伴った線維性結合組織が骨組織を置換して増生する良性病変で,病理学では腫瘍類似病変に分類される。FDの好発部位は図1に示すように,顎骨の発症頻度が最も高く,頭蓋骨や大腿骨がそれに続く1)。そのため,FDの患者は整形外科とともに歯科口腔外科に来院する機会も多く,歯科に属するわれわれにとってもFDは重要な研究対象となる疾患である。

 本症はかつて線維性骨炎や腎性骨異栄養症などの概念に包括されていたが,1942年にLichtensteinとJaffeにより新たな骨疾患として分類され,FDと名付けられた2)。1990年代には本症の病因遺伝子(GNAS遺伝子)が明らかになり,その後,cAMPやFos,AP-1,IL-6,FGF-23などの分子がFDの発症や病態に関与していることが次々と明らかになってきた。本稿では,骨の形成と破壊に多彩な臨床症状を伴うFDの発症と病態の分子メカニズムについて紹介したい。

連載講座 中枢神経系におけるモジュレーション・4

アンジオテンシンⅡによる後シナプス性自発電流の増強

著者: 横山徹 ,   尾崎由美 ,   上田陽一

ページ範囲:P.224 - P.229

 循環血液中のレニン-アンジオテンシン系は生体の血圧調節,および電解質バランスの維持に深く関与する重要な酵素-ホルモン系としてよく知られている。レニン-アンジオテンシン系の基質であるアンジオテンシノーゲンは主に肝臓で産生され,血中へと分泌される。腎臓で産生されるレニンによってアンジオテンシノーゲンが切断され,アンジオテンシンⅠが生成される。アンジオテンシンⅠはさらにアンジオテンシン変換酵素(ACEまたはキマーゼ(ヒト))によってアンジオテンシンⅡへと変換される(図1)。このアンジオテンシンⅡはレニン-アンジオテンシン系のうちで最も強力な生理活性ペプチドであり,特異的な受容体(AT1~AT4)を介して血管の収縮や水・電解質の再吸収促進など様々な生理機能を発揮し,血圧の上昇を引き起こす。また,脳内には末梢と独立したレニン-アンジオテンシン系が存在し, 脳内で産生されたアンジオテンシⅡも血圧調節や体液および電解質バランスの調節に関わっていることが報告されている1-3)(図2)。

 本稿ではアンジオテンシンⅡの中枢性作用,特にシナプス入力に対するアンジオテンシンⅡの作用を中心に述べる。

解説

造血幹細胞とニッチ

著者: 新井文用 ,   須田年生

ページ範囲:P.230 - P.236

 成体の各組織における幹細胞システムは,幹細胞と隣接する細胞・組織との相互作用によって成り立っている。この幹細胞が維持・増殖する部位は「ニッチ」と呼ばれ,幹細胞はニッチにおいて細胞周期を静止した状態に保つことで,長期にわたりその未分化性を維持している。成体における造血器官は骨髄であり,造血幹細胞により個体の一生にわたり造血が維持される。骨髄中には造血細胞以外に間質細胞が存在し,造血支持の観点から,骨髄間質細胞は造血幹細胞の自己複製・分化を制御する種々のサイトカインや細胞接着分子を産生することで,造血支持における支持細胞(ストローマ細胞)として機能している。近年,骨髄における造血幹細胞の局在が解析され,幹細胞は骨芽細胞,血管内皮細胞と接着して存在していることが明らかとなり,骨髄のストローマの中でも特に骨芽細胞や血管内皮細胞が造血幹細胞のニッチにおける支持細胞,いわゆるニッチ細胞として機能していることが明らかとなってきた(図1)1-3)。特に,内骨膜表面で骨芽細胞と接着している造血幹細胞には,細胞周期上の静止状態を維持している。骨芽細胞と造血幹細胞はTie2/Angiopoietin-1(Ang-1)のようなサイトカインシグナル,N-カドヘリンなどの接着分子を介して相互作用し,長期にわたり静止状態,自己複製能を維持していると考えられる4)

人工染色体

著者: 鈴木伸卓 ,   池野正史 ,   岡崎恒子

ページ範囲:P.237 - P.242

 染色体は生命機能に必要な遺伝情報を次世代に伝える重要な役割を果たしており,細胞周期のS期に複製され倍化した染色体は,M期に娘細胞へと均等に分配される。近年,染色体の複製,分配の分子機構の詳細な解析により各過程で機能を担うタンパク質成分やDNA配列が明らかになりつつある。出芽酵母ではこの染色体機能要素を組み合わせて酵母人工染色体(YAC)が構築され,クローニングベクターとして実用化が進められてきた。われわれはYACと同様にヒト細胞においても染色体維持に必要な機能要素を組みあわせ,ヒト人工染色体(HAC)の作製が可能であることを明らかにした。HACは細胞周期を通じて宿主細胞の染色体と挙動を一致するため,染色体機能のモデル解析系として優れているばかりでなく,新規な遺伝子導入ベクターとしての利用が期待されている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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