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文献詳細

雑誌文献

生体の科学58巻5号

2007年10月発行

文献概要

特集 タンパク質間相互作用 11.細胞接着

ビンキュリン活性化を取り巻くタンパク質間相互作用

著者: 木岡紀幸1

所属機関: 1京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻

ページ範囲:P.430 - P.431

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 ビンキュリンはインテグリンを介した細胞-細胞外基質間接着装置(接着斑)と,カドヘリンを介した細胞-細胞間接着装置の両方の接着装置に局在する接着装置裏打ちタンパク質である。ビンキュリンはアクチンと結合し,しかも力のかかる接着装置に局在することから,物理的に細胞骨格と細胞接着分子を結合させると考えられてきた。実際,ビンキュリンの強制発現は細胞接着の強化,接着斑サイズの拡大をひき起こし,細胞運動を抑制する。一方,ビンキュリンの発現抑制によって,接着斑の大きさ,数が減少し,運動能力が亢進する。また,ビンキュリンの遺伝子異常が先天性心疾患の患者に見つかっており,生体内においても力の発生(あるいは耐張力)に重要な役割をもつと考えられる。さらに近年ではこのような物理的な作用だけでなく,ビンキュリンは接着センサー,張力センサーとして細胞内シグナル伝達を調節していることもわかってきている1)

 このようにビンキュリンは多彩な機能をもつが,酵素活性をもっていない。つまり,ビンキュリンはアダプタータンパク質として様々なタンパク質と相互作用することで機能している。ビンキュリンは頭部と尾部およびそれらをつなぐプロリン豊富領域からなる。頭部にはインテグリン裏打ちタンパク質であるテーリンやαアクチニンが,尾部にはパキシリンやアクチンが結合する。またプロリン豊富領域にはビネキシンやArp2/3が結合する。しかし細胞質中では,頭部を形成するドメイン(D1-D4)が尾部を洗濯バサミのように挟み込み(図1),結合タンパク質(リガンド)との相互作用領域をマスクすることで結合活性は低く保たれている(不活性型)2)。分子内相互作用が解離する(活性型となる)と,ビンキュリンはリガンドと強固に結合することができる。頭部と尾部の分子内相互作用はKd<10-9Mと非常に強く,一方,単独のリガンドとビンキュリンの親和性は相対的にかなり弱い。このため単独リガンドの結合では分子内相互作用を切断することはできない。複数のリガンドがビンキュリンに同時に結合することでビンキュリンが活性型に移行し,その結果さらに多くのリガンドと強固に結合できるようになるという「組合せモデル」が現在提唱されている。このモデルは多くの生化学的データや複数のリガンドが集積している細胞接着領域でのみビンキュリンが活性化しているという観察とも一致する。しかし,テーリンが結合するだけでビンキュリンを活性化できるという報告3)もあり,さらなる検証が必要である。

参考文献

16:453-460, 2006
430:583-586, 2004
281:7228-7236, 2006
165:371-381, 2004
159:881-891, 2002
11:281-292, 2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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