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特集 コンピュータと脳
脳の中のコンピュータ―小脳,大脳基底核,海馬,大脳皮質の回路と物質機構
著者: 銅谷賢治1
所属機関: 1沖縄科学技術大学院大学先行研究
ページ範囲:P.10 - P.19
文献購入ページに移動1 コンピュータと脳
「コンピュータと脳」のアナロジーはどこまで有効だろうか。今日一般的なコンピュータと脳の最大の違いは,それが外部から設計,製造,プログラムされたものか,自ら進化,発達,学習により形成されていくものかという点にある。しかし,ハードウェアとしては今日のコンピュータを使いながらも,環境の中で自律的に行動し学習するロボットやプログラムを作ろうとして,試行錯誤を重ねるうちにぶつかった問題やたどり着いた解決策は,脳の構造や機能を理解する上で有用なモデルやヒントを与えてくれる可能性がある1,2)。
本稿ではまず,報酬信号からの行動学習の理論的枠組みである「強化学習3)」の基本的なアルゴリズムを紹介する。つぎにそこで必要とされる計算要素が,脳の中ではどのように実現されているのかという観点から,小脳,大脳基底核,海馬,大脳皮質の機能分化と統合の可能性を検討する。また,柔軟かつ確実な行動学習のために必要な制御機構について考察し,その神経修飾物質系による実現の可能性について議論する。
「コンピュータと脳」のアナロジーはどこまで有効だろうか。今日一般的なコンピュータと脳の最大の違いは,それが外部から設計,製造,プログラムされたものか,自ら進化,発達,学習により形成されていくものかという点にある。しかし,ハードウェアとしては今日のコンピュータを使いながらも,環境の中で自律的に行動し学習するロボットやプログラムを作ろうとして,試行錯誤を重ねるうちにぶつかった問題やたどり着いた解決策は,脳の構造や機能を理解する上で有用なモデルやヒントを与えてくれる可能性がある1,2)。
本稿ではまず,報酬信号からの行動学習の理論的枠組みである「強化学習3)」の基本的なアルゴリズムを紹介する。つぎにそこで必要とされる計算要素が,脳の中ではどのように実現されているのかという観点から,小脳,大脳基底核,海馬,大脳皮質の機能分化と統合の可能性を検討する。また,柔軟かつ確実な行動学習のために必要な制御機構について考察し,その神経修飾物質系による実現の可能性について議論する。
参考文献
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