特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
1.細胞生物学
不溶性の細胞外マトリックスとの相互作用機構を解明する新しいNMR測定法
著者:
西田紀貴1
嶋田一夫1
所属機関:
1東京大学大学院薬学系研究科生命物理化学教室
ページ範囲:P.358 - P.359
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コラーゲンは生体内に最も多く含まれるタンパク質であり,直径1.5nm,長さ300nmのトリプルへリックスが規則的に会合して,強靭な線維を形成している。この線維型コラーゲンは,真皮や腱などの結合組織において張力に対する機械的強度を与えていることに加えて,最近では,周囲に存在する細胞と積極的に相互作用して細胞にさまざまなシグナルを伝達していることが知られている。このような細胞と線維型コラーゲンとの相互作用は,発生,血液凝固,創傷治癒,免疫,癌細胞の浸潤などの生理的・病理的局面で重要な役割を果たしており,このようなシグナル伝達のメカニズムを理解することは創薬の場面でも欠かすことができない。ところが,コラーゲンは生理的条件下においては不溶性の線維を形成してしまうため,コラーゲンとその結合タンパク質との相互作用を,従来の核磁気共鳴(NMR)法やX線結晶構造解析を用いて解析することは不可能であった。
このような問題を解決するため,われわれのグループでは,複合体の分子量に制限されることなく,複合体界面を同定することのできるNMR手法として転移交差飽和(TCS)法を考案し1),コラーゲンのような不均一系に対して適用を試みてきた。本稿ではまず,TCS法の原理について解説し,本法を用いて明らかとなった二つのコラーゲン結合タンパク質のコラーゲン認識様式について述べることにする。