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文献詳細

雑誌文献

生体の科学59巻5号

2008年10月発行

文献概要

特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008 1.細胞生物学

細胞内輸送を担う分子モーターの運動機構

著者: 富重道雄1

所属機関: 1東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻

ページ範囲:P.362 - P.363

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 細胞内では微小管やアクチンフィラメントに沿った能動的な輸送によって,輸送小胞やオルガネラが効率的に目的地に運ばれている。このような細胞内輸送を担っているのがモータータンパク質(分子モーター)であり,これらは輸送小胞やオルガネラに結合し,細胞骨格のレール上を一方向に移動して荷物を運搬する。細胞内輸送に関わる分子モーターは大きく三つに分類され,アクチンフィラメント上を移動するミオシン(ミオシンⅤとⅥ,それぞれプラス端とマイナス端に向かって移動),微小管上をプラス端に向かって移動するキネシン(キネシン1,2,3),微小管上をマイナス端に向かって移動するダイニン(細胞質ダイニン)が存在する1)。これらの分子モーターは,レールに結合する頭部ドメイン,コイルドコイル部位,および荷物に結合する尾部ドメインを持ち,主に二量体として存在する(図)。輸送分子モーターの運動の仕組みは,構造生物学や一分子計測法の進展に伴い,その全容が明らかになりつつある。本稿では運動メカニズムの解明に焦点を当て,ここ十数年の間に得られた重要な知見を紹介する。

 分子モーターの運動機構の解明を推し進める大きな原動力となったのが,一分子計測技術の開発である。1995年に柳田らは全反射蛍光顕微鏡を用いて溶液中の蛍光一分子を観察することに成功し,これを応用してミオシンⅡへのATPの結合解離やキネシン1が微小管上を運動するようすを一分子レベルで観察した。その結果,キネシン1は一分子で平均1 μm程度の距離を連続的に移動することが示された2)。その後,この方法が様々な分子モーターに応用され,輸送に関わる分子モーターはすべて一分子で連続的にレールの上を運動する能力を有することが示された。一方,1993年にBlockらは光ピンセット法を用いて,キネシン1が微小管上を8nmステップ(微小管を構成するチューブリンダイマーのサイズと一致)で移動し,また最大7pN程度の応力に抗して進むことができることを明らかにした3)。その後,低負荷条件下ではATPを一つ加水分解する毎に8nmステップを行うことが示された。さらにこの方法を用いて,その他の輸送分子モーターもステップ状に移動することが示され,ミオシンⅤとミオシンⅥのステップサイズは35nm程度(アクチンフィラメントのピッチサイズの半分に相当)で,細胞質ダイニンは主に8nmステップを取るがそれより大きいステップも取りうることが示された。

参考文献

112:467, 2003
380:451, 1996
365:721, 1993
300:2061, 2003
450:750, 2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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