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文献詳細

雑誌文献

生体の科学59巻5号

2008年10月発行

文献概要

特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008 3.発生・分化・老化・再生医学

細胞集団としての概日時計

著者: 鵜飼英樹1 小林徹也1 上田泰己1

所属機関: 1理化学研究所発生再生科学総合研究センターシステムバイオロジー研究チーム

ページ範囲:P.396 - P.397

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 概日時計はバクテリアからヒトまで多くの生物種に保存された,24時間周期のリズムを作り出す生体システムである。概日時計の実体は,周期的な遺伝子発現を繰り返す時計細胞であり,研究室で何代にもわたって継代されたような培養細胞でさえも,それぞれの細胞が独立して遺伝子発現の概日振動を示す。われわれは,時計遺伝子のプロモーターの下流に半減期の短い不安定化ルシフェラーゼをレポーターとして配置することにより,この時計遺伝子発現の振動を定量的に測定する技術を開発し,一細胞レベルでもその発光の振動を測定することに成功している1-3)。哺乳類の場合,時計細胞は視交叉上核を中心に体の様々な部位に散在しており,これらの細胞が同調し,集団として刻む約24時間周期のリズムによって,個体全体のリズムが作り出されているのである。

 海外旅行の際,いわゆる時差ぼけを感じても数日内には現地の時間に順応するように,概日時計には外界の光情報を取り込んで時刻を修正する性質が知られている(光同調能)。しかしその一方で,真夜中に強い光を浴びると体内時計が一時的に停止してしまう現象(シンギュラリティ現象)が,1970年に米国のArthur T. Winfreeにより,ショウジョウバエで発見された。この現象は後に哺乳類を含む多くの生物においても確認され,概日時計に一般的な現象として認識された。この現象の説明は,Winfree自身によって理論的な側面から二つのモデルが提案されていた。一つ目は,強い光により集団内の個々の時計細胞のリズムが停止しているというモデル(図a左)。二つ目は,個々の時計細胞の概日リズムは維持されたままだが,各細胞の時計の状態(位相)がバラバラになり(脱同調),互いのリズムを打ち消し合ってしまうために,細胞集団全体としてはリズムがほぼ平坦に見えてしまうというモデル(図a右)である。

参考文献

418:534-539, 2002
37:187-192, 2005
38:312-319, 2006
11:1327-1334, 2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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